#3
繁華街に到着したのは、指定した時間よりも10分近く早かった。
走ったお陰で乱れている息を整えながら周りを見渡し、たった数日さえ何年も待ち侘びた感覚を僕に植え付けた彼女の姿を探す。
「お兄さんって、結構セッカチなんだね」
何処からともなく聞こえるルナの声が夜の帳を切り開くように響くと、後ろからトントン……ッと肩を軽く叩かれる。
「集合時間には早く来るタチなんだ──って……」
振り返った先に待ち受ける彼女の細い人差し指が僕の頰を突き、まんまと嵌められた僕は不機嫌な声色を作って「おい」と不満を零す。
「引っ掛かってるー」
出会った時と変わらないチシャ猫の目は糸みたいに細く僕を嘲笑うと、「冗談だって」と悪びれた様子もない彼女は背伸びをしてぐしゃぐしゃと僕の頭を乱雑に撫でた。
「やめろって」
「良いじゃん、別に減るもんじゃないんだし……あー、お腹空いちゃったなぁ」
態とらしい振りで夕食の催促を寄越すルナはパチリと目配せをして見せると、僕の手を当たり前のように取って、優しく繋いだまま笑い掛ける。
「……あのなぁ」
「なんか違ったっけ?」
ここまで人のペースを散々に乱す彼女に幸せな溜息をひとつ吐いた僕は、ニヤける口元をぐっと結んで「行くぞ」とだけ答えた。その様子を満足そうに見つめるルナは、今にもスキップでもしそうな足取りで僕を引き連れて喧騒の街を進む。
──何かが変わりそう。
ルナに見つかったあの日から、彼女を想うたびに覚えるこの感情の名前は、一体何というのだろう?遠い日々に忘れ去ったソレが齎す幸福に名前があるとするのなら、僕はきっとその正体を1年前にしまい込んでしまったのだ。
止まった時計が動き出すように、揺れ動く彼女の髪が街灯を反射するたび呼び起こされる鮮やかな情緒が、僕の胸一杯に広がってゆく。
「お兄さんって子供みたい」
至って子供みたいにはしゃぐルナが口を大きく開けて振り返り、僕はその仕草を真似て笑い返す。
「お互い様だろ」
どんぐりの背比べよろしく軽口を叩き合っているうちに、目的のファミレスが真新しい看板の電灯を躍らせ、充分大人なお年頃のお子ちゃまを出迎える。
「よぉし、今日は食べるぞー!」
両手を力一杯振り上げて伸びた彼女は無邪気な瞳を輝かせて、恥ずかしげもなく僕に向かって宣言した。
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