第六章 伊能忠敬RTA
第二十一話 迷惑系配信者堕ちの危機
「コイツを見ろ侍、
「なるほど……
「違う武蔵、ちゃんと考えて! 逃げるの!」
セツナがタバコを吸いながら開いた
当然、犯人は宮本武蔵。
「
「むう、どういうことだ」
「ヒメが片付けながら説明する! 武蔵も口動かす前に手動かして!」
迷惑系配信者。
それは読んで字の
誰かが嫌がることをする、誰かが傷付くことをする、誰かが損害を
注目を浴びることによる快感の
それが、迷惑系配信者である。
「音を立てるな、俺がまた
「討伐を手伝えぬのが
「ヒメも昨日反対すればよかった、今度からもっとよく考えるね」
洞窟
それは
経緯や意図、事情など考慮されない。
そして調教済みの
*
「ひっでえ言われようだなこれ、ウケる!」
「死してなお、すまぬ
「ヒメお腹痛いんだけど、ちょ、無理……」
無事に証拠隠滅を完了し洞窟から逃げおおせたセツナとヒメは、笑い転げていた。
主犯格の武蔵は自身の軽率な行動が招いた思わぬ世論を目の当たりにし、
『伝説的な弱さ』
『
『ずっと足の指を守ってるだけのザコ』
『反撃もせず一生棒立ち
また、洞窟内で何かを引き
「まあでも、気を付けねえとなマジで」
「拙者も
「迷惑系の
炎上案件、
これもまた令和日本で、そして配信に限らず実に多くの場所で発生していた事柄である。
善意や仲間への気遣いから武蔵が軽率短慮な行動に走った結果、思わぬ事態に発展したのと同じ現象。
非難や批判を受けかねない行動や、人を傷付けたり迷惑をかける行動を目にした時、とりあえずで拡散してみたり袋叩きを始める人間は残念ながら大量に存在する。
だからこそ、配信者も冒険配信者も
*
「なあエルフ、お前……侍が好きだし別行動って嫌だよな?」
「おぬしは時々、
「ヒメ一人で置いてけぼりってこと? 絶対、無理なんだけど」
セツナには、考えがあった。目的もあった。
「
「なるほど、これは何かがありそうだ」
「あ、セツナと武蔵の二人きりとかじゃないなら別にいいかなぁ、待ってちょっと考える!」
武蔵にしか頼めない、おそらく武蔵なら誰よりも速く成せる、そんな依頼がセツナの頭には存在した。
「侍、俺が前に話した
「なるほど……それは面白い、望む所だ! 拙者が伊能忠敬してやろう!」
「は? 何でそこで通じ合ってんの!? ヒメも分かるように説明して!」
伊能忠敬という天文学、地理学者が存在する。
数々の功績を残すが、中でも有名なものは二十一世紀の最新版にも引けを取らない正確な日本の地図を書き残し後世へ伝えた偉業である。
「俺のリクエスト的には
「速さ精度と範囲そして成果、どこに重きを置くかは拙者が移動しながら考えよう」
「ねーえー、多分だけどイノータダタカって、人でしょ? なに? イノータダタカする、って! ミヤモトムサシする、とかと同じくらい意味わかんないんだけど!」
互いに秒で理解したことを喜び熱が入り過ぎた二人は、慌ててヒメに中世日本の偉人について説明した。
「エルフだから置いてく、って話じゃねえんだよ。侍一人が一番良い、誰も付いていけねえしな、速さと強さなら」
「拙者も伊能忠敬するのであれば、そして速い方が良いなら、一人の方が動きやすい。ヒメ、気を悪くしないで
「するわけないじゃん! いつものヒメ達の合言葉、忘れたの?」
三人にとって最も多くの回数を配信し、また収録も繰り返した恒例の
息を合わせるまでもなく、全員の声が揃った。
「「「多分これが、一番早いと思います!」」」
思い立ったが吉日、と今すぐ立ち上がり走り出そうとする武蔵をセツナは引き止める。
身体も計画も、そして心も……物事には準備が必要である。
*
「ふっ、拙者の
「ヒメ三件目の、削除して欲しくなかったけどぉ。武蔵もっかい書いて投稿しない?」
『やめるのだヒメお姉ちゃん、武蔵お兄ちゃんは恥ずかしがっているのだ』
町の、飲食店。
店を訪れる前、武蔵は
『これより町に出る。仲間以外とは会わぬ、話さぬ、サインは書かぬ』
『撮影は許す。されど刀の届く範囲に寄らば
『今後、拙者のおらぬ場でも許可無くヒメに話しかける者が現れたなら斬る』
ヒメに頼まれ追加で書いた三件目に関しては、武蔵自身も読み返すと強火な
セツナは完全に〝割り切って〟いた。
迷いが消え〝答え〟を出せたことも、大きい。
「やはり、薄暗い洞窟や荒野に座り込むよりも腰を据えて話す方が落ち着くものだな」
「ヒメが止めなかったら走り出してた
『店員さん、武蔵お兄ちゃんとヒメお姉ちゃんに
セツナは、
初対面の人間相手でも、
人間嫌いを完全に克服したのである。
「豆餅、一人で出歩く時だけは気を付けるのだぞ」
「ナンパされたり
『ボクは、魔法なら武蔵お兄ちゃんやヒメお姉ちゃんより強いから大丈夫なのだ』
一時的に
今後の方針や打ち合わせも済ませながら、三人は暖かな一時を過ごす。
飲食店の二階に備えられた宿で一泊すれば、翌朝からは武蔵の新たな使命である〝
町を飛び出し、国や世界を知る
言うなれば、伊能忠敬アール・ティー・エーである。
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