第7話:転生邪神、推し絵師に出会う
「ねぇスタン、師匠どうしたのかな?」
「……分からないが上機嫌なのは確かだ」
急に森に向かうと言った師匠の後を着いていきながらも、俺は耳打ちしてきた姉に答えた。
「確かにね……ほんと、どうしたんだろ」
「そうだな、だが良いことであろう?」
「まあうん……強くなったところ見て貰いたかったなぁ」
本来なら俺達が成長した姿を見せるために彼を護衛しながら進む予定だったのだが、意気揚々と前に出た師匠が現れる魔物を瞬殺するせいで出番がなかった。
珍しく上機嫌な師匠の勇士を写真に収めながらも、ここまでの様子は久しく見てないので疑問を覚えてしまう。
「……あ、ダッシュワイバーンだ珍しいね」
森に近付き現れたのは、ワイバーンの亜種。
空を飛ぶのを止め走る事に特化した生態をしているその魔物は対面した師匠に襲いかかったんだが――起こりのない剣戟を受け絶命した。
「魔石回収しておくか……」
消化不良……と、いうより出番がないこの道中。
音を奏でれば矢が放たれるのに、それを奏でることすら出来ない中で上機嫌な師匠を見守るしか癒やしがなかった。
「しかし師匠の事だ、急に森を目指すとは何か考えがあるのだろうな」
「まあそうだよね。案外新しい子でも拾いに来たんじゃないの?」
「いや……それは、ないとは言えないな。師匠の事だいつものように俺等のような子供の気配でも察したのだろう」
「新しい家族は歓迎だけど、聖都に向かう途中なんだよね今……」
「聖都? ……そういえば聞いてなかったが、何故王都に師匠達は来たのだ?」
そこで来た理由を聞けば、グレア姉は師匠を聖都にある学園の教師に推薦したらしく今はその道中らしい。何故……と、そう思ったがグレア姉の事だし考え無しという事はないだろう。
「む、聖都という事はアリアさんも関わってるのか?」
「推薦したらノリノリでおけって言ってたよ。久しぶりに会えるって事で喜んでた」
「それなら急いだ方がいいんじゃないか? 遅いとあの人の事だし泣くだろう?」
「うん、泣くというか拗ねるそれも凄く」
エルフの中でも幼い彼女、見た目的には俺等と変わらないが師匠の事になるとかなり拗ねる。相手すると面倒くさい事この上ないし、俺等が時間取ってるとバレると更に厄介なことになるだろう。
「……なんか魔物出たことにしよっか」
「俺等を足止め出来る魔物などそうそう出るか?」
「それは……無理かなぁ」
贔屓目無しに俺とグレア姉は強い、というか師匠の弟子は軒並み強いのだ。
そんな俺達を手こずらせる魔物などこの周囲には殆どいない――それこそ魔族の領地などに行かなければいけないだろう。
しかもグレア姉の冒険を考えるにそこに行っても怪しいのだ。
そんな風に上機嫌な師匠を見守りながらも森に入り、迷い無く進み師匠の後をついていく。
――――――
――――
――
シャルさんがいるだろう森の中を進み、俺は目標であった森の家を発見する。
本屋の爺さんから他に家はないと聞いたし、何より貰った地図が示しているのはここだから場所は間違ってないだろう。
とりあえず扉をノックして返事を待っていれば、一人の翠髪をしたエルフが顔を出してきた。
「……誰ですか?」
「えっと本を買いに来たんだが、残ってるか?」
「すいません、今先生はいないので販売してません」
「まじかぁいつ頃帰ってくるか分かるか?」
「先生は今取材で最近見つけたダンジョンに潜ってるのでいつ頃かは分かりません」
「……その話ってマジだったのか」
昔から言われてる話としてシャル先生は取材としてダンジョンや魔物が溢れる危険地区によく行っているというものがある。
噂だと思ってたが、同居人らしいこのエルフからの言葉だし信じて良いだろう。
「あ、でも数日前にちょっとしくじったから来て欲しいって連絡が来ましたね」
「それ行かなくていいのか?」
「……先生ですし、一年ほど連絡なければ心配はしますけど」
流石のエルフの時間感覚だな。
まあ……それに関しては長命種以上の寿命を持つ俺からするとなんとも言えないけどさ。とりあえず現時点の情報をまとめるにシャル先生はダンジョンに取材に行ってるだろうって事と、その作者は今ピンチかも知れないと……。
「あ、追加でなんか来てますね。えっと『まじぴんちやぁばい』らしいです」
「それはヤバいのか?」
「過去一やばいかと、あのここまで来たって事は強いですね貴方達」
「一応?」
「それなら救出依頼をしてもいいですか? 報酬は払うので」
「いいけど。大丈夫なのか初対面の奴らに頼んで」
「はい、なんか私の勘がビビッと言ってるので」
勘なんだ……と思いつつ、エルフらしいなと思う。
俺の弟子の一人のアリアも基本の行動原理が勘な事もあって大変だったのは良い思い出だ。
「あ、自己紹介がまだでしたね。先生……というか馬鹿姉さんの妹のウィル・アマリエです、短いでしょうがよろしくお願いします」
「え、ウィル?」
「そうですが……何か?」
「えっとシャル先生の専属絵師の?」
「そうですね。挿絵を描いてるだけのモブですが、知ってる人がいたんですね」
「……まじか、あとでサイン貰っても良いか?」
「いいですけど、変な方ですね」
この人があの神絵師なのか……え、サイン貰えるの?
ウィルというのは、謎が多かったシャル先生が唯一許した絵師らしく、同時に編集もやってる人のこと。
つまりはこの人がいなかったら俺は師匠ポジに憧れることもなかったし、ここ数年の生活はそもそもとしてはじめから存在しなかったと言える。
つまり何が言いたいかというと……このエルフは神であり推しである。
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