第二章 引退した配信者、与謝野晶子
第五話 迷宮配信の理由と目的
「
二人が思い思いの答えを口にしたところ、肯定も否定もせず静かに微笑む与謝野晶子は、武蔵とヒメの目を交互に見つめた後に質問を続ける。
「まずは、教えて下さい。あなた達お二人が出会ってから半年間、今日こうして私のもとへ
武蔵とヒメはどちらからともなく
今でこそ互いに信頼し背中を預ける仲間となったが、出会って数日の頃は
『身から出た
『なにそれ。ヒメにも分かる言葉で喋ってよ!』
『自業自得、と言い
『伝わったけどさぁ、サイアク。悲しいんですけど!』
そんなやり取りを二人は思い出す。
武蔵と出会う以前のヒメはサークルクラッシャーや姫プのみならず、交際していた有名配信者への
しかし
いき過ぎた利己的行為により炎上し、金銭のみで繋がりを
しかしながら、流れが変わった。
「ならば、次は錆びぬよう
「ヒメも武蔵が登録者数百万人超えるまでは協力したげるっ! お互い様ね!」
この時に武蔵は、
その慣用句は本来、自業自得を
在りし日は輝き、その刀身に青空を映した銘刀。
しかし持ち主を亡くし濁りくすみ錆びることで、映る空も曇天のように明るさを失い終いには何も見せることなく輝きも消え朽ちてしまう、という意味の句である。
それが、五輪書を通して令和まで伝わりし
仲間が存在すれば鉄は光り続ける。
そして、錆びかけた目の前の
彼は一人戦い続けた前世に対し、今世では輝き輝かせる生き方を選んでみた。
何故なら、その男は宮本武蔵だからである。
*
武蔵が変わったように、ヒメもまた変わり成長した。
深く傷つき痛みを伴いながら、それでも僅かに残っていた
『武蔵! ほら! この曲!』
『
ヒメが
本人の制作秘話によると在籍する配信企業と協力するよりも予算の制約がなく取り組みやすいとのことだが、真偽の
何にせよ、赤い髪の女性配信者が生き様で語る
『今さらだけどさぁ、ヒメって魅力ないわけ? 武蔵にとって』
『そうではない。仲間と性的な関係は持たぬ』
二人が出会って半月程経ったある晩、酒の席。
ただの一度も
この翌日から、ヒメの中で「引退したら素敵なお嫁さんになる」という二つ目の夢が生まれる。
『
『ままならぬものだな』
信頼関係は良好でも、大きな問題がなくても、現実は厳しい。
宮本武蔵の動画チャンネルは登録者数、千人突破を境に再生数が伸び悩む。
配信中の同時接続
早い話、飽きられつつあるのである。
『走者以外の道も考えなきゃかなぁ』
『だが、拙者は戦うことと斬ることしかできぬ』
これはリアルタイムアタックの略であり、挑戦する者は〝走者〟と呼ばれている。
平成の時代から当時の日本や諸外国の走者によって「特定のゲームソフトをいかに速くクリアするか」を争う〝競技〟として盛んに研究され、
異界においてはゲームの代わりに
一晩にして東の洞窟を完全攻略した宮本武蔵の姿に可能性を
最初こそ
苦境に立たされた武蔵とヒメは、著名な作家であり伝説の
*
「それでは、あなた達お二人はどうして登録者数〝百万人〟を目指すのです?」
二人の話に
「無論、より強き者と戦う手段として拙者は金パネルを欲する」
「ヒメはぁ、自分自身を認めてあげるため、かな?」
配信チャンネルの登録者数が十万人を突破すると身分パネルが銀色に輝き、百万人を超えた場合は金へと色を変える。
ただ見た目が華やかになるだけではなく、通れなかった土地や
令和で例えるところの国境もしくは
そして、そこにある目視不能な透明壁は武蔵の剣を
圏内ほとんどの
ヒメの場合は「泣くほど嫌だった〝普通の
しかしながら、憧れの赤い髪の女性配信者に少しでも近付くため……そして武蔵にもヒメ自身にも誇れる自立した女性を目指すためにも、凍結解除されたヒメヒメチャンネルの収益化再開を目指しながら武蔵を手伝う生活を送る。
なお、ヒメヒメチャンネルで公開した謝罪会見動画における
何故なら、その女は
「なるほど。宮本様や沙倉様のお話、もっと聞かせていただせますか?」
チャンネル登録者数を増加させる
この翌日、与謝野によってもたらされる新たな出会いが自分達の運命を大きく変えることなど、武蔵もヒメも知る由もなかった。
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