#6

「さてと……準備も整った事だし、お兄さんの話、聞かせてよ」


 僕が席に着くや否や、既にコーラを半分も飲み進めたルナがサラリと切り出した。


「話……ね。別に改まった話じゃないけどな」


 真っ直ぐな彼女の視線に居心地の悪さを感じて背筋を伸ばした僕は、最高にいけ好かない女との話をポツリポツリと吐き戻す。


「僕さ、婚約者がいたんだよ。5年付き合って、相手方の両親に顔見せもした」

「へぇ、それはそれは……。でも、過去形って事は……寝取られ系?」

「違う、陽菜はそんな奴じゃない。ただ、僕が彼女に釣り合わなかっただけ」


 長い長い溜息を吐いた僕が徐に「いただきます」と手を合わせてから箸を取ると、それに釣られてルナも手を合わせた。その当たり前の動作さえ、陽菜と一緒になるまではおざなりにしていた僕は、しっかりと染み付いた食事への感謝に彼女の顔を思い浮かべる。


「何処ぞの名家の生まれで学歴優秀、その上美人で謙虚な彼女が僕を食事に誘った時は、まさかと思った。……実際その時の店の雰囲気に圧倒されて話した内容もほんの一握りしか覚えてないし、料理の味なんて見事に記憶に残ってない」


 マヨネーズがベタベタに混ざったポテトサラダを口に運んだ僕の様子を眺めるルナは、「ふーん」と瞳を細めながら口を尖らすと、テーブルに用意されたフォークでミニトマトを刺した。


「そんな絵に描いたような『理想の女』なんて、なんかの詐欺じゃなくって?」

「それも最初に疑った。でも、彼女は裏表の無い率直な人間だったよ──僕なんかとは大違いで、ね」


 カラン……ッとコーラに沈む氷が音を立てて崩れると、炭酸のあぶくがフワリと舞って小さく爆ぜる。僕は急かされたようにグラスをとってコーラを流し込むと、少しぬるくなった液体は甘い余韻を残して喉を通り過ぎてゆく。


「結婚を前提にした同棲は1年ぐらいした。一緒に過ごす中でお互いの事を知るたびに、性格とか身分とかでは括れない、根底に流れる共通の『何か』があると思った。……笑うかも知れないけれど、感覚的に僕らは『2つで1つ』だと悟ったんだよ」

「それって……ソウルメイト的なやつ?」


 フォークに刺さったミニトマトを噛んで飲み込んだルナは何時ぞやの僕が陽菜に尋ねたように小首を傾げると、静かに僕の返答を待った。


「いや……魂の片割れ、ツインレイ的な『何か』」


 反射的に僕の顔が緩んだのは陽菜とのやり取りのせいか、それともまだこんな事を口走ってしまう情けない自分のせいか──。残ったコーラに手を伸ばして自虐的な考えを飲み込んだ僕は、「もう揃わないけどね」と頭を掻く。


「僕みたいなのには二度と手の届かない他人になった。……たったそれだけのことをずっと引きずってんの」

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