第3話 汽車
私の踊りも調子が良くなってきたところで、再び通行人に声を掛けられた。
「練習ですか?」
「はい、この子に引き込まれまして」
「この子?」
「あれっ?」
気づくと前も後ろも踊りの連は消えていた。
「どういうことだ?」
その場でふと考えていると、汽車の汽笛のような音が聞こえた。
フォーーーン
「汽車か」
観光で汽車を走らせている地域はあるが、塩尻でそれをやっているという情報は無かった。
「何かの記念イベントか」
駅の方から車道を汽車が走ってこちらに来る。
信じられない出来事に思考が停止して固まる。
蒸気の音や機関の音がだんだん大きくなる。
すると背後からも音が聞こえた。
フォーーーン
「えっ」
これは玄蕃之丞の話と一緒だった。
フォーーーン
フォーーーン
二台の汽車の距離はすぐに縮まり、私の目の前で正面衝突しようとしていた。
「危ないっ!」
ガタンガタン、ガタンガタン
慌てて身体を背けたが衝突音は聞こえなかった。
恐る恐る顔を通りの方へ向けると駅の方から来た汽車が走り去り、後ろの方で遠くなる汽笛が聞こえた。
フォーーーン
クーン、クーン。
弱々しい鳴き声を聞いて道に目をやると、おびただしい数の狐が横たわっていた。
話しの通りだ。
多くの子分を轢かれた玄蕃之丞は復讐に汽車に挑んだがかなわなかった話し。
その凄惨な光景に固まっていると肩を叩かれた。
「大丈夫ですか?」
「あっ、はい」
「顔が真っ青ですよ。
幽霊でも見ましたか」
「幽霊というか、あれっ」
道は何事も無く車が走っていた。
「ふふ、狐にやられましたか?」
指の指された方を見ると、小さな赤い鳥居に小さなのぼり旗がたくさん立つ小さな神社があった。
「稲荷神社か」
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