【新】ファースト ファンタジー ※改稿版
崔 梨遙(再)
第1章 卒業試験と護衛員①
その2日前から、国立ノア戦士高等専門学校の卒業試験が行われていた。一昨日は、筆記試験だった。そして、昨日は実技の予選。学科と実技でそれぞれ百点、そして審査員ポイントが100点、合計300点。その中で、少しでも高い点を獲得するべく皆一生懸命だった。この点数が、就職や進学に影響するからだ。
客席には、例年通り軍のお偉いさん方や商人の採用責任者が大勢集まっていた。貴人も参列している。商人や貴人は護衛がほしいのだろう。下級生も観戦している。今日の試験の結果を見てもらい、いろいろなところからスカウトしてもらうのが、僕ら就職組の目的だった。1学年約200人、その内女子は30~40人。200人を64人に絞り込むのが昨日の実技予選だった。
で、今日は実技本戦。それも大詰め、準々決勝を迎えようとしていた。僕はレン、ベスト8に残ることが出来た。だが、左足を少し引きずって歩いている。ベスト16の戦いで、不覚にも足を痛めてしまったのだ。僕はスピードキャラ、高速剣技が持ち味だ。だが、足を痛めては高速移動が出来ない。これは致命的だ。僕は、自分がこれ以上勝ち上がることを諦つつあった。諦めつつあったが、ベスト8は僕にとって負けられない戦いだった。
「よう、レン。よく残ったな」
友人のライが声をかけてきた。ちなみに、僕等は背が低い。僕は169cm、ライは163cm。ライは自分より体格がいい大男達を剣でねじふせるヤリ手の男だった。ライが大男をねじ伏せる姿が痛快でカッコイイと、女子の中にはライのファンがいた。僕のファンはいない。羨ましい限りだ。
「特に苦手な相手がおらんかったからなぁ。まあ、こんなのはクジ運やろ? せやけど、僕はここまでや。僕の強みは高速剣技や。片足を痛めたのは致命傷やで。これやったら、スピードは出されへん」
「まあ、ベスト8に残っていればスカウトマン達の印象もいいだろうよ」
「そんなもんなんかな?」
「この大会で優勝して、俺は軍隊に入るぜ。将軍を目指すよ」
「ええなぁ、夢があって」
「レンはどうするつもりなんだ?」
「そんなん、わからへんわ。幾つかスカウトされたら、その中で探す。特になりたいものって、今は無いから」
「もう少し欲を出した方がいいと思うぜ」
「2人とも、ここにいたのか?」
友人のロウとシローがやって来た。
「ロウもシローも勝ち残ってるやんか、やっぱり実力があるんやな」
「クジ運だ、クジ運」
「そうだよ、でも、4人とも残れてよかったね」
ロウとシローはイケメン。ロウは、万人から認められるイケメン。シローもイケメンだが、もしかすると好みによるのかもしれない。シローの涼しげな顔立ちもいいが、ロウほどではないというのが一般的な評価だ。ちなみに、ライも少し童顔だがイケメンで、この4人組で1番ブサイクなのは僕だった。ちなみにロウは177センチ、シローは180センチだった。ロウにもシローにもファンがいる。羨ましい。
大体、いつもの前期、後期の試験の成績ではロウがダントツのトップなのだ。そしてライが3番。僕とシローが4番の座を争っていた。なので、まあ、この4人がベスト8に残るのは妥当な結果だろう。だが、これからが問題だ。
「あ、ロウの試合が始まるね」
「じゃあ、先に行って来るよ」
「まあ、どうせロウが勝つだろうが、一応、応援するぜ」
「頑張ってね、ロウ」
「あれ? レンは声をかけてくれないのか?」
「ロウなら勝てるやろ。勝つと信じてるから、何も言わへんねん」
「わかった、じゃあ、また後で」
ロウの相手は学年1の大男、2メートルを遙かに越えるブルだった。体格には恵まれているが、普段の手合わせで、僕達はブルのことを怖いとは思わなくなっていた。
「はじめ!」
案の定、ロウはブルの戦斧の渾身の一撃を難なくかわして、ブルの喉元に矛の先を突きつけていた。ロウのスゴイところは、受け太刀をせずに避けられることだった。
ロウの勝利だ。これでロウはベスト4進出。まあ、優勝候補筆頭なのだから、当然と言えば当然かもしれない。1撃で大男を粉砕したロウは、観客席から大きな拍手を浴びた。特に、女子からの拍手と歓声が多かった。羨ましい。
「ただいま」
「やっぱり勝ったな、ロウ。まあ、わかっていたけど」
「おかえり、ロウ。よかったね」
「っていうか、どうせロウが優勝するんやろ?」
「勝負は、やって見ないとわからないよ」
「やる前からわかってる勝負もあるやろ」
「次は僕だね。行ってくるよ」
「おう、頑張れ、シロー。この4人でベスト4に入ろう!」
「まあ、この相手なら、シローが負けることは無いだろう」
「って、またレンの声援は無いの?」
「勝って当たり前の相手やんか」
「レンとロウに勝って当たり前と言われたら、緊張してきたよ」
「はじめ」
シローは槍術だけでいえば学年1位~2位。相手は鎖鎌を使うトリッキーな相手だったが、シローの槍術に敵うわけもなく、飛んで来た分銅を避けたシローは鎌と1合撃ち合っただけで、槍先を相手に突きつけていた。相手は、いつもの定期試験では学年20番以下の、クジ運に恵まれただけの男だった。ちなみに、名をナノという。ナノはすっきりした顔で負けを認めて退場した。自分がベスト8まで頑張れたので、清々しい気分だったのかもしれない。シローも、女性陣から黄色い声を浴びていた。
「ただいま~♪」
「上機嫌だな。勝って当たり前の相手だぜ」
「そういうなよ、ライ。ベスト4に残ったことが嬉しいんだ」
「みんな、優勝を目指してくれや。僕は足を痛めたからここまでやけど」
「そんなこというなよ、絶対に諦めるな、レン」
「ありがとう、ロウ」
「次は俺だ、行ってくるぜ」
「ライ、いってらっしゃい」
「ライなら勝てる!」
「おい、またレンからの応援は無いのかよ」
「勝つとわかってるから応援はいらんやろ」
ライの相手はタエ。女性の弓使いだった。タエが弓矢を構えた状態で、
「はじめ!」
の声が響いた。ライは最初、距離をとって様子を見た。が、ライはじっと待つのが苦手だった。ライは、スグにタエに向かって突進した。
ライも僕と同様、高速を売りにしている剣士だった。僕は大剣、ライは長剣、僕の武器が重い分、スピードはライの方が少しだけ上で、1撃の破壊力は僕の方が少し上だった。
狙いを定めたタエが矢を放つ。ライは矢を避けた。僕もライも、6歩以上離れていたら矢を避けられる。タエも普段の訓練や試験でわかっていたはずだが、6歩以内に相手を踏み込ませるのが怖かったのか? タエは6歩以上離れたところで矢を放ってしまった。次の矢を準備する時間があるわけもなく、試合は最初の矢をはずした時点でタエの負け。勝者はライだった。また、拍手と黄色い声が会場に響いた。黄色い歓声、僕はもう羨ましいとも思わなくなってきた。
「よっしゃー!勝ったぞ-!」
「ライ、はしゃぎすぎだよ」
「はしゃがせてくれ、シロー」
「だそうだ、はしゃがせてやれ、シロー」
「みんな、かっこええなぁ。ほとんど一瞬で相手を倒してるやんか。普通、準々決勝って、もっと激しく撃ち合ったりするもんとちゃうの? 激戦が1試合も無いんやけど。これってどうなん?」
「でも、俺とブルが一撃で終わるのはわかるだろ?」
「うん、まあ、ブル相手ならこの4人の誰が当たっても瞬殺やな」
「シローとルナが一瞬で決着がついたのもわかるだろ?」
「まあ、ルナは20番以下やからなぁ」
「じゃあ、ライとタエが一瞬で終わるのも当然じゃないか?」
「そう言われたら、そうなんやけど、何十合も撃ち合うような激戦が見たかったわ」
「準決勝は、そうなるよ」
「そうか、まあ、僕は準決勝を見られへんと思うけど。ほな、僕は行くわ」
「頑張れ、レン」
「怪我なんかに負けるな!」
「レンなら勝てるよ、片足を痛めていても大丈夫だ」
「勝たれへんけど、負けることも無いわ。まあ、みんな、楽しみにしてくれや」
僕は大剣を構えた。
「はじめ!」
の声で、高速移動開始。と思ったら、“痛っ!”痛めた足が止まってしまった。シンヤは、僕が立ち止まっている間に何やら呪文の詠唱をしている。シンヤは魔法の方が得意だった。
すると、地中から腐乱死体が這い上がり始めた。1体、2体、3体、4体……死者は僕を取り囲む。
「死体を操るとは、ええ趣味してるやんけ」
「まともに戦ってもレンには勝てないからな」
「腐乱死体は臭いがキツいで、白骨死体やったらアカンのかい?」
「筋肉が残っていないと、動かないんでね」
襲いかかってくるのはシンヤの操る死体。死体はまだ増えそうだった。シンヤは僕の大嫌いな男だ。僕はシンヤが吐き気がするくらい嫌いだった。こんな男がベスト4に入るなんて許せない。許さない。
僕は、一瞬の隙をついて、死体の合間をすり抜けてシンヤに抱きついた。
「秘技!自爆!」
大爆発。僕はシンヤもろとも吹き飛んだ。互いに全身がバラバラになり、回復魔法部隊は、僕等の身体のパーツを緊急治療室へ進んだ。僕はシンヤがベスト4に上がるのは阻止した。意識が無くなるとき、シンヤを止めたという満足感があった。後は、回復部隊がどれだけ頑張ってくれるか? 回復(医療)部隊に期待しよう……。
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