宿舎施設の屋上へと、何十人もの少年少女が駆け上がってきた。


 屋上へと雪崩込んできた少年少女たちは、四方へと散らばり、平和な空へと双眼鏡を向けた。


 蒼い空には白い雲。岩砂漠の空はどこまでも広がり、地平線まで遮るものはなにもない。双眼鏡など使ってもおもしろいものはないのだが、南ロクス基地所属第7訓練所のいたるところで双眼鏡を空に向けている光景が見て取れた。


「来たっ!」


 西を見ていた一人の訓練生が叫ぶと、全員が西に双眼鏡を向けた。


 遥か遠くに光輝くものが二つ、見えた。


 一番倍率の高い双眼鏡を持つオリバー訓練生が最大に切り替える。


「おい、ラミア。くるのって星と鷹だけだよな?」


「う、うん。マリーさんはそういってたけど」


 横にいたラミアも監視用の双眼鏡を望遠に切り替え、光を確認する。


「どう見てもアレ、スカブ・ラクターとリグ・シードじゃんかよ」


「う、うん、だよね……」


 どちらも統一連合軍の英雄であり、どちらも一人でスカブ・シードを操っている。片方がどちらかに乗るなんてことはないし、自分たちの機体でくるのが通例となっている。


「しかもアレ、『ソジュア工房』製じゃんかよ」


「……そう、だよね……」


『ソジュア工房』の生産能力は、他の工房3倍も高いが、性能は1番低いため、主に適合率の低い者や光炉弾を造る前に成績の良い訓練生に与えられる機体であった。


 徐々に近づいてくる光が一つ、突然急上昇し、後方にいた光もあとを追うように急上昇した。


 螺旋を描きながらどこまでも上昇して行き、雲の中に消えると、突然、雲が爆発。目が眩むような光が空を覆った。


「な、なっ!?」


「なんだよ、突然!?」


 眩しさに目をやられた者たちが騒ぐ中、少し離れた場所で光学フィルター搭載の双眼鏡を覗いていた四人の少女は、それがなんであるか見抜いていた。


「あれが"ソルディアル・モード"か。スゴいもんね~」


「さすが銀河黄金時代の兵器。凄まじいもんだ」


 眼帯少女と丸坊主頭の少女が感嘆の声をあげた。


 遥か彼方で"光の鷹"と"光の星"が何度も激突し、凄まじいまでの光の粒が広範囲に降り注ぎ、耳を塞いでも脳を揺るがす程の轟音が轟いた。


「……なんといいますか、デモンストレーションにしては派手ですこと……」


 決して地上ではやってはいけない戦いを冷静に見ていたお嬢様少女だったが、さすがに呆れ果てた。


「アレ、手加減してるってことか?」


「仮にも幸運の星と鉄壁の鷹があんな程度だったら人類なんて灯の昔に滅んでるわよ」


「……まだ、実力の半分も出してない……」


 眼帯少女の意見に虚ろ目の少女が同意した。


 と、光の激突が唐突に消えた。


 空に静寂が戻り、見ている者が意識を取り戻した頃、今まで見たことも聞いたこともない光の爆発が起こった。


 爆心から数十キロも離れているのに、その爆風は訓練生たちの体を吹き飛ばす威力があった。


「──な、なんなんだ、いったい!?」


「んなのわかるかよっ!」


 吹き飛ばされた訓練生が騒ぐ中、滅多なことでは驚いたりしない少女たちも口を開けて驚いていた。


「……あ、あたいらも、非常識っていわれてるが、あの2人に比べたら常識人だよな……」


「そうね。まさか、光力弾を使うとはね……」


「今の感じからして双方十数発は撃ってますわね」


「……いいな……」


 驚いたは驚いたが、やはり常人とは違うところで驚く4人だった。


 光が消え、ついでに雲一つなくなり、蒼い空に戻った。


 キョロキョロと辺りを見回す訓練生たち。そんな中で四人の少女は、素早く反応していた。


 と、凄まじい突風が第七訓練所を襲った。


 それはミサイルが直ぐ横で爆発したようなもの。なんの構えもなしにいた者たちは、紙切れ同然に吹き飛ばされ、柵や壁に激突してしまった。


 手すりにつかまって突風に耐えた四人の少女は、上空を通りすぎる2機を追った。


 数キロ先で緩やかに旋回した二機は、スカブ・ラクターが上に、リグ・シードが下に移動した。


 スカブ・ラクター下部の流体金属が蠢き、リグ・シードを収める形へと変形。リグ・シードも流体金属を蠢かせて合体する準備をする。


「……機械というより生き物って感じね……」


「だな」


 シミュレーションや映像では何度も見たが、実際にこの目で見るのは初めてだった。


 まさしくこれが見本といった合体を披露し、実に滑らかに滑走路に着陸体勢に入った。


「オイオイ、あのスカブ・シード、車輪なんてついてんのかよ!?」


「信じられませんわ」


「ってことはマナ・フィールドを切ってことかよ」


「そりゃ、確かに飛行型よ。でもだからって空気抵抗を考慮した造りじゃないでしょうに!」


 マナ・フィールドとは一種の膜。その膜は防御にもなれば武器にもなり、大気圏内では航空機のような形の膜を作り出すことも可能なのだ。


 変幻自在。乗り手の意志次第でどんな形にもでき、鉄壁の鷹もこのシステムを利用して鷹の姿を生み出しているのだ。


 軽やかに着陸したスカブ・シードは、機首を格納庫に向けた。


 生き残った誘導員によって教官用の格納庫へ導かれ、反転して中へと消えて行った。


 しばらくして格納庫から軍服姿の男女が出てきた。


「あれが幸運の星と鉄壁の鷹か……」


「お姫様とその下僕ってタイトルがつきそうなくらい鉄壁の存在が濃いな」


「なんというか、幸運の星の存在、薄いわね?」


「ニュースではもっと威厳がありましたのに」


 駆けてきた2人の若い教官に敬礼する鉄壁の鷹。やや遅れて幸運の星も敬礼するが、その敬礼ときたら自分たち訓練生より様になってなかった。


 ──あんな敬礼してたら闘神に殺される。


 虚ろ目の少女以外の三人はそう思った。

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