王様だからね

ゆかり

それでも年はとりますから~

 この広い、どれくらい広いかも解らないくらい広い宇宙の何処かに地球とよく似た星があった。

 環境が似ているせいか、その星の生物も地球とよく似た進化を遂げ、地球人と同じく近眼、老眼、白内障に悩まされていた。

 地球と違うのは、その星には国が二つしかない事。どちらの国にも王があり、二人の王はそれぞれ眼鏡派、コンタクトレンズ派に分かれていた。


 コンタクト派の国の王は女王。眼鏡派の国の王は男王。奇しくも同い年だった。

 両者とも若く自信に満ちた、たたずまいの美しい王だ。

 

 コンタクト派の国では眼鏡の使用は固く禁じられていた。当然、眼鏡派の国ではコンタクトの使用が禁じられている。

 だが、人々は禁じられているモノにこそる。それが世の習いである。

 どちらの国でも少し怪しげな裏路地に入ると、いかにもな人物がソロリと寄ってきて囁く。

「旦那、上物が入ってますぜ」

「直ぐに持って帰れるのかい?」

「へい。チョチョイっと検査すりゃあもう、直ぐに」

 意外にも医療機器としての認識がちゃんとしている。


 そんなわけで、この星の民は視力矯正に関しては不自由を強いられていたのだが、それゆえの密かな楽しみに興じることもできた。


 人々は取り締まりの目を逃れ、こっそりと眼鏡舞踏会を楽しんだりカラコンパーティーを開催したり、まあ、実際のところやりたい放題だった。

『秘密』その甘美な響きがまた人々を引き付ける。


 結局、両国の民は平和で幸せだった。

 それぞれの国の王を除いては。


 しかし、この二人の王、年齢も同じで男と女である。その上、物語の中心人物ともなれば、いつしか恋に落ちるという展開が王道だ。

 が、残念ながらそうはならない。諦めてほしい(誰に?)

 ただ、年を取った。二人とも。

 若い時には『王に思い通りにならぬことなど無い』と豪語していたが年齢ばかりは思い通りにならない。等しく年を取る。


 二人の王は白内障になった。

 コンタクトでも眼鏡でもどうにもならない。天然モノの自分の目のレンズが曇るのだからどうしようもない。


 そこに第三の勢力が飛来した。

 外科手術に長けた星からの使者がUFOで。


「ワレワレハ アヤシイモノデハナイ」

 

 聞けばその星の民も近眼、老眼、白内障に悩まされているのだという。

 近隣の星をリサーチした結果、この星の視力矯正技術が素晴らしいという事で、自分たちの星の白内障手術の技術とコラボすれば、人類の新たな偉大な一歩になるだろうと言うのだ。

 

 それまで頑なに相手国の視力矯正方法を拒んでいた二人の王は思案する。

『しかし、白内障手術の技術が手に入ればコンタクトなど不要だ。眼鏡で十分ではないか』

 と、男王は考える。同様に女王も思う。

『手術すれば眼鏡など要らぬのでは?』

 両国の王を見透かしたかのように、手術の星の使者は口を開いた。

「お二人とも白内障の上に老眼でしょう? おまけに近眼でもある」

 指摘された二人の王はぐっと言葉を飲み込む。

「ところで近眼の人は老眼にはならない説がありますが、あれ、どう思います?」

 手術の国の使者に問われ、女王が答える。

「私は近眼ですがコンタクトを外せば近くも良く見えます。だから老眼ではないですよ。確かに近眼は老眼にならないと思いますけど」

 男王も同様の意見だが女王と同じなど癪に障るので黙っている。


「老眼の定義ですね、問題は。近くのモノが見えにくくなるのが老眼だと思ってるアナタ、ブブーッです。要は老化による筋力の衰え。目のピント調節も一種の筋肉の力ですから。つまり近くのモノ云々ではなく、ピントを合わせる能力の低下が老眼です」

「じゃあ、私も老眼って事?」

「はい。残念ながら。その上ひどい白内障ですね。日常生活に支障が出てるのでは?」

「ふっ。だから眼鏡なんじゃよ。遠近両用! これ最高!」

 男王が勝ち誇る。

「あなたも白内障でしょう? 遠近両用でもなんかこう霞がかかったような感じがするでしょう?」

 手術の星の使者はもはや医者のような物言いだ。

「まあ、それは確かに」

 男王がしょぼんとすると、ここぞとばかりに女王も言う。

「コンタクトだって遠近両用ありますよ。何もご存じないのね」

 男王はムッとする。

 それを制して使者はある秘密を暴露した。

「実は私、先日白内障の手術をいたしまして」

「ほう」

 男王も女王も興味津々、身を乗り出す。

「で、やはり老眼もあったので近くも見えるように焦点を近くに合わせたレンズにしたんです。つまり、近眼寄りの視力にしたんです」

「ちょっと待って。それって、焦点は固定って事?」

「まあ、そうなりますね。多焦点のレンズもありますがアレだとなんだか景色がにじむんではないかと勝手に不安になりましてね」

「じゃあ、今は遠くは見えにくいということじゃな?」

「いいえ、コンタクトで中距離まで見えるようにしてます。で、UFOの運転中は更にこの上から眼鏡をかける。という三段階調整で、快適生活ですよ。はっはっは」

 女王も男王も目をまんまるにして使者を見ている。

「じゃあ、それさ、どうやって手に入れたの? コンタクトとか眼鏡とか? 確かあなた自分の星にはコンタクトも眼鏡もないって言ってたわよね?」

「あっ」

 しまった。調子に乗りすぎた、と使者は後悔するがもう遅い。

「もしかして密輸?」

「あ、いや、えっと、道に落ちてたのを、あの」

「そんな訳ないじゃろ!」


 結局、女王と男王の白内障手術を無料&UFO送迎付きで行うという事で手打ちとなった。

 そしてそのUFOでの往復の間に、男王と女王は老眼話で盛り上がり恋には落ちなかったが良い茶飲み友達になった。

 その後は両国の眼鏡及びコンタクト禁止令は解除され、民は楽しみを失ったが利便さは手に入れた。それに、密かな楽しみなどまたすぐに見つかるものだ。


 とにかく『めでたし、めでたし』である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

王様だからね ゆかり @Biwanohotori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ