第4話:明星の勇者VS魔琴の弓手

 あれよあれよと時間が進み、いつの間にか俺は通されたコロシアムで女王の隣に座り弟子達の決闘を見守る事になっていた。


 まじで、どうしてこうなったんだろうか?

 しかも何がおかしいって非番であろう国の騎士や魔法使い達が集まっていて、観客の数が半端ない。


 決まったのは三十分ぐらい前なのに話が広まるの速すぎるだろうと……若干放心しつつ話を聞く。


「して貴殿はエスタだったか? 二人の育て親と聞いたが、それにしては若いな」

「――そうですね、まあ魔法ずっと練習してたら老けにくくなって」

「ほう、それは羨ましい限りだな――それとあまり動くなよ? コロシアムには結界があるが、客席から出ると死ぬぞ」

「あ、それなんですが俺も貼りますね。原因自分だと思うんで」

「む、そんな事をしなくても――いや、頼もう」


 一瞬断られかけたが、貼らせて貰えるなら良かったな。

 正直言えば何処まで強くなってるか分からないし、あの二人の戦い方を知ってる俺の身からすると生半可な結界じゃ一瞬で壊れるのが分かってるし。


 何より自分が原因始まった決闘だ。それで、誰かに労力割かせるわけにはいかないしな――というわけで今いるコロシアム全域に結界を貼りとりあえず一息。


 仮にも邪神である俺が貼る結界だ。

 流石の二人でも壊せないはずだろう――あれ、壊れないよね? これ壊されたら割とショックなんだけど……まあ自分を信じようか。


「……今ので終わったのか?」

「一応魔法全般は得意なんで……それに結界はここ数年で上達しましたし」

 

 壊れたらどうしようと思いながらも俺は女王と話し、舞台に上がった二人を見る。

 この距離から分かるほどに好戦的な二人は、何も武器を持っていない――それで分かった。二人はマジで全力で戦うつもりだと。


 何故かって? これでこの国から借りた武器とかだったらまだ平和に終わる可能性があったが……あの様子だと自前の武器を使う気だろう。

 流石にヤバいと思った俺は、こっそりと結界を強化して女王リシアに向き直る。

 

「……あの、リシア女王は二人の決闘を見たことがあるんですか?」

「二年ほど前の武闘大会でな。それにトリスタンの実力は巨龍の討伐で知っている。そしてグレアは魔王を倒した勇者だ。さぞ見応えがあるだろうな」


 これが女王か、あの二人の全力を許容できるなんてなんて器が広いんだ。 

 ……これいつまでも恐怖を感じてたら俺が格好悪いな。

 そう思った俺はせっかく久しぶりに弟子の実力が見れるんだからと、楽しんで観戦することにした。


――――――

――――

――


 師匠が見守るコロシアムの上、他の観客もいるようだがそれは一切気にならない。

 とにかく今集中すべきなのはいかにしてグレア姉をボコボコにするかであり、勝った後にどんなコースで師匠を案内するかだけである。


「集中しなよ馬鹿スタン、負けるよ?」

「グレア姉こそ珍しく上機嫌だがどうしたんだ?」

「そんなの君をボコって私が上だと証明できるからね――何よりその上で師匠とデートが出来るから」

「そうか――魔王討伐の旅で思考まで疲れているのだな」

「そっちこそ騎士の業務で脳バグった? 姉に勝てるわけないでしょ?」


 口を開けば始まるのは煽り合い。

 その少しのやり取りだけでお互いに負けられないことを悟り、俺達は武器を呼び出す。


「奏でるぞ、フェイルノート」

「起きてよルクス――目の前の馬鹿ぶっ飛ばすよ?」


 俺が展開するのは弓のような形の竪琴を模した弓。対するグレア姉は無骨だが洗練された美しさを持つ剣を呼び出し構えた。


 そして開戦、合図はなく同時に地面を蹴り俺達は接敵する。

 弓兵が近接戦を挑むなど普通なら馬鹿な行為だろう。何故なら構えて矢を射る必要があるからだ。

 だが、俺が持つこのフェイルノートは普通の弓には当てはまらず――。


「相変わらず、反則だよねその弓!」


 琴を鳴らせば矢が射られる。

 奏でれば魔力で出来た矢を射るという特性を持ったこの武器。

 それだけで数百の不可視の矢が射られその全てが姉へと向かった。


「俺の矢に対処できるグレア姉こそ意味が分からないけどな」


 音に魔力を乗せ矢になるという仕組みのこれは、前述したが不可視の攻撃である。それなのにも関わらずこの馬鹿は全てを斬り裂き凌いでしまった。


「……今更ながらどうやっているんだ?」

「そんなの勘だよ。あとは人読み、こう狙うってのがなんとなく分かるから」

「反則だな――だが、それで負ける理由にはならん」


 続いては姉の番で迫りくるは剣閃。

 馬鹿みたいな力と技によってもたらされるそれは明らかに俺を切り刻む可能性を秘めているものだ。


 それに対して数回弦を鳴らし矢の壁で防ぐが、一瞬で全て斬り伏せられ俺へと剣が迫り――俺の武器が破壊された。


「まず一回、ほら速く直しなよ」

「ルールを決めてなかったがやはりいつものか……」

「そりゃあ私達だしね、魔力がなくなるまでの全力勝負――もしかしてぼけてた?」

「……いや、グレア姉が覚えている事に驚いてるだけだ」


 そんなやり取りを交わし、俺は再び武器を魔法で作る。

 俺達エスタ師匠の弟子は各々が自分の魔力で作った武器を持っており、それは魔力が残っている限り作り直せるのだ。


 その代わりかなりの魔力消費を許すので数回ほどしか直せないが……まあそれはともかく、そういう事が出来るので俺達弟子の戦いは武器破壊をメインに戦う決闘となっている。それで魔力は無くなった方が負けというルールだ。


「――ウォーミングアップも済んだよね? じゃあ本気でやるよ」


 その言葉と共にグレア姉の魔力が高ぶり可視化されるほどに周囲に迸った。

 それは今までの姉からは考えられない程の力であり、魔王討伐の旅の成果を物語っている。

 ぞくり……とそれを見た俺に冷や汗が流れた。


――

――――

――――――

 

 うわぁ、やべえよあいつら。 

 スタジアムが矢で抉れてるし、不可視の筈なのにそれをグレアは何の苦もなく斬り裂いてるし……まじでどうやってるんだろ?


 決闘の中、何度も場所を移動して二人は戦いを続けている。

 不可視の矢が幾百も放たれ剣が振られ互いの武器を壊し合う。

 その戦いに懐かしい物を感じるが、昔までとは段違いのレベルの戦いに肝が冷えてしまう。よくここまで育ったなぁと思う反面、強くなりすぎているこの現実が怖い。


「生き生きしておるな。あんな二人を見るのは初めてだ」

「そうですか? 昔からあんな感じだと思うんですけど……」

「そうなのか? 妾が見てきた二人はいつも退屈そうで――」


 その瞬間、リシア女王の言葉遮られた。

 何があったかと言えば、二人の攻撃が激突しコロシアムに大穴が開いたのだ。

 元々の結界はぶっ壊れたけど俺が貼った結界にはダメージはないけど、割とコロシアムが限界っぽい。


 穴だらけだし、何より大穴開いてるし……。

 そして、二人もコロシアムが限界なのを悟ったのだろう……瞬間的に二人の魔力が高まり大技の準備がされる。

 あれ、これやばない?

 今の二人の実力はある程度理解したが、昔から二人の必殺は馬鹿みたいな能力を持っている。


「絶技――絶死の唄」

「絶技――明けの明星」


 二人の技を説明するのなら、スタンのが不可視で不可避であり――グレアのが、全魔力解放のビームである。

 刹那の事、世界を閃光が染め――結界内で二つの技がぶつかり合った。

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