第5話:二番弟子、魔琴の弓手トリスタン・バルバトス
バルバトスという弓の名家に生まれた俺は、弓に関する才能が飛び抜けていた。
それだけではなくこの家が持つ固有魔法、【爵魔の弓術】を誰よりも濃く受け継ぎ、突然変異と言える程の異常と呼べる量の魔力を持ってしまった。
その才を買われ幼いながらに戦場に駆り出され幾つもの命を奪う日々。
それに対して思うことはあったが、当時は役目だからと頑張った――そうすれば親に褒められると思ったから。
普通ならば圧倒的な才を持った俺は歓迎される筈で将来は安泰、次期棟梁となるはずだった。
――だが、そうならなかった。
固有魔法のおかげで幾つもの矢を際限なく放てる俺は常人から見ればあまりにも異質に映ったのであろう。
誰からも感じる恐れの感情、上司である者からも家族でさえも俺を恐れ、悪魔や化物と呼ばれ、戦争を終わらせた八歳の頃に勘当――いや、殺されかけた。
家を抜け出したのはいいものの、刺客を送られ命を狙われるようになったのだ。
狩りは得意だった事から森で生きるようになること一年、最早貴族として生きた頃とは全く違う風貌となり、誰も信じられない生活。何かに飢えるも、それが何かは分からなくて……希望もなくただ生きる屍となっていた。
そして――そんなときだった。
彼……エスタ師匠に出会ったのは。
『……なんで子供がこんな場所にいるんだ?』
ある日の事、しくじってしまい刺客に見つかり怪我をして森の中で休んでいるとその人は偶然現れた。
まぁ当然だが警戒した。
この森には普段人が来ないのもあるが、何よりこの森は危険であり一般人は絶対に来ない場所だから。
刺客だと思った……だけど、おかしいことに殺意を感じない。
何が何でも俺を殺そうという意志がなく、ただ純粋になんで子供の俺がここにいるのを疑問に思っていた感じだった。
『って怪我してるな、ちょっと待ってろ治すから』
『――ッ俺に近付くな』
恐れが七割、困惑が三割。
誰も信じられないかった俺はそう言いながらも裏切られるかもしれないと思い弓を構えて威嚇した。
だけどその人は、エスタ師匠はそれを一切気にせず俺に近付き重傷だった俺を秒で治療した。感じたのは温かい魔力、誰も助けてくれなかったのにその人は怪我しているからという理由だけでその人は何の見返りも求めず俺を治してしまった。
『よしこれで完璧――でだ少年、お前はなんで怪我してたんだ?』
『何故だ?』
『ん……何がだよ?』
『なんで見ず知らずの俺を助ける?』
『いや、だって怪我してたし……というかそれ以外に理由がいるか?』
それを聞き驚いた。
今まで戦場や逃亡生活の中でで俺は人の醜い部分をずっと見続けたから。
そんな純粋に誰かが怪我してるからで治す人間など見たことなかったから。だけど信じられない、治った俺を家に差し出すかも知れないから、恩人だとは言え油断は出来ないと……そう考えていたときだ。
『悪魔がいたぞ! 殺せ、同胞の仇を取れ!』
刺客が、俺を追って来た敵兵達が現れたのだ。
武器を持ち数人で俺達を囲む敵兵、そいつらは関係ないその人も巻き込んで俺を殺そうとしてるようで仕掛けてきたのだが。
『物騒だな、やっぱ人間怖ぇ――まあいいや、なあ少年、あれはお前の敵か?』
『……お前は逃げろ、アイツらは俺を狙っている』
何故かは分からない、その人を囮にして逃げれば生き残る可能性はあったはずなのに、助けてくれた人が傷付くのは嫌で――俺は戦う事を選んだ。
何かが満たされたような気がしたから、ずっと知らなかった物に触れたような気がしたから、それだけで何故か戦えるような気がして……。
『ふぅん――いいな、少年。覚悟よし技量は不明だが育てればいいだろ』
『何をぶつぶつと言っている? 貴様、その悪魔を差し出せ!』
『よし、決めた――なあ少年、お前は俺の弟子になれよ』
『何を?』
刺客の言葉を無視し、そう言って笑った彼は何処からか一本の剣を抜いた。
それは140センチ程の剣。見るからに不吉な気配を漂わせ、全てを斬り裂くような意志を持った剣であった。
『よし見てろよ? これが師匠の実力だ』
剣が彼の声に応える。
呼応するように魔力が迸り彼が剣を振るとその一撃だけで刺客全てが倒れた。
『俺の名前はエスタ――なあ少年、名前は?』
それが彼との出会い、全ての武器を扱い魔法を極めたこの世で最も尊敬出来る師匠との物語の始まり、忘れられない大切な記憶だ。
――――――
――――
――
医務室だろう場所で目が覚める。
普段は自分は見ない天井を見た後で、俺はベッドから起き上がった。
「あ、起きたなスタン――大丈夫か?」
起き上がり聞こえるのは師匠の声、果物を剥きながら俺を見て安心したような表情を浮かべている。
「……エスタ師匠? あの、決闘はどうなりました?」
「えっと一応引き分けだな、二人とも武器が壊れたからいつものルール的に」
「そうですか、それで俺は何故医務室に?」
「グレアの技受けただろ? それで気絶した感じだな」
「そうですか、それでは俺の負けですね。グレア姉は?」
そういえばあの姉は今どこにいるんだろう?
普段の彼女を考える限り、倒れた俺を煽るくらいはしてきそうだが……いや、それはいいか。師匠に看病されているというこの時に比べれば些細な事だし、いないのならば別に気にすることではない。
「…………説教したら動かなくなった」
「それは――ふふ、いい気味ですね」
「……おい、怖いぞスタン」
「いや本当に効いていると思いまして……そうだ師匠、俺は更に強くなりました」
「だな前見たときより断然強かったぞ、頑張ったんだなスタン」
何故か少し冷や汗を流す師匠の姿は不思議だったが、そう言われたのなら嬉しい。やはり師匠の言葉を何よりも響く、俺の努力を見てくれて普通に接してくれた彼だから……その言葉はどんな物よりも。
「そうだ師匠、引き分けという事はどうすればいいでしょうか?」
「なにがだ?」
「今回の決闘はどちらが師匠と食べ歩きをするかが発端。どちらが師匠と行くか決めなければ」
そう、これが何よりも大事なことだ。
そもそもそれのために戦ったのだし、頑張ったのだから報酬は欲しい。
「あれ、お前は負けだって……」
「いや個人的には負けだと思うのですが、師匠の判断が引き分けならそれが全てに優先されます」
「そ、そうか――なあそれなら三人で行こうぜ? 俺は王都の事知らないからさ、案内してくれよ」
「師匠が仰るのならそうしましょう」
「お、おう……じゃあグレアにも伝えてくるぞ」
そこで師匠は果物を置いて部屋から出てグレア姉に会いに行った。
それが少しもの寂しいが、彼はこういう人なので気にしない――あぁ、でも。
「もっと強くならねばな」
いつか姉が語った師匠の夢を叶えるために、何より師匠が孤独に落ちないために、俺は俺達エスタ師匠の弟子は何処までも強くならねばならない。
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