裏ボス並みの力を持ち、闇魔法を扱いますがこの乙女ゲームの"主人公"です

雪兎(ゆきうさぎ)

第1話 入学式と攻略対象との出会い

よくある魔法学園が舞台の乙女ゲームでは、主人公は珍しい光魔法の使い手であることが多い。


けれど私が開花させたのは―――闇魔法。


開花したのは10歳の頃だった。それはもう街のみんなが私を恐れた。原作通りなら平民が魔法を使えた前例などなかったし、何より珍しい闇魔法だったから。子供達からは化け物と罵られたが、正直痛くも痒くもなかった。


あっという間に孤立してしまった私は遊び相手もいなかったため、ただただ魔法をコントロールする練習を繰り返した。そして暇さえあればモンスターを倒してレベル上げもしていた。


そして6年の月日が経ち、私はゲームの始まる魔法学園への入学が決まった。お父さんとお母さんは喜んでくれたけど、実際のところは闇魔法を使う化け物を早く手放したかったのだろう。



『あの子が怖い』

『早く手放したい』



両親のそんな言葉を聞いたことがあるから。


まぁ、それでもいいよ。私は私の力で生きていく。

―――そんなこんなで今私は学園行きの馬車に乗っている。窓の外は完全に都会だ。多くの人々が行き交っている。


そしてしばらくして馬車が止まった。


ゆっくりと馬車から降りて地図を片手に魔法学校へと向かう。



「―――わぁ、ゲームと全く同じだ」



辿り着いた学園の校舎は乙女ゲームの世界と全く同じだった。

私はゆっくりと学園へ足を踏み入れた。本来ならばここで攻略対象と恋愛をしていくのだが、生憎私は恋愛に興味がこれっぽっちも無い。


確かに周りの子達はゲームの世界の住人なだけあって美形揃いだけど、私としてはどうでもいい。


そんな事よりも実技の勉強がしたい。魔法をコントロールするための練習やレベル上げは本当に暇つぶし程度だったんだけど、繰り返していくうちに楽しくなってきてしまったのだ。


今ではダンジョンに一人で潜れるくらいの実力がある。なんなら最下層のフロアボスも倒したし。


確かこの学園には実技としてダンジョン攻略がある。それが一番楽しみで仕方がない。スキップしそうな勢いで私は自身の教室へと向かった。


教室の扉を開けると、視線が痛い程突き刺さる。


そしてコソコソと何やら話しているのが聞こえてきた。大方、私が闇魔法を使えるからだろう。この世界に闇魔法を使える人間なんて居ないのだから。


自分の席に着き、溜め息を吐いて窓の外を見つめていると不意に誰かに声をかけられた。こんな私に話しかけるなんて物好きな人もいるものだなと思いながら振り返ると、そこには金髪に優しげな橙色の瞳をした正に王子様という表現が合いそうな男子生徒が微笑みを浮かべていた。



「初めまして、私はアルフレッド・ブロードハースト。よろしくね……君は?」

「……ユリウス……ユリウス・レンドルフ」

「ユリウス……ふふ、いい名前だ」



アルフレッド・ブロードハースト。

確か攻略対象の一人だったはず。まさか向こうから話しかけてくるとは思わなかった。とりあえず必要最低限の会話だけしてあとは無視しとこう。

何度も言うけれど恋愛に興味はない。



「隣の席だし、仲良くしてくれると嬉しいな」

「……ん」



なんでこんな風に話しかけられなければいけないのだろうか。乙女ゲームの主人公ってこんなにも絡まれやすいのか? 正直言って面倒臭い。


はぁ……早く終わって欲しい。


そんなことを考えながら先生が迎えに来てくれるのを待った―――




*




そして、入学式が始まった。

アルフレッドくんはかなりしつこいくらいに話しかけてきた。そのお陰で女子生徒からの妬みの視線が凄まじいことになっていた。これは後で報復が来るだろうな。


そんなことを考えながらぼんやりと学園長の話を聞いていた。すると隣から寝息が聞こえてきた。ちらりとそちらを見ると銀髪の男子生徒が眠っていた。

入学式で爆睡するなんて勇気あるな……と思っていたらその男子生徒が私の肩にもたれかかってきた。


重い。


流石にこれは起こした方がいいね。ゆさゆさと身体を揺さぶり起こすと、銀髪の男子生徒はゆっくりと目を開けた。銀髪銀目の珍しい顔立ち。確かこんな感じの攻略対象がいたような気がする。名前は―――カロル・リングレイン。


私の記憶が確かならそんな感じの名前だったような気がする。


男子生徒は目を擦ると私の方を見やり、小声で話しかけてきた。



「すまない……どうも眠くて」

「……いや、大丈夫」



そういえば原作のシナリオにも入学式でカロルくんが主人公にもたれかかって眠るシーンあったような気がする。


興味が無さすぎてボタンを連打してた記憶がある。



「―――それでは、生徒会長挨拶」



その声と共に現れたのは、黒髪に緑の目をした優しげな男子生徒だった。男子生徒は一礼すると話し始める。



「皆様、ご入学おめでとうございます。私は生徒会長のカーティス・スウィフトと申します」



カーティス・スウィフト。

確か彼も攻略対象の一人だったような気がする。ボーッと見つめているとバチッとカーティスさんと目が合ってしまった。

思わず目を逸らす。


なんというか、乙女ゲームの主人公も大変だね。こんなにも男の人と接点ができてしまうなんて。これじゃあ女子生徒に妬まれるのも無理もない。


このゲームにはあと1人の攻略対象がいるはず。だけど高学年だったはずだから今はまだエンカウントすることは無い。このままエンカウントせずに終わりたいところだけどまぁ、そうは問屋が卸さないだろう。



「皆様が快適に学園生活を送れるよう、私達も全力でサポートさせていただきます。新入生の皆様、私達と共に有意義な学園生活を送りましょう」



そう言ってカーティスさんは一礼し、席へと戻って行った。


そして入学式も順調に進み、何事もなく終わった。

その後は教室で担任の先生の話を聞いて解散となった。そして私は攻略対象と関わる前に真っ直ぐ寮へと向かい、思いっきりベッドにダイブする。



「色々と疲れた……」



初日から攻略対象と接点ができてしまうなんて思わなかった。アルフレッドくんに関しては隣の席だし……アルフレッドくんに向けて熱い視線を送っていた女子生徒は何人もいたからこれからどうなる事やら。



「まぁ、嫌がらせは確実に来るだろうね」



乙女ゲームにはありがちの展開だ。

嫌がらせを受けている主人公を攻略対象が助けに来る。そして距離を縮めていく。


でも私は嫌がらせには慣れている。幼い頃から闇魔法を使えるってだけで化け物扱いされ、嫌がらせを受けてきたから。



「まぁ、今日は寝よう」



明日から授業が始まる。

先生が言うには早速実技の授業が始まるらしいからそれを楽しみに眠ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る