第十四話 メンタル・タフネス


 魔歌姫セイレーン歌唱技能ソング・スキル、その効果がヒメにのみ薄い理由は彼女の性別だけが理由ではない。


 精神耐久メンタル・タフネスである。


 大半の者は十二時間の耐久生配信にいどため、というだけの理由から必要最低値である六十数値ポイントで打ち留めにする耐久能力タフネス・ステータス

 応援コメント読みの時間もふく一定平均コンスタントの配信時間が四時間未満なのであれば、初期の二十数値ポイントより多く能力数値ステータス・ポイントる必要なしと割り切る者も多い耐久能力タフネス・ステータス


 だが、ヒメはこれを高めた。


「しっかりして武蔵! セツナはどうせ無理っぽいし、しっかりしなくていいから、ちょっと痛いの我慢して!」

「エルフ……何か策でもあんのか?」

拙者せっしゃは、もう勝てぬ……斯様かように美しい歌声と音色ねいろは生まれてこの方、聴いたことなし」


 自身の弱さを痛感し、何よりも心を強く持ちたいと願った武蔵編成パーティ結成当時のヒメは特に後先あとさきを考えず、まずは形からと精神耐久メンタル・タフネスに追加で雑に六十数値ポイントも振り分けた。

 これは東の洞窟事件の影響も大きい。

 当時、ショボい段位レベルとあまりにもカスな能力ステータスで東の洞窟を単騎攻略ソロクリアした武蔵の強さは心の強さからくるものではないかとヒメは予想した。


 サムライあこがれた森林種エルフの少女は、今や百以上の精神耐久メンタル・タフネスを誇る。


「武蔵なに勝てる勝てないの話してんの! 歌でヒメ達が勝てるわけないでしょ! アンタはヒメと会ってからずっと、何してきたの! 答えなさい!」

「ぬぅ……拙者はおぬしと、迷宮ダンジョンを攻略し……配信活動をしてきた!」

「エルフ、なあ頼む……俺を向こうの物販ぶっぱんブースに連れてってくれ、歩けねえんだ」


 ヒメの耐久タフネスが、意思が、武蔵に転生ころりんしてきてからの侍道さむらいどうを思い出させる。


「だったら立ちなさい! ヒメ達は、迷宮ダンジョンの中に入るしかないっしょ! 迷宮ダンジョン配信なら、武蔵は勝てる! セツナはさっきからうるさい、バカ!」

「……………………承知しょうちした!」

「頼むよぉ、俺は物販ブースでグッズ買わなきゃ……魔歌声セイレーン箱推はこおししなきゃ……」


 正気を取り戻した武蔵が先に、特設迷宮スペシャル・ダンジョン入り口に向かい走り出す!


 ヒメはセツナのあしり、蹴り、蹴り、転倒させた。

 動けないならかつげばいいじゃない理論ロジックである。

 冒険能力ステータスの一元二種たる剛強筋力値エス・ティー・アールなど単なる目安めやすに過ぎない、足りない分は耐久タフネスおぎなえばいい。

 何故なぜなら、心の強さは万事ばんじと言わずとも多くの物事ものごとを解決するからである。


 武蔵は魔歌姫セイレーン公演ライブが届かなくなった特設迷宮スペシャル・ダンジョンの入り口内で呼吸を整える。


 遅れて、打ち合わせ通り迂回うかい仕込しこみを済ませたヒメとセツナも合流。


 開始時間から長く足留あしどめをくらい大幅おおはばに出遅れながら、武蔵編成パーティ……迷宮ダンジョン配信開始!



 セツナが加わってからの一週間、武蔵は武士だった頃と同様の修練を日々重ねた。

 

 ヒメは耐久タフネスを底上げしつつ、歌唱配信や雑談配信に匿名質問の読み上げを行う、さらには炎上前と同じく短文身分ミブッタランドと呼ばれる拡散型の文字投稿機能システムも活用し地道に配信者としての実力を高めた。


 セツナは七日間、たった一つの干渉命令ハッキング・スクリプトを開発するために全身全霊を注ぎ、完成させた。

 この一週間のみならず、武蔵達出会う前から数年かけて行っていた研究全ての集大成と言える干渉命令ハッキング・スクリプト

 成果を凝縮ぎょうしゅくしたセツナの身分パネルは、地上の第一配信機材に仕込んである。

 機材管理を任せられた組合職員ギルド・スタッフ魔歌姫セイレーン公演ライブに夢中で「てえてえ」と鳴くだけの腑抜ふぬけとしていたため、冒険者による細工さいくなど造作ぞうさもないことだった。


「拙者は変わらず、刀で斬ることしかできぬ。おぬしらに妙案みょうあんがあれば従おう」

「最初の打ち合わせ以外にも、ヒメいくつか構成を考えてたの! 使えそうなのあるかなぁ」

魔歌姫セイレーンのせいで時間くっちまった、配信内容を急いでり直すぞ!」


 当初の計画、初見しょけん無手掛ノーヒント史上最速攻略リアル・タイム・アタック作戦。

 誰よりも早く特設迷宮スペシャル・ダンジョンけ、未踏みとうの地を何の情報もないまま、史上最速攻略アール・ティー・エーを目指し首魁級魔獣ボスクラス・モンスター討伐とうばつする配信。

 結局のところムサシチャンネル一番の強みは〝走者〟としての実力であることから、最有力案ベスト・プランとして予定されていた。


「むむ、もう辿たどいた編成パーティがおるとな。やりおる」

「悔しい-! しかもヒメ達のパクリみたいな解説生配信もいるしぃ!」

「落ち着けエルフ、俺が今から〝かぶり〟にならねえ策と経路ルートを見極める」


 三人は競合ライバル冒険配信者達の生配信も調査チェック

 武蔵が気付いたように「首魁級魔獣ボスクラス・モンスターの元へ一番乗り」への道は絶望的となった。

 そしてヒメがいきどおるように、以前おこなったような「配信と人形劇解説の合わせ技」という手法テクニックうばわれた。

 そもそも、改造したセツナの身分パネルを地上に残してきたのでこうからではが悪い。

 他の編成パーティ万全ばんぜんの身分パネル三枚活用配信トリプル・アクセスで流すのに対し、ムサシチャンネルは二枚のみ共有という大きなハンデを抱えている。


 セツナが口にした〝かぶり〟という言葉。

 これは実際、平成や令和の日本における配信者達の間でも意識されてきた事柄ことがらである。


 似通にかよった環境、似通った内容、似通った時間帯、これはまさに……悪手あくしゅ

 それをけるため、令和の配信者達は時に流行ブームに乗ることもあれば、あえてそれをズラしたり枠の時間や内容を競合ライバルと被らないようにするなど工夫くふうをこらしてきた。


 今の武蔵達で言うならば同じ迷宮ダンジョンかぶる内容、しかも出遅れた配信開始時間とくれば、新規視聴者リスナーも同時接続者の増加も見込みこみは薄い。

 チャンネル登録者数を追加で百人など、夢のまた夢である。


「エルフ、お前が書いてた構成の二枚目を使うぜ。俺に策がある」


 しとやかな口調あるいはびた雰囲気を使い歌配信や雑談配信でもしようものなら、即座に短文身分ミブッタランドに切り抜きが貼られバズり散らかり〝かこい〟が大量生産されそうなセツナの声。

 しかし本人の心や口調こだわりを尊重し、その路線の売り方は却下。

 そんな白衣の少女セツナの口から〝策〟が語られる。


「刺さる視聴者リスナーいるかマジで読めねえし、分かんねえ。だからお前の意見も聞かせてくれ侍」


「うむ、今の八体を斬ればこの部屋の安全確保が済むゆえ、すぐに向かう。しばし待て」


 ヒメは構成に悩み、セツナは身分パネル調整や競合ライバル調査チェックを行い、武蔵は二人を見守りながら視界に入る迷宮魔獣ダンジョン・モンスターかたぱしから皆殺みなごろしにしていた。


「侍、俺は正直悩んでる、面白い内容か分からねえ。だが、一応お前やエルフの台詞セリフも用意した」



 

 構成プランが、語られる。

 

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