第2話 実技授業と攻略対象の登場

翌朝、制服に着替えて寮を後にする。


今日は実技授業がある。それも、ダンジョン攻略だ。街からそう遠くないダンジョンには潜ったことがあるけれどこの学園の付近にあるダンジョンは当然ながら潜ったことがない。

授業で行けるのは3階くらいまでかな。恐らくそこら辺で先生のストップが入るはず。


まぁそれでも授業でダンジョンに潜れるのは楽しみでしかない。




*




退屈な教室での授業が終わり、やっと実技授業が始まった。先生の転移魔法でダンジョンの入口まで連れて行かれると、3人でパーティーを組めと言われてしまった。

正直3階までなら私ひとりで十分なんだけど、先生が言うからには仕方ない。誰か組んでくれる人は居ないだろうかと周りを見たけれど殆ど仲のいい子達で組んでしまって私は一人取り残されていた。


うん、どうしたものかな。


そう考えていると、トントンと肩を叩かれる。振り返るとそこに居たのはアルフレッドくんとカロルくんだった。



「アルフレッドくん……と、君は……」



"私"は彼の名前を知っているけれど、ユリウスは彼の名前を知らないので何も知らないフリをすると、カロルくんは名乗った。

どうやらアルフレッドくんとカロルくんは私とパーティーを組みたいらしい。有難いけれど周りの視線―――主に女子の視線が痛い。

そんなに見てくるんだったら誘えばよかったじゃないかと内心溜め息を吐く。



「ユリウスは闇魔法を使うんだっけ」

「……そうだけど、怖くないの?」

「怖くなんてないよ。闇ってだけで悪印象を持たれがちだけど、闇魔法は希少なだけだからね」

「……はあ」



闇魔法は忌み嫌われるような属性だと思っていたけど、これが主人公補正というやつか。

そんなことを思いながら2人と一緒にダンジョンへ潜った。


ぽたりぽたりと落ちてくる水滴。響く足音。モンスターの気配。うん、ダンジョンに潜ってるって感じがする。というか潜ってるんだけど。



「ん?」



ぴょんぴょんとスライムが飛び出してきた。

私が手をかざして魔法を使おうとした瞬間アルフレッドくんが私とスライムの間に立ちはだかり、氷魔法でスライムを凍らせて倒してしまった。

私がやりたかったのに……

そんな私の気持ちなど露知らず、アルフレッドくんは優しく微笑み、『レディの手は煩わせられないからね』と言う。


いや……お願いだから私にも倒させて。


結局2階まではアルフレッドくんとカロルくんがモンスターを倒してしまい、私は置物同然だった。せめて3階ではモンスターを倒させて欲しい。そう思いながら3階へ続く階段を降りる。


3階には低レベルのボスモンスターがいるらしい。それを倒せて戻ってきたら授業は終了。なのだが―――先に辿り着いていた生徒達はそのボスモンスターに苦戦しているようだった。

ボスモンスターの体力は全く削れていない。



「……見てられない」



私はそう呟き、手をかざす。



「―――ダークレイピア」



名前のついた魔法はかなり強力なものだ。

漆黒の闇から現れたどす黒いオーラを纏ったレイピアがボスモンスターの大きな体に突き刺さる。するとその一撃でボスモンスターは倒れ込み、死体は塵となって消えていった。


やっとまともにモンスターを倒せた。


完全には満足していないけれど、ずっとアルフレッドくんやカロルくんに横取りされていたからボスモンスターを倒せて良かった。アルフレッドくんやカロルくんの実力ならあのボスモンスターも数発で倒せてしまう所だったからね。


先手必勝というやつだ。


ぽかんとしている生徒たちに向かって『早く戻ろう』と言って私はその場を後にする。


ダンジョンから出ると、担当の先生がまるで信じられないとでもいうような表情を浮かべていた。



「れ、レンドルフさん凄いわね。ボスモンスターを一撃で……」

「……そうですか?」



正直弱かったんだけどね。

もう少し強くてもいいような気がするけど、そんな事をしたら生徒達に怪我をさせてしまうか。それはいけない。



「ユリウス……!」



アルフレッドくんが駆け寄ってくる。カロルくんもその後ろからついてきていたが、なんだか眠そうだ。

どうかしたのかと思っていると、アルフレッドくんは私の両手を包み込む様にして握りしめると少々興奮気味に話しかけてきた。



「凄いよ……! 君は強いんだね」

「……そんな事……」

「そんなに謙遜しないで。ふふ、私も負けていられないな」



そう言って微笑みを浮かべた。

顔が近い……パッとアルフレッドくんの手を振りほどくと私は先生に向かって問いかける。



「本当に3階までしか行っちゃいけないんですか?」

「そうね。規則として初回は3階までと決まっているわ」



初回は……って事は慣れてくればもっと下の階層に行けるって訳だね。じゃあ今は我慢しようかな。わがままを言う訳にもいかないし。というかわがままなんて見苦しいったらありゃしない。


私は『分かりました』と言って頭を下げる。



「それじゃあ、今日の授業はここまでにしましょうか」



先生はパンと両手を叩いてそう言った。

周りの生徒達は魔法を連発していたからかかなり疲れている様子だった。私はあの1回しか魔法を使っていない―――というか使わせて貰えなかったから全く疲れていない。

アルフレッドくんとカロルくんは……疲れている様子は見られないね。


まぁ、私にとってはどうでもいいのだけれど。


授業が終わり休み時間、私はひとりでベンチに座って昼食を食べていた。のだが、なんか数人の女子生徒に囲まれて睨まれてる。因みに怖くは無い。


だけど見られていると食べずらいのでジッと見つめ返しているとリーダー格であろう女子生徒が腕組みをしながら私に向かって口を開いた。



「あんた、アルフレッド様とカロル様に気に入られて良い気になってんじゃないわよ」



え、何、私いつの間に気に入られてるの。初耳なんだけど。そしてとてつもなく迷惑なんだけど。



「黙ってないで何とか言いなさいよ!」

「……何とか」

「ふざけてんの!? このっ……いい加減に……!」



そう言ってリーダー格の女子生徒が炎を出した瞬間、どこかで聞き覚えのある声が聞こえてきた。どこで聞いたことがあるかなんてゲームでしかないだろう。


女子生徒達は声の主を見て顔を真っ青にし、私はと言うと心底面倒なことになったとゲンナリしていた。



「おい、うるせぇぞ。何してんだ」



黒髪に鋭い黄色の目をした男子生徒がつかつかと歩いてきて女子生徒の手首を掴んだ。そしてギロリと睨みつける。わぁ、凄い迫力。


女子生徒達はその場から逃げていった。私はもぐもぐと再度お弁当を食べ始める。



「怪我はねぇか」

「……むぐ」

「はぁ、食ってるもん飲み込んでから答えろよ」

「……貴方が来てくださったので、怪我はしてません」



本当は余計なお世話だけど。

この人は3年の先輩だったはず。名前は確かトラヴィス・ソーンダイク。攻略対象の一人だ。口調は荒いが優しい所があると姉さんが言ってたっけ……姉さんもこのゲームにハマっていて推しがこのトラヴィスさんだった気がする。


というか、これも原作と同じ展開な気がする。絡まれていたところをトラヴィスさんが助けに来る。


普通だったらそれなりにときめく場面だと思うけれど、そうでも無い。寧ろときめきというものがなんなのか分からない。



「隣いいか」



まさかの。

まぁ断る理由も特にないし、私は『どうぞ』と言った。すると私の隣に座り購買で買ったであろうパンを食べ始めた。


話すことは無かったため、ずっと無言で食べていた。そして昼食を食べ終えトラヴィスさんに向かって一礼し、教室へと戻った。

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裏ボス並みの力を持ち、闇魔法を扱いますがこの乙女ゲームの"主人公"です 雪兎(ゆきうさぎ) @Snow_0913

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