第11話:迷宮突破RTA@ヒュドラを添えて

「どうするグレア姉、師匠とはぐれたぞ」

「今すぐ探すよ、でも今の転移陣の事を考えると先進んで合流した方がいいと思う。それに師匠ならそうすると思うから進むの一択」

「……概ね同じ考えだな、ウィル殿は異論ないか?」

「私は迷宮に潜ったことがないので、貴方達の判断に任せます」


 転移陣を踏んでしまい、迷宮の何処かに送られた俺達は少し話し合い方針を決めた。それで決まったのはダンジョンの先へと進むこと、師匠の事なので俺達とはぐれたとならば探すだろうから。

 俺達を送った転移陣が閉じていることを考えるに、このダンジョンはランダムに部屋に送られるタイプだろう。それを師匠はすぐに察するだろうから、きっとあの人も同じ考えに至るはずだ。


「ではウィル殿、急ぐので魔法で運ばせて貰おう」


 そういう訳で俺は魔琴フェイルノートを呼び出してそれを鳴らす。

 そうすれば音が束になって彼女を包み、空中に浮かせたのだ。

 俺の持つ魔法の応用で、よく荷物を運ぶときに世話になってる物だ……俺達が本気で進めば彼女を置き去りにしてしまうので使うのが最善手であろう。


「聞きたいのですが、この迷宮をどうやって攻略するつもりですか?」

「そうだな、まあ全力で駆けるのが一番だろう。俺が後衛、グレア姉が前衛を務め最短で駆け抜ける」

「了解です。ですが、この魔法を使う意味は?」

「すぐに分かる――では行くぞグレア姉、準備は出来た」

「おっけー、じゃウィルさんの事を任せたよ」


 姉も姉で愛剣を呼びだし、軽く伸びをしている。

 そして俺の言葉を聞き走る事を決めたみたいで――一気に地面を蹴って駆けだした。その衝撃で地面が崩れたが、俺はそれを飛び越えながらも後に続く。


「探知は任せろグレア姉」

「――頼んだよ」


 魔琴を奏でながら周囲を探知し、音の響きの違いで敵を探知する。

 そして見つけた数匹の魔物を標的にし、見かけた先から音で作った矢で貫く。

 グレア姉に任せるのは目の前の障害物の破壊と、俺の通常の矢では倒せない硬い魔物の処理だ。


「来るぞ前方から三匹だ。後ろの二人は杖を持っているからメイジだろう」

「じゃそっち任せた。魔法は面倒くさいからね」

「任された――やり過ぎるなよ」

「そんなの分かてるって」


 現れたのはダンジョンの行く手を塞ぐ鉄塊と見間違えるような鎧の魔物。

 種としてはリビングアーマーという魔物だが、ここまで大きいのは初めて見る。俺の弓では貫くことが出来ないだろうし、姉に任せて正解だっただろう

 

「鎧は砕くに限るよね」


 姉と対峙してしまった哀れなそいつは、数十秒も持つこともなくスクラップへ。

 一撃目で胴体をへこまされ、その反動で駆け上がったグレア姉に上から叩き潰されてしまった。

 あまりの瞬殺劇に唖然とする後ろの二匹の魔物、そんな隙を見逃す俺ではないのでそのまま矢で射貫いた。


「よしあったよ転移陣」

「乗るぞ。そうだ酔ってないかウィル殿?」

「い、一応まだ大丈夫です。それより無茶苦茶ですね貴方達」

「――まあエスタ師匠の弟子であるからな、あの人を目指す以上普通でいられん」

「あの人、そんなに強いですか?」

「ああ、俺等の師匠であり憧れであるからな」


 転移にかかるまでの時間で少し話をして、俺達は辿り着いた部屋を見渡す。

 すると目の前に広がっていたのは百を超える魔物の群れ、俗に言うモンスターハウスのような部屋に送られた俺達はすぐにそいつらに囲まれた。


「へぇ、殺しに来てるね」

「そうだな――まあここは任せてくれ」

「あー確かに、多数ならスタンの方がいっか」


 俺の言葉で何をしたいのか察し耳を塞ぐグレア姉。

 防壁内にいるウィル殿には届かないようにして、俺は普段使うのとは別の絶技を使うことにした。

 

「絶技――死神の揺籃歌ようらんか


 やることは単純、部屋全域に届くように音を二回鳴らすだけ。

 部屋にいる全ての魔物に届くように奏でたその演奏、二度目の音が鳴り響いた瞬間に部屋にいた全ての魔物が切り刻まれた。

 原理としては音を聞いた奴をマーキングし、そこに切断に特化した矢を放つだけ。

 どうやらこの部屋にいたのは脆い魔物だけだったらしく、俺の矢に耐えきることは出来なかったらしい。


「グレア姉、奥の方に転移陣があるぞ」

「ナイス、それにしてもエグいよねそれ」

「……あぁ、師匠には一切効かない技筆頭だがな」

「……えっと、それはしょうがないと思うよ?」


 この技は魔力消費が大きい分、不可視の斬矢を全方向から同時にたたき込めるというかなり強い技ではあるのだが、エスタ師匠は普通に避ける。

 本人曰く勘らしいが、どうしてほぼ回避不可能なこれを避けれるのだろうか?

 何より当たってもダメージにすらならないのがおかしい。


「火力不足ではあるしねその技、硬いと通らないから仕方ないって」

「……どうせこの技は雑魚狩り専用だ」

「まだシンク達の言葉気にしてたんだ」

「……あいつらにも効かないからな」


 シンクというのは俺達の次に拾われた双子狼人の姉の方。

 火力や機動力に絞れば俺達の中で群を抜き最も誰かを殺す事に長けている奴であり、妹の方とは全く似てない問題児。

 口は悪いが、弟子内の勝率が一番高いのもあって苦手意識がある。


「そういえばさスタン、これ転移陣使う必要あるのかな?」

「それは……思えばそうだな」

「これぶち抜けば良くない? 多分崩れないでしょ」

「なら任せるぞグレア姉」

「おっけー」

「……あのどうするつもりなんですか?」


 そんな俺達の会話を聞き、恐る恐る聞いてくるウィル殿。

 確かに俺達は分かっているが、殆ど初対面であろうこの人は察せないのは当たり前。ちゃんと説明しなければいけないだろう。


「グレア姉の絶技で穴を開ける」

「……えっと崩れたらどうするんですか?」

「俺が補強する――それなら大丈夫であろう。時間も無いし速くやるぞ」

「うん、力加減は頑張るね」


 そして放たれるのは抑えられた明けの明星。

 直線に放たれるその光線はダンジョン内に穴を開けた。

 そして俺達は開いた穴に飛び降り――それを繰り返す。

 障害物も魔物も関係なくグレア姉によって灰になり、それが数十回ほど終わったところで――不意に目の前に転移陣が現れて俺達を飲み込んだ。

 そして強制的に転移させられたのは見るからに今までより気合い入った造りの部屋。その部屋の中央には巨大な体躯の九つ首の魔物がいて、明らかに俺達を見て怒っているようだ。


「見たことない魔物だね」

「そうだな、ウィル殿は分かるか?」

「……これ、ヒュドラじゃないですか? 神代にいたとされる伝説の」

「えーでも、神代の魔物がこんなダンジョンにいるのかな?」


 怯えるウィル殿と、全く恐れてない様子のグレア姉。

 そんな二人を見ながらも俺はこの部屋に別の者がいる事に気づいた。


「おい、出てこい」


 人ではないが魔物でもない気配に警戒し、威嚇として矢を放てば部屋の隅から何者かが現れる。


「ひっ、あの――なんでバレるんですかぁ! もう良いです、やっちぇえヒュドちゃん!」


 侵入者である俺達以上に怯えた様子の翠色の髪をした魔族だろう少女。 

 そんな彼女が命令すれば、ヒュドラが動き出し俺達に襲いかかってきた。

 

「本当に散々ですよぉ! やっとお客さんが来たと思ったら任されたダンジョン壊されるし、捕まえたエルフには逃げられるし、何よりどのギミックも壊されるしで最悪です――この怒りも憎しみも全部貴方に任せますヒュドちゃん!」

「あのさ、君がダンジョンの管理者で良いの?」

「そうですが!? 嫌味ですかぶっ殺しますよ!?」

「そっか、なら貴女倒せば師匠と会えるよね」

 

 グレア姉から発される殺気、それにより怯えヒュドラの後ろに彼女は隠れたのだが……それを許す俺達ではなかった。

 俺が全力で魔琴を奏でヒュドラの首が全て落ちる。

 そして姉が本気で斬り掛かり、ヒュドラの体は両断された。


「……あのぉ、仕切り直してもいいですか?」


 あまりの瞬殺劇に怒りは一瞬で冷めたのか、再び怯える魔族の少女。

 そんな彼女にグレア姉は剣を持って詰め寄り……。


「駄目――師匠出して、管理者なら転移陣操作できるでしょ?」


 そう言って、彼女を脅した。

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