第1章  卒業試験と護衛員③

 卒業式を目前に控えた頃、僕は退院した。


 これから王宮に行って、第3王女のソフィアに会わなければいけない。就職は決まっているが、事前の挨拶というものがあるらしい。僕は迎えの馬車に乗った。


 王宮まで、歩いたら相当遠いので、馬車での送迎はありがたかった。退院したものの、まだ通常の8割くらいまでしか回復していない。


 やがて、馬車は王宮の門の前で止まった。入場の手続きがあるらしい。すぐに馬車はまた進み始めた。王宮の門から宮殿まで。かなりの距離だった。


 馬車が完全停止して、僕は宮殿の前で馬車から降ろされた。降りると侍女らしき女性2人が頭を下げた。


「ソフィア様付のレン様ですね」

「はい、国立ノア戦士高等専門学校のレンです」

「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」


 侍女に先導され、僕は後についていった。

 侍女達がすごく美人で驚いた。王宮勤めを選んで良かったかもしれない。


「こちらです」


 侍女が数多い部屋の一室の前で立ち止まった。部屋数が多すぎる。これは、宮殿内のマップをおぼえるのに時間がかかりそうだ。


 侍女がノックをする。


「レン様をお連れしました」

「ご苦労様でした。レンを中へ」


 ドアの向こうから、思ったよりもか細い声が聞こえた。か細いが、かわいい声だった。これはソフィアの声なのだろうか?


 侍女がドアを開き、


「どうぞ」


と言われたので中に入った。思ったよりも広い部屋だった。


「国立ノア戦士高等専門学校のレンです。失礼します」


 中に入ると、ドアが閉められた。


 中央の奥の大きなデスクの向こうに、上品で美しい女性がいた。ソフィアだろう。ソフィアが華奢なので、デスクが大きく見えるのかもしれない。僕のソフィアに抱いた第一印象は、“守ってあげたい!”だった。


 僕は国立ノア戦士高等専門学校の礼服を着ていたが、暑くも無いのに汗が出始めた。マズイ、美しすぎて緊張してしまった。見れば見るほど、この世の者とは思えないくらいに綺麗だと気付く。


「はじめまして。第3王女のソフィアです」


 ソフィアが立ち上がった。


「座って、お茶でも飲みなさい」

「はい、失礼します」


 僕はソファに座った。すると紅茶を出された。汗は止まらない。僕はハンカチで汗を拭った。


「どうしました?暑いですか?」

「いえ、緊張しているだけです」

「ふふふ、これから私達は仲閒になるのですから、リラックスしてください」


 ソフィアの左右両側に、ただ者ではない雰囲気の男女が控えている。左右6人と7人、計13人。直属の護衛員だろう。


「あなたは、変わった人ですね」

「どこか変わっていますでしょうか?」

「いくら就職活動と言っても、卒業試験はただの試験、命をかけるほどのことではないでしょう? でも、あなたは命懸けの必殺技を使いましたね。命知らずですね」

「あの技を使った理由はあります」

「理由とは、何ですか?」

「1つは、足を痛めて得意の高速攻撃ができなかったこと。もう1つは、対戦相手のシンヤのことが文字通り死ぬほど嫌いだったからです」

「それで自爆ですか」

「死体をもてあそぶ魔術なども嫌いなんです。死者に対する冒涜です」

「私が何故あなたを指名したかわかりますか?」

「全くわかりません」

「あなたは自分が傷つくことを怖れない、強い人だからです。命懸けの仕事をしてくれる人なんだろうなぁと思いました。私の護衛員も、命懸けの仕事ですから」

「僕のことを認めていただいたのは嬉しいです。ありがとうございます」

「でも! 入隊後に命を粗末にすることは禁じますよ。勿論、自爆も禁止です」

「約束はできません。出来ない約束はしません」

「というと?」

「守りたいものを守るためなら、僕は何度でも自爆します」

「私の命令だとしても、自爆をやめると約束してもらえないのですか?」

「例えばソフィア様、ソフィア様を守るためなら自爆でも何でもするでしょう」

「頑固ですね」

「申し訳ありません。ですが、正直でありたいのです」

「わかりました。自爆の件については、また今度話合いましょう」

「すみません」

「今、私の直属の親衛隊員は300人います」

「存じております」

「親衛隊とは別に、13名が側近の護衛員です。あなたも、4月からは護衛員です」

「はい」

「今、並んで立っている13名があなたの仲閒です」

「よろしくお願いします」

「今日は、護衛員全員にあなたを見て貰いたくて勢揃いしていますが、普段は4名ずつの2交替です。彼等の紹介は、4月、入隊してからにしましょう」

「よろしくお願いいたします」

「では、今日はこれで」

「はい、失礼しました」


 僕はドアを開けて、一礼してから去った。

 ドアを開けると、先ほどの美人侍女達が控えていた。


「正面玄関へご案内します」

 


 よく考えたら、僕は方向音痴だ。働き始めたら王宮内で迷子になりそうで不安になった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る