ぼやけた世界で、君を探して

セツナ

『ぼやけた世界で、君を探して』


 メガネを忘れて夜の街を歩く。

 暗闇に電灯や近所の家の灯りが瞬いている。

 慌てて出てきたので、愛用のメガネは家の中だ。

 そのため、夜の住宅街は夢の中のようにぼやっと滲んでいて、それが心細くもあると同時に、綺麗だとも思った。

 きっとメガネがあれば、世界は綺麗にはっきりと鮮明に映るのだろうが、それはなんだか勿体ないとも思っていた。

 このはっきりと見えない、あやふやな世界に浸っていたかった。


 一緒に暮らしている恋人と喧嘩になった。

 きっかけは些細な事だった。

 なんでそんな事で喧嘩をしてしまうのか、自分でも不思議に思ってしまうのだが、好きで付き合いが長くなると傍にいることが当たり前になってしまって。些細な事が許せなくなってしまうのだった。


 彼につい勢いで酷いことを言ってしまった事、売ってしまった喧嘩言葉に返された感情に傷ついた事。

 思い出して、視界が滲む。

 ただでさえはっきりと見えない世界が、余計に滲んでいく。

 涙が瞳からこぼれる度に、一瞬視界が良く見えるが、すぐにその世界は水の中のように滲んでいく。


 いつか彼が言った言葉を思い返す。


「全身で、全力で、感情を表す君が好きだよ」


 彼の言葉はきっと、私の好きな所を褒めてくれたのだと、落ち着いて考えれば飲み込めるのだが、それが上手くいかない時もあった。

 私はこんなに、感情に左右されてしまうのは嫌なのだ。

 もっと素直になりたいし、もっと彼に優しくしたい。


 また涙が滲んできた世界で、キラキラと輝く光があることに気付いた。

 よく目を凝らすと、それは住宅に飾られたイルミネーションだった。

 そう、思い返すともうすぐクリスマスだ。

 彼とはもう何度一緒に過ごしたか分からない。

 それでもやっぱりこの時期になると、彼からの愛がより強く欲しくなってしまう。


 そんな事を考えていると、ぼやけた視界の中で一つの人影が見える。

 はっきりと見えない世界の中で、私は遠くで顔も見えないその人が、私の大切な恋人であるという事が分かった。

 なぜなら、彼が私を追いかけてきてくれるのをずっと待っていたからだ。

 その人が彼だと確信していた私は、小走りで彼に駆けよる。

 彼は両手を大きく広げて飛び込んでいく私を、その大きな腕で受け止めた。


「探したよ」


 先ほどあんなに言い合いをしてしまったのに、とても優しい声色で迎えてくれた彼に、また涙が出そうだった。


「ありがとう」


 探しに来てくれて、見つけてくれて、ありがとう。

 彼を一際強く抱きしめた。

 ひとしきり気が済むまで抱き合った後、ゆっくりと身体を離した。

 そして、背中に回していた手をお互い繋ぐと、歩き出した。


「コンビニで、おでんでも買って帰ろうか」

「うん」

「お腹減ったでしょ?」

「うん」


 彼の言葉に頷きながら一緒に歩いていく。

 視界は相変わらずぼやけたままだったが、それでももう不安な気持ちは無くなっていた。

 きっと彼となら、どんなに心細い道でも、世界でも。

 こうして手を繋いで一緒に歩いていければ、きっと大丈夫なのだろう、と遠くに見えるイルミネーションの灯りを感じながら。

 そう思った。


-END-

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ぼやけた世界で、君を探して セツナ @setuna30

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