第二十話 冒険配信者達の夜
白衣を
四つの姿を持ち、名も性も自身の存在さえも定まらなかった解説動画研究家が、静かに語りはじめた。
「俺は男として生きるべきか、女として生きるべきか、それを本当はな……聞こうと思ってたんだ」
武蔵もヒメも黙って耳を
「聞きたかった。聞いて、そこで決めたかった。決めなきゃならねえと考えていた」
二人は思わず、口を挟んでしまった。
「ヒメはさぁ、それちょっと違うなーって
「拙者としては、おぬしが
セツナは笑いながら、手で二人を制する。
「分かってるよ、もう俺は一ミリも問題ねえ。聞け」
思い悩み苦しんでいたのも、強迫観念に囚われていたのも、全ては
「全部引っくるめて、俺だ。どんな生き方で何をしても、俺は俺だ」
反対に、この世界で命を持つ本来の身体として割り切り、内面や口調の方を変え〝生物として自然な自分〟として生きることにも、実は興味があり毛髪や外見的な美しさにも目を向け始めている。
「今すぐにな、決める必要はねえって気付けた。お前らのお陰だ。だから俺はゆっくり旅の中で
ふと見るとヒメは
「んぁ〜、武蔵助かるぅ〜!」
「そろそろ効力が弱まる時間なのでな。ヒメ、おぬしは飲みすぎだ」
「お前らよぉ、それ、やってること逆だと
言いかけて、セツナは言葉を飲み込む。
だが思い直す。
男だから
何よりも〝それ〟に悩まされてきたのは、セツナ自身だったと。
「ねぇセツナ何か言った-? なーにー?」
「拙者の
「おう、先にかけといてやらぁ」
焚き火の光や暖かさのみを通し二酸化や一酸化炭素を
「あー! 今ヒメのことポンって言ったぁ! ひどい! セツナも無視してくるし! 何言おうとしたのさっき!」
「おぬしはもう休め。ほれ、水もあるぞ」
「何でもねえよエルフ、お前は寝ろポンなんだから」
ポン、という言葉が存在する。
平成や令和の配信界隈においても
しかし、それは
武蔵やセツナのように愛情を込めて投げかける〝ポン〟もまた、令和日本でも確認されてきた。
日本も異界も、所違えど人間は変わらない。
*
「やっと吸える、やっと……決めれたよ」
「む、ならば
「んー、ポイ捨てしないならいいよ。ヒメからちょっと離れてね」
前世でのセツナは愛煙家だった。
何より、
そして、少女の身体に宿ってからは不条理な罪悪感と拭いきれぬ負い目から〝体を汚してはいけない〟と長年に渡って禁煙を貫いていた。
今となっては、奪ってしまった人生の代わりにあらゆる面で〝精一杯に生きる〟と決め、我慢もしなくなり迷いが消える。
その
「
「
「ヒメには分かんないなぁ。そんなに
町で流通する、アルコール成分を含まないが大量摂取すると酩酊効果をもたらす
同じく町で流通する、昭和から令和まで日本や世界で販売されている物とよく似た煙草。
この二つは非常に
「五輪書には〝嗜む程度〟って書いてあったのに、ガンガン吸いやがるな侍」
「よく読んでおる……あれには事情があってな」
「うわ出た、五輪書! 早く続き書いてヒメにも見せてよー!」
日本初の
時は
その際に「スペインの修道士が何か珍しいの献上してきたんだけどさ、得体の知れない感じで怖いんだよね。ちょっと先に、武蔵が試しに吸ってみてよ」的なニュアンスの会話がなされ、家康の目の前で
これが歴史の真実である。
また、この内容は「
何故なら、その男は宮本武蔵だからである。
「おい待て侍、
「む、何事だ!?」
「ヒメ達のムサシチャンネルが炎上しちゃう! 武蔵、これ見て!」
それは、宮本武蔵の些細な行動が巻き起こした思わぬ波紋だった。
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