第2話 妹よ、タイツを抱け

「あっれー、おにーちゃんまたタイツ脱いじゃったのー?(えっちすぎるわ!好きよ!!)」

 タイツを盗まれ警察から予備を貰って履いたものの、なぜか脱いでしまい息も絶え絶えに路上に這いつくばっていたおれ。上から慈悲深き妹君の声が聞こえる。視界の端にツインテールとセーラー服のリボンがみょんみょん揺れている。鼻先には黒い楚々としたタイツに包まれたおみ足。可愛すぎる、やはりタイツは至高。だがタイツを魅せる為とはいえ、スカートの丈が短すぎやしないか?お兄ちゃんは心配です。

「んもー、ウチの名誉のためにもちゃんと履いてよね!大津(たいつ)家の長男なんだから!!(そしてあたしのマイダーリン…!!)」

そう。おれは、タイツ財閥長男の"大津・ハカナイ"。自社製品のPRってコトでいつもズボンを履かず素肌にタイツ直履きで街を歩いている。もちろん御曹司なんて気付いて貰えもせず、通行人に胡乱な眼を向けられるだけだが。と、呼吸が安定する。どうやら妹子、おれの妹、"大津・妹子"がDr.ハカセールⅢでタイツを履かせてくれたらしい。よかった、一命を取り留めた。…そんな呆れた眼でおれを見るな妹よ…

「いや、強盗にあったんだよ!タイツ強盗!!知らない間に!すぱっと!脱がされてたの!」

「おにーちゃんが自分で脱いだんじゃなくて?脱がされた?(あたし以外が脱がした…?赦さない……)でもおにーちゃん、護タイツ術、紫帯だよね。すごい手練れね…っと電話だわ。」

我が妹はポケットからタイツを取り出し、頭に被る。誰かと通話を始めた。よし、お小言言われる前に逃げよ…とおれが思っていると

「えぇっ!?アンチハカセール試作零号、ヌガセール伯爵を盗まれた!?一大事じゃない!!!…ッ、ちょっとおにーちゃん!探して捕まえてきて!」

……どうやら、タイツ強盗さんはウチのまだ発売されていない極秘商品を盗み出し使用しているようだ…これを捕まえるとなると骨が折れるぞ…だが。妹の頼みを断っては、兄の名折れである。行くぜ!!!

 おれは気合いを入れて駆け出す。こける。タイツが脱げた。

***

―再びタイツを盗もうと街に繰り出すと。先程タイツを盗んだ男が超有名タイツ財閥長女"大津・妹子"と話していた。どうやら彼は御曹司だったらしい。なんて相手を狙ってしまったんだ…と後悔しているのも束の間。私がヌガセール伯爵を盗んだのがバレているではないか!!!あ、やばい、あいつがこっちに走ってくる!逃げなきゃッ…!?

 焦るのも束の間、こっちに向かって走ってきたと思ったらこけてタイツが脱げている。意識を失っているようだ。幸い周りには誰もおらず、妹子も急ぎ本社ビルに戻ったようだ。即座にヌガセール伯爵を起動。彼のタイツを盗み、この惑星が未来より低重力なのを良いことに私は時速4キロの疾走でアジトへと舞い戻った。

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