#4

「いつもそうやって客引きしてるの?」


 部屋の中央に置かれたベットに腰をかけた僕は、スーツの上着を脱ぎながら制服姿のルナに問いかける。


「基本客引きなんてしなくても、ウチは結構固定のお客さんいるし。お兄さんに声を掛けたのはたまたまだよ」


 先程まで着ていたオーバーサイズのTシャツとは違い、体のラインを強調するようなピッタリとしたワンピースを纏う彼女は僕に並んで腰を下ろすと、「どうする?」と艶やかに微笑んだ。


「どうするもこうするも……僕、こういう店に来た事ないし」


 一見リラクゼーションスパを連想する簡素な部屋を見渡した僕の手にしっとりと自らの手を重ねたルナは、「へぇ」と長い睫毛を持ち上げて目を輝かせる。


「じゃぁ、お兄さんのハジメテ、ウチが貰っとくね」

「その言い方……」


 色々と間違った解釈を招きかねない彼女の言葉に苦笑いしつつ溜息を吐くと、悪びれる事なくルナは重なった手の指を絡めた。


「本当の事でしょ……お兄さんさ、実際、ウチのことどう思ってる?」


 目を合わせることなく唐突に投げられた質問が僕の思考を掠め、言われるがまま思いつく限りの彼女の印象を指折りで考える。


「……押しが強くって、自信家で、妙に割り切ってて悩まなさそうな人」

「悩まなさそう、かぁ……」


 ニヤニヤと目を細めて頷くルナは「当たらずとも遠からずやね」と偉そうに講評してみせると、指を絡めた手をそっと持ち上げて僕の甲に口付けを落とす。


「ウチらの仕事って、謂わば『サービス業』なの。だから、お客さんの心情を感じ取るのって実はすっごい大切なんだけどさ……お兄さんを見た時、ウチは昔の自分を見てる気がした」


 懐かしむような表情で僕の目を覗く彼女の瞳はどこか朧で虚しく、まるで僕を通して遠い何かを見ている気さえする。


「昔の自分……?」

「そうそう、この業界に入った頃の自分」


 繋いだ手を手繰り寄る彼女に促されるままベットに雪崩れ込んだ僕と折り重なるように寄り添うルナは、優しい口調で「聞きたい?」と囁く。


「まぁ」


 こんなにも強引な彼女が味わった虚無に興味がないと言えば嘘になるが、人の不幸をメシウマに出来る程の度胸も無い僕は答えを有耶無耶にしてルナの口から出る言葉を待った。


「ふふっ……今日はお兄さんと会えて機嫌が良いから話したげる」


 不敵に微笑う都会のシエラザードはたった一夜に出会った僕を愛おしそうに見つめてから、そっと小さな舌で柔らかそうな唇を湿らせた。

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