僕は彼女の眼鏡置き

タヌキング

眼鏡置きこそ、我がアオハル

僕の名前は桐山 宗(きりやま しゅう)。

高校一年生の何処にでもいるタイプの男である。僕の容姿がこの物語に関係することは無いので説明は割愛させて頂く。

僕の隣の席の人は大平 恵(おおひら めぐみ)という、ゆるふわ系の髪を持ち、赤いフレームの眼鏡を掛けた、美少女と言っても差し支えない人である。

彼女には癖があり、それには僕に大いに関係がある。何故なら彼女は僕を眼鏡置きにしているからである。

最初に断っておくが彼女に悪意は一ミリも無い。

ただ単純に天然な彼女は、メガネを何処かに置いておきたい時、隣の席の僕に眼鏡を掛けるのである。いやはやこんな天然系ゆるふわ美少女は見たこと無いが、僕に眼鏡をかける時に顔が急接近するので、恋愛経験に乏しい僕としては、いささか刺激が強過ぎる。

彼女の眼鏡置きになると困ることは無いのだが、僕の視力は両目共に2.0、ゆえに度の強い彼女の眼鏡を付けると視界が悪くなってしまう。そのこと自体は僕にとって何のデメリットにもならないのだが、それによって眼鏡を外すと2割増しで可愛くなるという大平さんの姿があまり拝めないのが残念である。見れるとすれば僕に眼鏡をかける刹那の一瞬のみなのだ。まぁ、僕は眼鏡女子も好きなので、メガネ姿の彼女を見ても眼福になるから良かろう。



二学期が始まると席替えがあり、大平さんと離れ離れになった。

もう僕は眼鏡置きになる事は無いのだと思うと、ちょっぴり残念な気持ちになった。接点が無くなるということは、これ以上の関係は望めないということだろう。自分から女子に話し掛けるというのも気が重いしな。

しかし、ここで奇妙なことが起きた。

彼女は席が遠くなったというのに、自分の眼鏡をを何処かに置いておきたい時、わざわざ僕のところまでやって来て、やはり僕の顔に眼鏡をかけて、自分の席にフラフラと戻ってから、用事が済むと僕のところに眼鏡を取りに来るのだ。

こんなエキセントリックな行動するのは、わざととも考えたが、彼女にとって僕は愛用している眼鏡置き、ゆえに眼鏡を置きに来るわけである。誰だって道具が変わるのは嫌だもんな。

この頃になると僕は大平さんのことが完全に好きになってしまっていた。



三学期の始まり、僕は一大決心をして大平さんを体育館裏に呼び出した。

眼鏡置きの僕が勇気を出して彼女に愛の告白をしようというのだ。しかと見届けてくれたまえ。


「君のことが好きです。眼鏡置きで良いので、僕を傍に置いて下さい。」


シンプルかつ、自分が眼鏡置きであることをフル活用した告白。これで駄目なら何を言っても告白は成功しないだろう。

大平さんは最初困った様な顔をして、頭を下げながらこう言った。


「ご、ごめんなさい。」


僕の心がブロークンハート。

断られたことは仕方ないが、今宵は枕を涙で濡らすことになるだろう。良いさ、そういう青春の一ページが良い思い出になるんだよ。


「そうだよね。まともに話したことも無いのに、僕の方こそごめんなさい。これからも眼鏡置きとしては使ってよ。」


泣きそうになるのを我慢して、出来るだけの口角を上げたスマイルでそんな台詞を言うと、僕はその場を離れようとした。

しかし、大平さんは僕を呼び止めた。


「き、桐山君、違うの。私が謝ったのは、いつも桐山君を眼鏡置きにしていることを謝りたくて・・・私、無意識に桐山君に眼鏡をかける癖が付いちゃってて、本当にごめんなさい。」


「別に気にしないで良いよ。僕だって甘んじて眼鏡置きになってるのがいけないのかもしれないしさ。大平さんは何も悪いことしてないよ。」


「・・・優しいね、桐山君。私ね、眼鏡ってとっても大事なモノなの、これが無いと世界がぼやけて何も見えなくなっちゃうから、だからそんな眼鏡を預けられる人が彼氏になってくれたら、きっとそれは素晴らしいことだと思うの。」


「そ、それってもしかして・・・。」


「こんな私で良かったら、彼女にして下さい。」


その時の彼女の100万ドルの笑顔は素晴らしく、おそらく僕が死ぬ前に流れる走馬灯劇場の最後を飾ること間違い無しだった。



付き合うことになった後、僕と恵ちゃんは駅前のラーメンを食べに行き、ラーメンの湯気で眼鏡が曇ることを良しとしない恵ちゃんは、無意識のうちに僕に眼鏡を掛けた。彼女はそのままラーメンを食べ始めたのだが、僕はこの事を指摘するのも野暮だと思い、彼女が食べ終わるのを待つことにした。

その間、ラーメンは冷めて伸びてしまうだろうが、僕の彼女に対する愛の熱は決して冷めることは無いだろう。

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僕は彼女の眼鏡置き タヌキング @kibamusi

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