第二十二話 サムライ・コンパス
はじまりの〝町〟から走り出した宮本武蔵。
成すべきことは、かつて日本最高峰の地図を身一つで作り上げた
まだ、開始しない。
それよりも前に、
『なあ侍、最優先は身分パネルの
出発前のセツナの言葉を思い出す。
仲間との協力や連携は、実際重要である。
『ヒメからは特にリクエストないし、お土産も要らないから、武蔵は絶対にケガしないで帰ってくること!』
ヒメの言葉を思い出しながら、拙者がケガなどするわけなかろうと武蔵は小さく
仲間を知り、温もりを知り、帰る場所と待つ者の大切さを宮本武蔵は知った。
『お前は北を目指せ、侍』
また、セツナの言葉を思い出す。
洞窟に名を付けたように日の出と日の入りから東西は分かる。
そこから自ずと南と北も割り出せる上に、
おまけに〝町〟を南北に縦断するような太い街道が存在し、その両端が以前は見えない壁で遮断されていた。
『あ? 北にした理由? ねえよ。突き進んでる、って感じで
南北の街道、町の南の端は武蔵が
荒野の少し右には
街道を進み町の北端には
思い返せば武蔵の旅は南から北へ向かって進んでいた。
ならば、今後も目指すは北である。
*
「あれってもしかして武蔵だ?」
「ムサシチャンネルの人だ!」
「本物の宮本武蔵ですか?」
「待って斬られるよ、ごめんなさい離れます!」
はじまりの町の他にも、町は存在した。そして、あからさまにムサシキッズとおぼしき
ならばまず、やることは一つ。
配信活動である。
「これより〝
令和や日本の配信においては、配信するサービスや
運営への連絡や申請的なものである。
思いつきで今から生配信、という行動は難しいあるいは不可能な配信サイトも少なくない。
だが異界は事情が違う。
いつでも身分パネル一つで配信可能なのである。
「ぬああああああああああッ!」
それは、大量に
二宮金次郎という人物が存在し、日本各地に銅像が建てられていることはあまりに有名な
彼が大量の
そんな二宮金次郎が持つ
「刺さった!」
「何かやってる!」
「素手で!?」
「当たり前じゃん、侍だもん」
武蔵がとる謎の行動に
「待たせたな、本日に
人の話は最後まで聞く、そう配信を通して武蔵からの教育を受けていたからである。
武蔵の頼みとやらを確認するまでは、動くわけにはいかない。
「たった今、拙者が立てた矢印。これを一ヶ月の間……死守せよ。決して動かすな、向きを帰るな。この矢印が失われし時は、拙者が配信者引退の時である」
宮本武蔵たっての頼みに
それは一歩間違えば武蔵は一生はじまりの街に帰れない
出発前にセツナがいくつか提示した可能性の一つが的中し、街と街の間には荒野が存在した。
だが中間荒野は相当な距離があり、しかも
『何かに、つまり街にぶつかるまで……ひたすらズレず
『だな、侍。お前の
『ヒメは
出発前、三人は綿密な計画を練っていた。
結果として「進行角度を一度たりとも変えず直進し、街へ戻る際も正確に百八十度、反対の方向にまた真っ直ぐ走れば帰還可能」という
緻密かつ高精度の
何故なら、走る男は宮本武蔵だからである。
「つまり、この街のおぬしらには……」
『ヒメで〜す! 矢印を守って欲しくてぇ、あとね、他の街にも武蔵がこれから行くかもしれないの!』
『武蔵お兄ちゃんがいる街、まだ
思いがけぬ、
離れていても三人は身分パネルで通じ合っている。
そして、その絆が物理距離にしてどの程度有効かの検証が今回の旅における最初の目的だった。
「拙者は
『みんなごめんねぇ、武蔵すぐ街を出ちゃうけど今度ゆっくり遊びにいくね!』
『ボクも知らない街に行ってみたいのだ』
はじまりの街から最初に走り出した方角は、セツナが天体や計算から導き出した〝正確過ぎる北〟である。
そこから武蔵は全霊の集中力を
そしてまた、矢印を元に
これが、北一直線作戦。
「拙者は侍力を高め集中するが、ヒメや豆餅は喋っていても
『うん、ヒメも手伝ったんだけど豆餅も色々な
『知ってるだけで、ボクも忘れちゃってたのだ』
出発前夜に行われた
実のところ、宮本武蔵は
ちまちまと
何故なら、その男は宮本武蔵だからである。
『ヒメはあんまり必要ないと思うけど、いつか武蔵の
『取得の詳しい方法や
有り余って持ち
それは、
「二人とも、
『ヒメも昔は要らないと思ってたけどー、
『
豆餅も驚くように、この情報は
速さと距離、二つの力を獲得した武蔵に目覚めた新たな
それこそが北一直線作戦にとって最高の武器となった最良の補助。
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