第1章  卒業試験と護衛員④

 卒業式の日の夜、僕達は飲みに行った。


「それじゃあ、俺達の卒業を祝って乾杯-!」


 ライの音頭で乾杯。僕以外のメンバー、ライ、ロウ、シローは一気にグラスを空にする。だが、酒に弱い僕は2口飲んだだけだった。僕以外の3人は、2杯目をオーダーする。


「俺は、100人長待遇で軍に入れる。100人長なんて、ただの通過点だ。俺は絶対に将軍になるぞ。しかも、将軍の中でも特別な存在、大将軍だ-!」

「まあ、頑張ってくれや」

「って、冷たいなぁ、レンは」

「なんで? “頑張ってくれ”って応援してるやんか」

「気持ちがこもってない!」

「だって……100人長から将軍って言われてもなぁ……将軍って、万単位の軍勢を指揮するんやで」

「100人長から成り上がるから、カッコイイんだろうが」

「だから……頑張ってくれや」

「だから、心がこもってないんだよ」

「ほな、賭けをしよう。ライが大将軍になれる方に賭ける奴は?」


 誰も手を挙げなかった。


「ほら、これが現実やんか」

「おいおい、ロウも無理やと思ってるんか?」

「過去、戦士高等専門学校卒で将軍になれたケースがほとんど無いからな」

「だから、いいんじゃないか。俺が初めてだったらカッコイイと思わないか?」

「まあ……頑張れ」

「じゃあ、聞くけど、みんなは俺が軍でどこまでならいけると思ってるんだ?」

「5千人長」

「うーん、さすがレン、いいところを突いてくるなぁ」

「3千人長」

「ロウはシビアやなぁ、まあ、現実的だな」

「千人長」

「おい、シロー、それは俺のことを舐めすぎだろ」

「その点、ロウは士官学校に編入が決まったからいいよね」

「まあ、編入出来てよかった。卒業したら、最低でも100人長、成績上位なら最初から300人長待遇だ」

「だってさ、やっぱりライは苦労するんじゃないの?」

「シローは俺に苦労をさせたいのか? 俺だって、トントン拍子で出世してやるぜ」

「まあ……頑張れ」

「なんで、みんな“頑張れ”の一言なんだよ」

「まあ、ライのことはもうええやんか。シロー、結局、大商人の護衛に決めたんやな。散々、迷ってたみたいやけど」

「うん、商人の護衛の中で、1番給料がいいところに決めたよ」

「大商人の娘に惚れられたらどうするねん? 逆玉やで」

「そんなこと考えていないよ、とりあえず真面目に仕事するから」

「シローが真面目に働くって、あんまりイメージが湧かへんなぁ」

「レン、失礼だよ。僕はバイト先でも真面目で有名だったんだから」

「そうなん? いつも飄々としてるのに、意外やな」

「そういうレンは、ソフィア様の護衛員か」

「そうやで、ロウ。この前、王宮に行ってきたわ。事前の挨拶やったんやけど、王宮は広くて迷子になりそうや。しかも、護衛員のメンバーがみんな強そうでビビったわ。みんな、オーラが違うねん。軍人より迫力があるで」

「大丈夫、レンなら通用するよ」

「ロウ、その根拠は?」

「レンが強いからだ」

「学年1番の男に言われてもなぁ……」

「でも、ソフィア様の側にいられるのって、いいよね」

「やっぱりシローはスケベやな」

「ちがうよ、そういう意味じゃないよ。僕みたいに商人のオッサンの護衛をするよりもいいだろ?」

「確かにソフィア様は美しくて儚げで、守ってあげたいと思った」

「それは、仕事がおもしろくなりそうでいいな」

「ええやろ、羨ましいか? ライも護衛員に入隊するか?」

「俺は軍隊だよ。よし、もう1回乾杯だ。俺達の門出を祝って」

「「「「乾杯-!」」」」



 その日、僕達は朝まで飲んだ。







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