第9話:転生邪神、ダンジョン壊して突き進む


「一部屋目の転移陣はあいつの性格的に……あと三つはあるだろ」


 このダンジョンのというか、あいつが作るダンジョンの転移陣の仕組みは知ってる、なんなら嫌という程に聞かされたからそこに関しては問題無い。

 問題があるとすれば、あいつが本気で作っただろうこの迷宮を一人で攻略しろとろかいう無理難題を強いられている事だが……。


「ビンゴ、これは簡易的な乗ったら作動するタイプだな」

 

 巧妙に隠されている転移陣の痕跡を見つけ、俺はすぐさまそれに乗った。

 罠がある部屋に繋がるかも知れない――それに、転移が完全にランダムとなってこれに安心できる要素など一切ない。

 転移陣の特徴から、もうこれはあいつが作った迷宮である事は確定なので気を引き締めて待っている部屋に臨む。

 着いた部屋、それは一見すると変哲のない迷路のような造りをしていた。

 ……しかし、あいつがそんな退屈な仕組みの迷宮を用意するわけがなく注意して進んだ瞬間に迷路が変わった。

 最初は決まった変化を繰り返していると思ったが、不規則な変化に何が起こってるかを理解する。

 

「まじで厄介な迷路作りやがって」


 結論を出すとするならこれは生きた迷路だ。

 変化に必要な魔力が残ってる限り無限の変化を繰り返す意志はないが生きている迷宮、細かい原理はこの短い時間じゃ理解出来無し、そもそも専門外だから何も分からないが、本当に頭がおかしい。

 しかも何が酷いって、さっきからゴールを目指してるが不定期&不規則に変わり続けるせいでゴールが見えない。

 一応完璧主義者なアイツの事だし、脱出できない迷路は作らないだろうが転移陣と同じでランダムだろうこの生きた迷路部屋を脱出しろとなどどんな無理ゲーだ。

 そしてまた辿り着く行き止まり、見ればその部屋は少し特殊で石版みたいなのが備え付けられていた。


「ん、なんで石版? あいつにしては珍しいな」

 

 あいつは説明は省くタイプだし、何より作って満足してあとは放置の精神の奴だ。

 作った作品ダンジョンがが最高の自己表現だと思っている質で、それ以外は語らないそんな奴。だからこそあいつにしては不思議だなと思い、それを――石版を見てしまった。


『拝啓この迷路に迷い込んだボクの知り合いらしき人へw』


 始まりの分はそんな感じ、神代文字で書かれたそれはなんか見た瞬間から無性にたたき割りたくなってしまう。


『改めててぇんさぁいなこのオレが作った迷宮へようこそ、この迷路は邪神かそれに準ずる者が迷いやすくなってるオモシロ迷路でございやす――とにかく頭と魔力をを使って解いてね! ま、基本脳筋な邪神達に解けるとは思ってないけどw』


 そういえばこんな奴だったよなと、一瞬にしてそいつの性格を思い出し――なんかイライラしてきた数秒後、文字を追っていればまだ続きがある事に気付いた。


『PSもしも迷い込んだのが親友であるエスタだった場合♡』


 ……それを見て猛烈に嫌な予感と苛つきを感じてしまったが、一応無視して読み進める。


『お前みたいな完璧で究極の脳筋が迷路を解けると思ってないから生涯そこにいるといいよ(笑)、どうせオレの完璧なダンジョンは壊せないしね!』


「――こいグラム」


 呼び出すのは長年付き添っている愛剣。

 呼びかけに応じてすぐに現れてくれたその武器は、禍々しさを感じさせるような気配を放っていて触れる物を全て斬り裂くような錯覚を覚えさせてくる。

 普段はあまり呼ばず、刀ばっかり使ってるが――なんかもう遠慮がいらない気がしたからこれでいい。


「絶技――魔裂斬」


 本気を込めたその一撃は、迷宮の壁を破壊する。

 ――そして。


「魔裂斬、魔裂斬、魔裂斬――魔裂斬」


 機械的に淡々と、前に進むために技を使う。

 迷宮の壁を壊したせいで中にいた魔物が出てきたが、それは知らない。そこにいたのが悪いし、巻き込まれる可能性を考慮しなかった魔物が悪い。

 理不尽? そもそもこんなクソみたいなダンジョン作る方が悪い。

 

「魔裂斬、魔裂斬、魔裂斬!」

 

 なんかもう楽しくなってきた先で迷路を進みながら完全に破壊した俺は、ずっと使っていた探知魔法に誰かが引っかかったのを感じる。

 迷路を出た先にあったのは切り株。

 妙に整えられたそれの中からは、誰かの気配と魔力が漂っていた。 


「――えっと、何だこれ?」


 見つけた切り株の中にいたのはなんか苔と茸が生えている誰か。

 どれだけ長い間同じ場所から動かなかったらそうなるの? って聞きたくなるような程に自然と一体化してる何者かだった。

 あまりにも動かないせいであいつの趣味のオブジェかと思ってしまったが、微かに呼吸する音が聞こえるし多分きっと生物……てか人だろう。


「大丈夫か?」

「おや……もしかして助けに来た誰かかい?」


 声をかけてみれば帰ってくるのは案外元気そうな声。

 よいしょと立ち上がり苔と茸を払ったその人は、見るからにエルフ。しかもタダでさえ美形なエルフの中でも一際と言える程に整った容姿を持つ女性であった。


「初対面なら自己紹介が大事だというよね、というわけでシャルロッテ・アマリエだ。しがない作家で冒険者、で……現在進行形で出られなくなってる愚者筆頭、以後よろしく頼むよ救出者殿」


 告げられる名前は既知のもの、昼頃に聞いた名字を名乗りなんかそれだけでキャラが濃いよなと思えるようなその人は、何故か楽しそうにそう言った。


「では手始めに君の事を取材させてくれたまえ」



 

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