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小さいとは聞いてはいたが、ケリアたちからもらった資料を見ると、ここは予想以上に小さかった。
敷地面積でいうなら一般的な訓練所だが、その七割以上が枯れた大地という有り様で訓練生に至っては一般的な訓練所の半分以下。百人も達してなかった。
……第七まである訓練所ってなに? とは思ったが、レガリア国の国民の半分がマナを持っていれば第七まで作られるわな……。
マナという不思議な力がなければスカブ・シードは動かない。なにかすれば生まれる力でもない。
七つの『工房』が統一連合軍に寄って管理されるまでは所有する国の法律で管理されていた。
《セーサラン》の侵略で人類は統一したが、直ぐに機能する訳がない。
法律が違うようにスカブ・シードに関する扱いも国それぞれであり、訓練方法も違った。
適合率もしかり、だ。
どの国も平均すれば、六十五パーセント以上の者に乗る資格があり、一人一機で扱っていた。もちろん、軍のエリートだけに許される兵器であるから訓練は厳しく一部の者しかパイロットにはなれなかった。
当然のこと、兵力が揃うまで敵は待ってはくれない。出しては敗退の繰り返し。貴重な人材を減らすばかりであった。
各『工房』に差はあれど、スカブ・シードの生産は高い。毎日二十機は生み出される。だが、人材はそうはいかない。適合率四十五パーセント以上の者など少なく、乗りこなすまでに最低でも5年は掛かる。もちろん、軍人としての心構えと体力が整ってからの五年である。
そんなことをしていれば人類は負ける。思い悩んだ統一連合評議会は、ルールを変え、適合率五十パーセント以上。徴兵制度を作り、十五歳からマナを持つ者を集め出し、訓練時間を二年に圧縮させた。
確かに戦力は膨れ上がり、『工房』の生産力に追い付いた。
しかし、そんな喜びも一瞬。新たな問題が浮上した。
数は揃ったが質が低下。訓練所に収容しきれない。指導者が足りない。などなど、前線後方を問わず、各地から悲鳴が上がった。
更に統一評議会は思い悩んだ結果、今いる新兵はベテランチームに振り分け、訓練所は、この第七のように閉鎖された空港や一般軍事基地を改築して使用。指導者は士官学校の卒業試験という形にしたのだ。
頭の中に流れてくる情報を閉じ、目の前にいる四人の曹長(士官予備生)に意識を切り替えた。
見るまでもなくこの四人は戦場を知らず、《セーサラン》を見たこともない。訓練生よりは幾分はマシという存在である。
ケリアたちから"お願い"して手に入れた情報を入力した超小型情報収集機、リグ・レンジーへとマナを飛ばし、四人の資料を頭の中に開示させた。
……おっ。この四人もレガリア国出身だったんだ……。
それぞれ士官学校は違ったが、出身国と適合率七十五パーセントは同じだった。
……まあ、士官学校に行こうと思う者はだいたい七十以上だし、同じでも不思議ではないか……。
「では、教官から紹介してゆこうか」
所長の長い挨拶を利用して手に入れた情報を見ていたが、一時最小化させて所長を見た。
昨日の怒りは今日に残さない。そう信条にしているローディアンの表情はとても穏やかなものであった。
満面の笑みを浮かべる所長は、三十代半ばの細身の男と筋肉質の男を1歩前に出させた。
「モートン・ジャラス少尉です」
細身の男が弱々しく敬礼する。
「オルジ・ウーラ少尉です」
筋肉質の男が厳つく敬礼する。
そんな二人にネアトは一礼で応え、ネレアルは見事な敬礼で応えた。
「ケリアくんとミリアくんは昨日紹介したから良いだろう。では、オグくん。マーナくん」
見た感じ体育会系の少年とそばかすの多い少女へと視線を向けた。
この二人は知っている。昨日、真っ先に出迎えてくれ、荷物を持ってくれたのだ。
「昨日はありがとう、オグ・ケラー曹長。マーナ・オットー曹長」
2人が名乗る前にネレアルは敬礼で昨日のことを感謝した。
名前を覚えてくれたことが嬉しいのか、二人とも瞳をうるうるさせながら敬礼を返した。
……さすが防衛隊のアイドル。ファンを増やすのがお上手だこと……。
「そうか、昨日会っていたか」
「はい。二人に出迎えてもらえてとても嬉しかったですわ」
ケリアとミリアに目を向けると、なんとも表現し難い表情をしていた。
……まあ、使い分けってあるからな……。
これからネレアルのパシりになるだろうオグとマーナに同情の念を送っておいた。
人の良い笑顔で頷いた所長は、スカブ・シード教官側から職員側に視線を動かした。
その中から誰かを捜すように視線を泳がせ、一番後ろにいた迷彩服の男で止まった。
「ゴアド少尉」
職員が左右に分かれると、これから最後の決戦にでも赴くんじゃないかと思わせる雰囲気を纏わせた四十後半くらいの男が前へと出てきた。
直ぐにリグ・レンジーにゴアドの情報を出すように命令する。
「ゴアド・ノートン少尉であります」
出てきた情報にネアトは微かに眉を寄せた。
元オトラリア王国軍第七特殊機動歩兵大隊特務六課所属。階級は大尉。対テロ戦のスペシャリストで格闘の達人。第七惑星侵略戦では、国王とその家族を守りながら数百の
「ゴアド少尉は、格闘技の教官ではあるが、人員不足により基礎訓練も担当してもらっている」
続いて職員も紹介されたが、ネアトは顔と名前を覚えるだけに止めた。
紹介が終わると、所長はネアトとネレアルへと向き直った。
「2人とも士官学校は出てないが、まあ、君たちの時代から訓練は変わってはいない。昔を思い出して指導してくれれば良い。わからないことがありのならモートンくんたちに聞きたまえ。モートンくんたちも良く教えてやってくれ」
「はい」
と、ネレアルだけ返事した。
「それで二人の割り振りだが、ネレアルくんは二年生を受け持ってもらいたい。モートンくんもオルジくんも片方しかない状況で半々しか教えられない。うちには『ニドスー工房』製の訓練機が四機しかない上に百年のもので半分以上が死んでいる。君の力でマシな機体に変革してもらいたいのだよ」
ネレアルは、全訓練課程をオールSを出している。教官からも訓練生からも慕われ?最終訓練では伝説を作った。変革能力も高く、第224防衛隊の機体は、どの防衛隊より優れているのだ。
「わかりました。戦場で生き残れるように変革してみます」
……戦場で役に立つと、いわないところがネレアルらしいよね……。
「頼むよ。で、ネアト中佐には"特別班"をお願いする」
……特別班……?
資料になかった名称にネアトもネレアルも眉をしかめた。
そんな二人に所長は、これってないくらいの笑顔を咲かせた。
「疑問に思うのも当然だ。この特別班はわたしが作ったものだからね」
確かに、所長にはある程度の権限がある。訓練の増減を決めることもできた。
かくいうネアトも訓練生時代は、所長から諦められ、問題児たちと1箇所に纏められ、当時、教官としてやってきたジェリートを押し付けられたものだ。着任早々問題を起こして。
「なに、そう難しく考えることはない。君の考案した訓練プログラムは、士官学校の標準プログラムとなっている程優れたものだ。君に一任するので好きなようにやってみたまえ」
そのセリフがどれだけの上司を泣かせてきたか知らない所長は、晴れ晴れと笑った。
ネアトも素敵な笑顔で応え、今までにない見事な敬礼をして見せた。
「お任せください。統一連合軍最強のパイロットに育て上げて見ます!」
そんなネアトと所長の笑顔に耐え切れず、ネレアルは二人から目を逸らした。
……自分の死刑執行書に自分でサインするって言葉があるけど、まさか、これ程可哀想なこととは思わなかったわ……。
上司からの好きにして良いはなによりの免罪符。ネアトが1度も降格しなかった理由がそれであった。
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