第6話:転生邪神、王都で食べ歩きをする

 王都の一角、様々な店が立ち並ぶその場所を俺は弟子二人と歩いていた。祭りが開かれているのか出店もあり、そこはとても賑わっている。


「エスタ師匠、この鳥の串焼きは俺もよく食べるんです」

「へぇ……あ、タレがうめぇ」

「師匠師匠、私が買ったイカ焼きも食べて!」

「イカ焼とかもあるのか……まあ海近いもんなこの国」


 前世でいう所のギリシャと似ているこの国は海に面しており海産物が有名だ。

 あとは惣菜パイみたいな物もあるようで、普段この辺りに来ない俺からするとどれもが新鮮だ。

 それから数十分後の事、どんな物があるんだろうなとキョロキョロと何かに視線を送る度にそれを二人が秒速で買ってくるという事が繰り返され……なんか荷物が凄いことになっていた。


「馬鹿スタン? 次は私が買うから大人しくしててくれない?」

「姉よ二回ほど多く買っているだろう? ――俺にも師匠のご飯を買わせてくれ」

「……なあお前ら?」


 あのそろそろ荷物がヤバいから買わないでくれると嬉しいんだけど……あれ、聞こえてない?

 それに何かさ今気付いたんだけど、俺の頭になんかつけ耳装備されてないか?  

 え、いつの間に? 誰が買ったの? あと、左手に風船があるんだけどマジでいつ持たされた? なんか知らんけどテーマパークに来て全力で楽しんでる人みたいになってないか俺……。


「食べ物じゃないからセーフだよ。それに似合ってるしなんか楽しんでるよ師匠は」


 あ、つけたのお前なんだなグレア。

 俺に悟られないでつけ耳と帽子を装備させるとは成長したな。

 でも、俺楽しんでるけどそれのおかげじゃないからな? 荷物は魔法で浮かしてるから良いものの魔法使ってなければこの量は落としてるぞ絶対。


「……なんだその理屈は、そもそも食べ歩きと決めていただろう? 他の物を買ってどうするんだ?」

「そっちこそこっそり師匠の写真撮ってるのバレてるからね? 無音カメラなんて高価な魔道具使って何してるの? それ盗撮だよ」

 

 え、そのカメラis何処?

 そもそもこの世界カメラがあるほどに進んでるんだ。

 今度道場に残した弟子の成長を収める為に買わないとなぁ……。


「何故バレたんだ? 魔力を感知させない最高級品なんだぞ……」

「スタンならやると思ったからだね、壊そっか?」

「いやこんな師匠撮るであろう普通。それにこの写真があれば他の者を揺すれる」

「……それはそうだね、乗らせて貰って良い?」

「ふっ流石グレア姉だな」

「勿論だよスタン、たまには役に立つよねホント」

「なあ……本人を前に不穏なこと言うの止めようぜ?」


 あまり似合ってないだろこの姿を写真に収めて何がしたいんだよお前等……あと普通に怖いから止めようか。

 もしかしてマジで無様なのか俺の姿、そんな笑いの種になるほどに滑稽なのか今の俺は……まあ確かに白髪碧眼のポニテ男が無表情でつけ耳つけてたら変かもしれないけどさ、撮ることないだろ……。


「あれ、どうしたの師匠? しょんぼりしてるけど……」

「いや……なんでもない、それより他の店行こうぜ。あとスタン、写真は没収」

「エスタ師匠、それだけは止めてくれ」

「そんなマジで頼まれるのは怖いぞ?」


 茶髪のイケメンがマジトーンのがちな表情で懇願するその光景は普通に怖くてちょっと泣きかけた。


「死活問題だ。後生だから本当に頼む師匠」

「そんなに写真大事なのか? それなら取らないけど、程々にな?」

「あぁ、これからも節度を持って撮らせて貰う」

「うわぁ……ドン引きだよ、姉として」

「……俺から写真を買っていた分際で何を」

「それ、師匠の前で次言ったら潰すから」


 何か二人は言い合ってるようだが、今の俺にはあまり気にならなかった。

 何故かって? そんなのは単純だ。

 偶然見かけた本屋の硝子窓の所に俺の師匠としてのバイブルがあったから。

 そう、それは俺が師匠を目指したきっかけの本であり――未だ愛読している大好きな小説の最新刊。

 そういえば今日が最新刊の発売日でまだ買ってなかったことに気付いた俺は本能のままに本屋へと直行していた。


「……売り切れ、だと?」

「ええ、硝子窓にあるのはサンプルで初版はもう」

「まじか……まじかぁ」


 買いに行って探したが見つからなかったのでその本屋の店員さんを呼んでみたところ、俺はそんな事を言われてしまった。

 

「爺さん教えてくれてありがとな……まじかぁ、売り切れかぁ」

「余程ファンなのですね。まあ分かります、あの本は数年に一度しか出ませんので」

「そうなんだよ! エルフの作者が書いてるからか、刊行がゆっくりなんだよな」

「えぇ、私もやっと出たかと思い頑張って取り寄せたのですが、流石の人気で。あ、そうえいばまだシャル様の住居なら買えるかも知れません」

「シャル? シャルってまさか作者の……」

 

 この本の話題でシャルという愛称、それが示す人物は俺の大好きなこの小説の作者である『シャルロッテ・アマリエ』その人だろう。

 というか作者近くにいるの? え、まじで?


「えぇ、最近王都付近の森に越してきてそこで直売もしていると噂です」

「それは、本当なのか?」

「危険な森ですが、私も一度護衛を頼んで買わせて頂きました。気に入られればサイン本も手に入れられるとも……」

「ありがとうな爺さん、やること出来たわ」

「お客様、行くのなら護衛を頼んだ方が良いかと」

「いや心配すんな爺さん、俺は少しは強いからさ」


 そうして店を出て俺は弟子であるグレアとスタンと合流する。

 いやするというか、したというか……離れたから会えないと思ってたが、店を出て少ししたら慌てた二人に捕まったのだ。

 

「師匠、何処行ってたの? 探したんだよ!」

「……勝手に離れないでくれ、心配するだろう」

「悪いな、それより二人とも――ちょっと用事出来たから森に行かないか?」


 全ては最新刊のサイン本を手に入れる為、俺はその目的の為だけに二人を連れてシャルさんがいるだろう彼女がいるとされる森を目指すことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る