✕原◯子様
宮本ヨシタカ
第1話
引越し屋のトラックを見送って、ようやくひと息つくことができた。三人のお兄さんはエレベーター無しの四階建てのアパートだというのにテキパキと洗濯機や冷蔵庫を運び入れてくれて、本当に有り難い限りだ。二月の終わりに突然県外への異動を言い渡されて、会社の独身寮で手狭ながらこれといって不満もない暮らしをていた私に突然新居探しと引継ぎ資料の作成という大仕事が降ってきた。年度末のごたごたの片付けに加えて、である。
不動産屋に行ったものの「この時期はみなさんお部屋を探してまして、空いた物件もすぐ埋まってしまうんですよ」の言葉の通り、見学に行って(この部屋良さそう!)と思って店舗に戻ったら他の担当者と客の間で契約成立済み……なんてことも一度や二度ではなかった。気が付けば三月も中旬、引っ越し自体の手配も進んでおらず、仕事は引継ぎで揉めて連日残業。とても焦っていた。
だから、不動産屋の担当である清水さんから
『山口さん、良さそうな物件が出ましたが明日ご予定いかがですか? まだネットへの掲載はしてないんですけど、朝一で見学してその場で決めてくだされば山口さんがご成約ということにできます』
という留守電が入っていた時は思わず不動産屋の方角に向かって拝んだ。
一応こちらも留守電を残そうと折り返すと、清水さん本人が出た。あぁ、不動産屋はこの時期が一番忙しいんです……ってぼやいてましたものね。心の中で詫びつつ、朝一番の見学の予約を入れてもらう。『では、少し早いですが明朝八時に』そう言って清水さんとの会話は終わった。
その日は終電まで残り、「明日は異動に伴う転居のための手続きに行って参りますので午前休で」のメールを上司に出して帰宅した。知らない知らない、元凶はこんなギリギリのタイミングで異動を言い渡してきた偉い人たちなのだから。
✕原◯子様 宮本ヨシタカ @Yosi-takA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。✕原◯子様の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます