【百合】めがね【KAC20248】

ねこでした。

めがね委員長の素顔がかわいかった話

「手伝ってくれてありがとう。でも部活はよかったの?」


「顧問いないから休み!」


 顧問がいない日は自主練ということになっているけど、真面目に取り組んでいる部員はごく一部。私は多数派なので当然サボっていた。だから教師から面倒な作業を命じられている学級委員長の女子のお手伝いをしていたわけだ。


「やー結構量あったね」


 机の上に束ねたプリントの山ができていた。委員長はさりげなくトントンとプリントの角をきれいに合わせている。


「うん。だからすごい助かったよ。それで……?」


「え?」


「チラチラ視線感じたから、なにかあるのかなって」


「えー? ほんと?」


 完全に無意識だった。けど言われてみれば作業中に委員長の横顔を何気なく見ていたかもしれない。委員長は主張の強い性格じゃないからあまり目立たないけど、実はかなり整った顔をしている。窓から差し込む夕日に照らされる委員長を見て改めて思う。


「コンタクトにしないの?」


「いきなりなに」


 委員長が口に手を当てて上品に微笑む。仕草がいちいち女の子って感じだ。私が黙って見つめていると委員長は仕方なさそうに口を開く。


「しないかな」


「目に入れるの抵抗あるよね。したことないけど」


「んーそうじゃないんだけど……」


「あっそのめがねお気に入りだったとか」


 なぜか言いよどむ委員長に変なこと聞いてしまったかなと、反省しかけたところで。


「えっとね。裸眼の景色が好きなんだ。めがねだと簡単に外せるでしょ」


 そういって委員長はめがねを机に置く。素顔の委員長はめちゃめちゃに新鮮で貴重なものを見ちゃった気分だ。


「裸眼の景色」


 繰り返す私の言葉に、うんとうなずいてから教えてくれた。


「こうしてるとね目に映るものの輪郭がぼやけて、優しい感じがするの。曇りガラス越しに眺めているみたいで落ち着くんだ」


 初めて人に話すの、と恥ずかしそうに付け加えた。私は素で視力が2.0だから委員長の世界を味わうことができない。視力の良さを悔やむことになるなんて……。


 めがねを外した委員長はいつものキリッとしたかっこいい雰囲気が消えて、ぼんやりしててかわいらしい。


「なんか、いいね」


「ね、かけてみて」


 委員長がめがねを手渡してくる。よくわからないまま受け取る私。どゆこと……?

 とりあえず言われたとおりにかけてみる。


「わっ」


 視界がぐわんぐわんする。でも委員長の言わんとしていることが伝わった。いろんなものがぼやける。不思議な感覚にきょろきょろしているとさっと取り上げられてしまう。


「おわりー。目が悪くなっちゃうからね」


 曇りガラス越しの世界。ほんの少しだけど同じものが見えた気がした。

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【百合】めがね【KAC20248】 ねこでした。 @nukoneko

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