第ニ話

イヲマオは開店前だというのに、酒場の奥、ホログラム盤が内蔵された卓にいた。慣れた手つきでパイプに草を詰め、火をつける。煙が上がっていく…

「ゲホッゴホッガッ!?何すんだいアカネ」

エプロン姿の快活そうな娘がイヲマオのパイプの口を手で塞いだ。

「パイプは体に悪いわよ!!」

「塞いだ方が悪いわ!!」

そう言いつつも、イヲマオはパイプをしまった。酒場の看板娘アカネは、それを見て満足そうに笑った。が、次の瞬間にはまた目を吊り上げて、

「昨日も遅くまでやって!!」

歳の差はないはずなのだが、母親が娘を叱っているようにしか見えない。

「アタシだってあんな時間からやるつもりはなかったんだ。おかげで骨董屋が開いてねぇ。金にならなきゃ意味がねぇのに」

ホログラム盤に顎と肘をつき、手に昨夜勝ち取った金の首飾りを巻き付けて、中心にある大きな装飾をぶらぶらと眼前で揺らして文句を垂れる。どうやらその首飾りをつけて着飾るという考えはないらしい。

「口がよく回るんだから!!…ねぇイヲマオ、もうお父さんもいないんだし、そんなに稼ぐ必要あるの?」

アカネの言葉にイヲマオは口を開け、何かを言いかけてやめた。

「イヲマオ」

店の奥から店主であり、アカネの父のヤオが出てきた。

「いつでも頼りなさい」

アカネとは正反対にもの静かなヤオだが、こうして並んでみると、芯のある目がそっくりだ。

「アカネもヤオさんも、全くシュウ親子は揃っておせっかいだな」

イヲマオは顔のパーツ全てを一本線で描けるような、くしゃっとした笑みを浮かべて言った。


「ねぇ昨日の人偉い人じゃなかったの?報復?とか大丈夫なの?」

一度厨房に行き、戻ってきたアカネは、イヲマオが注文した酒を雑に机に置いた。実は数年前までは朝から酒を飲むことにも苦言を呈していたのだが、アカネ自身も朝一番に飲む酒の味の虜になってしまったため何も言わなくなったのである。今だって厨房で一杯飲んできたに違いない。

「報復なんて、器が小さすぎて話にならんよ」

そう言った瞬間、扉が勢いよく開かれた。

「金の首飾りを持った女はいるか?」

隆々とした筋肉を有する男が、『開店前』と書かれた置き看板をどけて仁王立ちしていた。手にはダグト(大きな槌のようなもの)が握られている。

典型的な賞金稼ぎの出で立ちだ、とイヲマオはため息をついた。



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