伊達めがね
空山羊
恋しちゃった彼の秘密のめがね
私の名前は美ヶ原
誰もがうらやむ美貌を持つ。
ただ、私は最近退屈している。
みんな私の外見しか見ない。
「つまらない」
これが最近の私の口癖。
学校の昼休みの時間にでもなれば私の周りは多くの男女で賑わう。
皆、私のところに集まってくる。
さしずめ光に集まる羽虫だろうか?
何か実のある話があるなら、それでいいのだが、私のところに来る男は私の顔や胸、お尻なんかを舐めまわすようにみてくる。
しかも、この男たちのタチの悪いのは舐めまわすように見てくるだけで実際には何も行動に移さない。
これで告白でもしてきてくれるならまだマシなのだが、そんなことは一切ない。
「正直、ウザい」
私のところにくる女は私のコスメやら運動方法やらどうしたら私の様な美貌やスタイルになれるか聞いてくる。
「三恵ちゃん可愛い」「三恵ちゃんの丸眼鏡とっても可愛いね」「どうしたら、そんなにスタイルよくなれるの?」「何食べたらそんな風になれるの?」等々だ。
溜息しか出ない。
「私いつからこんなになっちゃったんだろう?」
ポツリと呟く私には最近気になる人物がいる。
それは教室の端に座っている1人の男。
ぽっちゃり体系で黒縁眼鏡をかけている典型的なオタクみたいな男だ。
私とは対極な男。
彼は特定の友人といつも自分たちの趣味について1日語り合っている。
自分たちの世界を持っている。
私にはないものを持っている。
極めつけは彼は少しクラスの不良グループからいじめられている節がある。
私はイジメをする奴もされる奴も大嫌いだ。
だから吾味が不良グループからイジメられている時に我慢ができなくなった。
私が「何をしているのあんた達?」と不良グループに言うと彼ら彼女らは一気に怯んだ。
なぜ彼ら彼女らが怯んだかというと、この高校で私に目を付けられるってことは、この高校で生活できなくなるからだ。
言ってしまえば学校中の男女の生徒に留まらず、教師までが私の味方だ。
怯むのは仕方ない。
私が不良グループから吾味を助けてやった優越感に浸りながら吾味に「あんたも何イジメられてるの?」って言ったら、吾味はこう言った。
「別にイジメられてない。僕はただ、あいつ等が、ただ可哀そうだって思ってただけだ。」と私の目を真っすぐ見て言った。
私はビックリした。
ここ数年、私の目を見てしっかりと意見をしてきた人物は1人もいなかったからだ。
動揺する私をよそに、吾味は言った。
「確かに美ヶ原さんは綺麗かもしれない。でも君はそれだけだ。なんか薄いよ。でも、君が偽善でもなんでも僕を助けてくれたというなら僕は君にお礼を言うよ。ありがとう。」
すごく棘のある言い方だった。
吾味は私が吾味を、学校中の男女を見下していることに気が付いていたからだ。
その上で、『そんな手助けはいらない』と拒絶をしてきた。
私は凄く腹が立ったけれど、私を1人の人として見てくれていることが凄く嬉しかった。
そこから、吾味の観察が始まった。
そこで気が付いたのだが、吾味は猫が好きなようだ。
学校の帰り道に河原を歩いていると吾味の周りにはいつのまにか猫が集まってくる。
それが羨ましくて私も吾味がいなくなった後に猫のところに行くと猫は蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまう。
あいつは歩くマタタビか何かなんだろうか?それとも私が嫌われ体質なんだろうか?
モヤモヤしつつ河原の猫のところに通い続けて1か月が経ったころ、三毛猫のミケ(私が勝手に名付けた)がついにデレた!
その時には吾味のことなんかすっかり忘れてミケを可愛がることに無中だった。
気が付いたとき、私の横には吾味がいた。
「へ~美ヶ原もこんな顔が出来るんだね。今の顔凄いいいよ。」
不覚にもドキんとしてしまった。
私のタイプでは全くないこの男に。
私のタイプは『ジミーズの
断じて、こんなポッチャリ眼鏡オタクではない!!
っと何度も言い聞かせて私はその場を去った。
だけど、ミケに会いたかったし、吾味のことも気になるから私はそれから毎日通い、自然と吾味と話すようになった。
それから半年後。
いつもの様に河原でミケを撫でながら吾味と話をしているとき吾味から聞かれた。
「自意識過剰って言われたらそれまでなんだけど、何で美ヶ原さんは僕みたいな男と話をしてくれるの?」
私は間髪入れずに答えた。
「それは、吾味が私の目を見て私の内面と話しをしてくれるから。私のことを1人の人間として見てくれているから。他の奴らは私のことなんか見てない。私の外側しか見ていないから・・・私はあいつらのファッションの一部じゃない!」
「そっか~美人は美人で苦労してるんだね。僕みたいなのには一生わからないだろうね。その気持ち。」
「そんなことないわよ。実際私は中学2年まであんたと大差なかったし。ポッチャリ丸眼鏡女子だったわ。今からは想像できないでしょ?でも、だからこそ私は外見しか見ない奴が嫌いなの。私が綺麗になった時、コロッと手のひらを返すように寄ってきたあいつ等みたいで嫌なの。でも、あんたは違う。だから、私はあんたと一緒にいるの。」
「そうなんだ。美ヶ原さんは産まれた時からずっと綺麗なんだと思ってたよ。」
「き、き、き、き、綺麗ってあんた!あたしのこと馬鹿にしてるの!!」
「違うよ。僕は君のこと綺麗だと思ってるよ。だって、こんな見た目の俺と一緒にいてくれるんだもん。」
「何よ?どうしたのよ吾味!急に俺とか言っちゃって!あんたそういうキャラじゃないでしょ?」
「へへ。たしかにね。でも、美ヶ原が俺に言ってくれたように美ヶ原もちゃんと俺っていう人間の内面を見てくれてるから、俺は美ヶ原が好きなんだ。」
「え?あっ!ちょっと!え?今何て言った?」
「だから俺は美ヶ原のことが好きだって言った。」
「え?え!ちょっと待って!ナニイッテルカワカラナイ」
「おいおい大丈夫?ごめんね。急に変なこと言っちゃって。それこそ俺みたいなのに『好き』って言われても迷惑なだけだよなゴメン。」
「うううううううん?私はうううう嬉しいよ!私もあんた、吾味のこと好きだし。確かに外見で言ったら『ジミーズの出雲くん推し』だけど、人間としては、あんたのこと良く知ってるし、あんたが好き!」
「え?俺なんかのこと好きって言ってくれるの?」
「あああ当り前よ!私は見た目なんかで人を判断しないわ!あんたが好き。でも恥ずかしいからもう言わない!!」
「そっか好きか。嬉しいな。俺の内面だけを見て好きって言ってくれる人がいるなんて本当に嬉しいよ。」
「???さっきからアンタ何言ってるの?何かキャラ変わってない?」
「ふふふ。嬉しくってつい素がでちゃったんだよ。でも美ヶ原がそんな風に言ってくれるなんて本当に嬉しいよ。だから、美ヶ原だけには本当の俺を見せるね。」
「え?どういうこと?あんた吾味でしょ?何言ってるの?」
「ふふふ。訳わからないよね。でも、お願いだから俺の黒縁眼鏡を美ヶ原の手で外してくれないかな?」
「え?どういうこと?」
「いいから。いいからお願い!」
「もう。わかったわよ。外せばいいんでしょ外せば。」
そう言って私は吾味の顔から黒縁眼鏡を外した。
するとどうだろう。吾味の周りが急にブレだした。
一瞬何が起こってるかわからなかったけど、気が付いたら私の前には『ジミーズの出雲くん』が立っていた!!!!
「え!出雲くん!なんで!え?今ここには吾味がいたはずじゃ?え?」
「うん。吾味だよ。美ヶ原!俺が吾味なんだ!」
「え?どういうこと?吾味が出雲くんで、出雲くんが吾味???」
混乱する私に出雲くんこと吾味は懇切丁寧に教えてくれた。
吾味がしていた眼鏡は『地味めがね』
なんで、吾味がモニターをやっていたかというと、3歳から所属している『ジミーズ』で『出雲くん』として、十数年生きてきた。
結果として、ファンは嬉しいが恋愛として物事を考えた時に吾味という人間を内側から好きになってくれる女性は存在しないのではないかと思ってしまったとのこと。
そんな時に出逢ったのが、この『地味めがね』だった。
鯖江さん作のこの『地味めがね』は眼鏡をかけた人物を体型ごと、たちまち地味にしてしまうという画期的な眼鏡だった。
様はこの『地味めがね』があれば、どんなイケメン芸能人や外部に顔を出したくない人の顔や体系を瞬時に地味なものに変えてしまう力を持つ。
その『地味めがね』を使用していた状態で、私との恋に堕ちたとのこと。
最初は、すぐに飽きられたりすると思っていたが、実際は違った。
ずっと好きでいてくれたとのこと。
だから、事実を伝える気になってくれたとのことだった。
そうして、出雲くんもとい、吾味は聞いてきた。
「こんな俺ですけど、それでも俺とお付き合いしてもらえますか?」
私は「もちろん。喜んで」と答えた。
学校や家族にはモチロン秘密だ。
だから、学校では「美ヶ原さんどうしたの?気でも狂ったの?」なんて言われたりするが、私には気にならない。
なぜなら私は吾味という人間が好きだからだ。
でも、私には1つだけ秘密がある。
吾味も知らない秘密。
今日も帰宅して自宅の鏡の前に座り眼鏡を外す
鏡にはポッチャリした地味な女の子が映っている。
「はぁ~私も言わなきゃな『伊達めがね』のこと。。。」
to be continued............
伊達めがね 空山羊 @zannyou
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