第1章 卒業試験と護衛員②
僕は、1週間も意識不明だったらしい。気が付くと、病院のベッドだった。自爆魔法のせいで、身体中に継ぎ目が醜い傷痕として残ってしまった。が、それくらいのことは仕方がない。正直、生き返ることが出来るかどうかもわからなかったのだ。回復魔法部隊(医療部隊)に感謝しなければいけないだろう。
意識は戻ったが、あと3週間の入院を必要とした。僕が退屈する前に、ライ達が見舞いにきてくれた。
「やっと面会できるようになったな、順調に回復してくれて良かったぜ、レン」
「ライ、優勝は誰やったん?」
「ああ、勿論、ロウだ」
「ロウ、おめでとう」
「ありがとう、レン」
「ライは何位やったんや?」
「俺は3位だ。3位決定戦でシローに勝ったんだ」
「ほな、シローが4位か?」
「うん、充分満足しているよ」
「ほな、2位は……」
「わかってるだろ? あいつだよ」
「やっぱり、クラウディオか」
「そういうこと、どの試験でもずっと2位の男、クラウディオ」
「そうか……それは悔しいなぁ」
「ああ、まあ、社会に出てから苦労するんじゃないのか?あの性格じゃあ」
クラウディオは、性格が悪くて陰気なので学校中から嫌われていた。だが、ロウに次ぐ強さで、悪評をねじ伏せていた。僕からすれば、シンヤほど嫌いなわけではない。僕はシンヤほど嫌いな奴はいなかった。
「シンヤは?」
「レンと同じ、入院中だよ。シンヤも全治1ヶ月だってさ」
「シロー、間違いないのか?」
「間違いないけど、どうしたの?」
「いや、僕はシンヤを殺すつもりで大技を使ったのに残念や」
「レンは、どうしてシンヤを目の敵にするんだ?」
「ロウ達も、好きやないやろ?」
「まあ、好きか? 嫌いか? で問われると嫌いだけど」
「あいつは、学校で物や金を盗んでばかりいた泥棒やで。僕も3回、金や服を盗まれた。しかも、自分が悪さして浮いてるのに、“みんな、もっと俺を理解しろ!”と言うたんやで。まともな神経とちゃうで」
「でも、盗んだという証拠を掴めなかったんだよな」
「だけど、いつもあいつが教室に1人でいる時に誰かの物や金が盗まれてるねん、犯人はあいつしかおらんやろ?」
「みんな、シンヤの仕業だとわかってるよ」
「僕は泥棒は嫌いや。“金がほしかったらバイトしろ!”って言ってもバイトしなかったくせに、バイトして金を持ってる僕達のことを“羨ましい”って言うてたんやで」
「まあ、性格に難ありだがな」
「ロウ、もっと怒れや、って無理か。ロウは何も盗まれてないからな」
「そうなんだよな。けど、シンヤが黒魔法を研究し始めたのは気持ち悪かったぞ」
「レンを襲った動く死体、あれも黒魔術だよね?」
「そうやで、シロー。あいつは黒魔術に手を染めた男なんや」
「なんか、あいつは不気味だよね」
「そうそう、せやから、僕はあいつをベスト4に進出するのを止めたんや」
「そういえば、ベスト4だがな」
「なんや? ライ」
「レンが求めてた乱打戦ばかりだったぞ、何十合も撃ち合ったんだぜ、俺達」
「それは見たかったなぁ。まあ、その4人やったら激戦やったやろうな」
「そうだ、見せたかったぜ。あ、それから、これ」
「なんや? これ」
「レンへのラブレターだ。モテモテだな」
「ああ、スカウトの手紙か」
「そうだ、こんなにもらったら、どこへ行くか迷うだろ?」
「えーと、まず軍隊。お、100人長待遇だってさ」
戦士高等専門学校卒は、50人長からスタートする。士官学校卒は100人長から、戦士高校卒は30人長からのスタートが一般的だ。100人長待遇というのは珍しく、とても光栄なことだった。
「他には、大商人の護衛か……。こうやって見比べると、大商人の護衛って言っても商人によって待遇が全然違うんやなぁ。そりゃあ、待遇のいい所へ行った方がいいよなぁ」
「大商人の護衛もいいかもしれないよ、僕も大商人の護衛に決めようか迷ってるところなんだ」
「シローは大商人の護衛なんや……」
「まだ、決めたわけじゃないよ」
「お、公爵家や伯爵家の護衛もあるで、護衛というか私兵やろなぁ」
「貴人の護衛も、求人条件では惹かれるよね」
「ライは軍隊やろ?」
「そう思ってたんだがな……スカウトが沢山来たから、心が揺れてるんだ」
「そうか、ん? おおおお! 第3王女、ソフィア様の護衛員のスカウトや! あの、美人で聡明ということで知られている、あのソフィア様やで、おい!」
「それはスゴイな!」
「おお、冷静沈着なロウまでビックリしてるで」
「待遇はどうなの?」
「シローは待遇を気にするんやな」
「そりゃあ、そうだろう」
「待遇も最高や。月給が多い、賞与もある、現在13名のメンバーのうち、7名が女性らしいで。どうせ働くなら、女性が多い職場がええよなぁ」
「まあ、ゆっくり選べや。どうせ、あと3週間は入院なんだから」
「じゃあ、僕達は帰るよ」
「また来る、じゃあな」
「ああ、ありがとう。また来てくれや」
皆が帰った後、レンは呟いた。
「ソフィア様か……」
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