第10話:転生邪神、推し作家と話す

「ふむ、つまりは君には何人かの弟子がいて。それを育ててきたわけだね」

「そっすね」

「それで、ここ数年ずっと頑張ってきたと」

「ああ」

「それはいい――つまり君は誰かの師匠って事だ」


 推し作者に出会って数十分、俺は彼女に取材されながらもダンジョンを進んでいた。ランダムに移動させられるのも慣れてきて、余裕が出てきたのだが……。

 俺としてはどんな状況よりもつらい現実に遭遇していた。

 どんな状況かって? ……そんなの推しの作者に今までの事を語るという理解したくない何かだ。

 だってあれだぞ? 俺は彼女の小説の師匠キャラに憧れて皆の師匠になった。

 そんな俺の憧れを作った彼女に対して、今までの師匠生活を語るという最早拷問に近い現実に胃を凄く痛めていた。


「知ってるかは分からないが、私は冒険者と同時に作家でね。俗に言う師匠と弟子がメインキャラの話を書いているんだ」


 そんなの知ってますが? 

 なんなら最新刊以外は全部初日で揃えているが? 

 だが。そんな事を推し作者の前で公言するのは引かれかれないので言葉を飲みみこんで彼女の続きの言葉を待つ。

 

「私は昔にある者に聞いた師匠と弟子の関係に憧れてね――本が好きだったことから書いたという経験があって、師匠という存在を尊敬しているんだ。だからありがとう、私と出会ってくれて――君から聞いた体験談は活用させて貰おう」


 そんな言葉に心臓が止まりかけながらも、俺は彼女がメモをしまう様子を見る。

 驚くほどに分厚い年季の入った古いメモ帳、彼女の話の中で聞いたがそれにはエルフである故の長い生で取材した事を全て記録してあるらしい彼女の宝物らしい。

 つまりは聖書と言ってもいいもので、彼女と同じぐらいに大事に守らなければならないだろう。


「ところでエスタ、君は弟子と共に私の救出依頼に来たとのことだが、やはり転移ではぐれてしまったのかい?」

「そうだな、あいつらなら大丈夫だと思うが……目的も達したし早く合流したい」

「そうだね、私も君が育てたという他の弟子を見てみたい」

 

 何か引っかかるような言い方。

 そういえば、なんか妙に好感触で接してくれているが……俺達って初対面だよな。

 記憶の限りこんな美人なエルフは見たことないし、もしも面識があったら嫌でも気付くはずだから。


「……そういえばなんだが、先程から魔物を見ないな」

「あー、さっき迷路を破壊したせいで逃げたんじゃないか?」


 本当は魔物だけに感知出来るように俺の魔力を発し威嚇してるだけ。

 少しでも魔物による被害を減らしたかったし、守りながらというのは難しいかも知れないからこういう手段を取った。

 

「そうか、先程の大きな音はやはりエスタだったのか、どう破壊したか聞いてもいいかい?」

「ゴリ押しだからなんとも――一応、この剣使って進んだ感じだけど」

「そうかい、よく見せて貰っても?」

「いいけど、刃には触れるなよ。危ないから」

「大丈夫だそこは絶対に気を付ける」


 そうして、そんな風に話ながらもダンジョンを進んで行き……俺はふと気になった事を聞いてみることにした。


「えっと、シャルさんこのダンジョンでどういう景色を見てきたんだ?」

「色々見たけれど、一番驚いたのはヒュドラがいたことだ」

「……ヒュドラって、神代のだよな?」

「あぁ、長く生きた私ですら初めて見たが……あれは確かにヒュドラだろう」

「神代の魔物がいるとは思ったけど、よりによってヒュドラかよ」


 それを聞き、思い出すのは神代の事。

 ヒュドラというのは邪神友達の一人が作った魔物の一匹、量産され戦争兵器として使われていた存在なのだが……それの強化と試運転のために俺が駆り出されてなんど戦わされたことか。

 給料はくれたけど、日に日に強くなるせいで対処が面倒くさかった……何より再生能力と神という種族特攻を持った毒を使うからいつも死にかけたし。

 あー……本当に嫌な思い出だけが思い出されてしまう。

 良いことと言えば、それの給料のおかげで良い食べ物を食べれたぐらいで、それ以外のヒュドラに関する記憶は基本最悪。

 弟子達が遭遇する可能性を考えると先にその階層に到達して倒さないと危ないかも知れないし、一気に不安要素が出てきた。


「シャルさん、ちょっと抱える――急ぐぞ」

「む、それは助かるよ歩き疲れたからね」


 彼女を背負って、今渡っている橋みたいな崖を飛び降りる。

 そしてそのまま剣を構えて、魔裂斬。

 空間そのものを対象にしてダンジョンに穴を開けることにした。

 あいつらの強さを考えるに道中の魔物は相手にならないだろう。だからサクサクと進んで行く筈で――多分時間がない。

 だからショートカットで進むことにした。

 

「凄いな、こんな攻略法があるのか!」

「――完全にゴリ押しだけどな、っとヒュドラの反応はこっちか」


 浮遊魔法を平行して使って、魔力感知でいるというヒュドラを探す。

 ダンジョンがあるだろう馬鹿範囲に感知を巡らせ、そしてある段階でヒュドラらしき魔力を持つ存在を捕らえた。

 見つけた事でルートは分かったのでそっち方向にある壁に穴を開けて突き進む。

 頭の隅に本気で切れてる友人の姿が過ったが、振り払ってヒュドラの部屋前にやってきた。

 いつも通りボス部屋の前には回復できる魔法陣を置いてある親切設計なこのダンジョン……相変わらずの拘りに少し笑うも、すぐに切り替え部屋に入る。

 そして、部屋に入った俺達を待っていたのは……。


「でさ、師匠どこ? 教えないと斬るよ?」

「知っているか? 人間は音だけでも拷問をすることができるんだぞ?」

「……道中でも思いましたが、この人達まじで容赦ないですね」


 愛剣を持って魔族らしき人に詰め寄るグレアと、その横で魔琴を構えるスタン。そしてあまりにも無惨に切り刻まれた神代で見慣れた魔物の姿だった……。

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