第4話
翌日、神社へ足を運んだが、桜はいなかった。正午まで神社で桜が来るのを待ってから、僕は大学病院へ向かった。
広い病院の中、桜を探し回る。
病院内、中庭、駐車場、待合室。どこにも見当たらない。
それでも探し続けて、そしてようやく見つけた。
「桜」
桜は屋上にいた。
ひとり、神社の方角を眺めている。
声をかけると、ハッとした顔で桜が振り向く。
「汐風くん……」
僕を見て、どうしてここに、とでも言いたげな顔をした。
「桜に、話がしたくて会いに来た」
「話?」
ほんの少し警戒したような顔に、ちょっと怖気付きそうになる。
だれかの心に踏み込むのは、怖い。でも、知りたい。その気持ちのほうが強かった。
「僕、桜に会うまではずっと、だれのことも信用してなかった。嫌われるのが怖かったんだ。だから意地を張って、ひとりでも大丈夫って言い聞かせてきた」
「汐風く……」
「桜はなにが怖いの?」
「え……」
「桜は、僕の秘密をまっすぐに受け入れてくれた。だからってわけじゃないけど、僕は桜のことが好きだから受け入れるよ。どんなことでも」
風が吹く。さらさらとした彼女の髪をさらって、華やかな春の香りを僕のところまで運んでくる。
「教えてよ、桜」
まっすぐに訊く。しかし、桜は首を横に振って、言った。
「言えない」
「どうして?」
「汐風くんの気持ちは嬉しい。でも、言えない」
「なんで……」
「だって私、汐風くんに嫌われたくない。気持ち悪いって思われたくない」
「そんなこと思うわけないだろ。僕をなんだと思って……」
「みんな、最初はそう言うの。でも結局、離れてく」
「ほかの奴らと一緒にしないでよ。僕は、どんな桜も受け入れる」
「……本当に? 本当に、嫌わない?」
「うん」
まっすぐ、頷く。すると桜は、しばらく黙り込んでから口を開いた。
「私、偽物なの」
「え?」
言葉の意味が分からず、眉を寄せて桜を見る。桜は目を泳がせてから、もう一度僕を見た。
「私、クローンなの。もともとは本体の……お姉ちゃんの病気を治すために、お姉ちゃんのDNAから作られた医療用クローン。でも昨年お姉ちゃんが死んで、私は用済みになったんだ」
「…………」
「お姉ちゃんは、私を守るために死んだ。研究所のひとたちはみんな、私をものとして扱ったけど、お姉ちゃんだけは違った。私をちゃんと、ひとりの人間として見てくれてた」
桜は懐かしそうに目を細めて、どこか遠くを見つめる。
「お姉ちゃんはいろんなことを教えてくれた。大好きだった。……お姉ちゃん、最後に会ったとき言ったんだ」
もし、私が死んだとしても、桜は生きて。私がいなくても、これからもちゃんと生きていくのよ。私のことを負い目に思うことなんてない。しっかり、じぶんを生きるの。
「お姉ちゃん、自殺だったんだって」
「え……」
「私が造られた目的は、お姉ちゃんへの臓器提供だったから、私を生かすには、移植相手のお姉ちゃんが死ぬしかなかった」
「そんな……」
「それからは、私は戸籍上、千鳥
抑揚のない淡々としたその口調は、いつもの明るい彼女の喋り方とはかけ離れていた。
「……幸せなんて言葉、なんであるんだろう」
ぽつりと、桜が言った。
「え……?」
「だってふつう、幸せだったらそんな言葉は生まれないでしょ」
だからきっと、幸せなんてこの世に存在しないの。みんな、『幸せ』って言葉を無理やり当てはめて、じぶんに言い聞かせてるの。私は幸せなんだ、って。
淡々と話す桜の眼差しに、感情はなかった。
『意味がある。絶対』
『君は必要だよ』
頭の中で、彼女のかつての言葉が何度もリフレインする。
ずっと、その言葉をほしがっていたんだ。今の彼女には、そう言ってくれるひとがいないから。
「……ごめんね、いきなりこんなこと暴露しちゃって。驚かせるつもりはなかったんだけどね」
悲しげに笑うその横顔が切なくて、胸がぎゅっと絞られるようだった。
言葉にならない思いはすべて涙に変換されて、表に溢れ出す。
「君は、ずっとそんなことをひとりで抱えて生きてきたの……? お姉さんが亡くなってからも、ずっと」
ずっと、ずっとひとりぼっちで……。
「みんな、優しいよ。今だって病院の奥に私専用の部屋をくれてるし、検査とかもきっちりしてくれる」
「でも、ひとりで我慢してたことに変わりはないでしょ」
お姉さんを失った悲しみを。
桜にとって、きっとお姉さんは唯一の味方だったのだ。周囲がどれだけ優しくても、気を遣ってくれても、どうしたって埋められないものはある。桜にとってお姉さんは、きっとその穴を埋めてくれる唯一のひとだったのだと思う。
そう思ったら、息ができないくらいに胸が苦しくなって、涙が出てきた。
「……もう、なんで汐風くんが泣くの」
「知らないよ、勝手に出てくるんだから……」
言いながら、ハッとした。
つい最近、僕はこの言葉をどこかで聞いた気がする。
……そうだ、凪だ。凪は僕がふられたことを知ると、じぶんのことのように泣いていた。なんなら、僕のことを置いてけぼりにして泣いていた。
それを見て僕の心は動いたのだ。
今の僕は、あのときの凪だ。
これまでずっと、僕はじぶんを冷めた人間だと思っていた。
ひとりでいたほうが楽。ふつうの楽しみなんていらない。興味ない。そう、思っていた。
でも、違った。目から溢れるあたたかいものが、それを証明している。
だれかのために……いや、好きなひとのためになら、涙はこんなにも溢れるものなのだ。苦しくなるものなのだ。
ようやく理解する。
こんなにも胸が苦しくなるのは。
こんなにも、やるせなく感じるのは。
……こんなにも、どうにかしたいと思ってしまうのは。
「……桜だからだ」
ほかのだれでもない、僕の好きなひとだから。
涙で視界はぐちゃぐちゃだ。桜が今どんな顔をしているかすら分からない。
それでもこの言葉だけは言わなきゃと、僕は涙を拭って桜を見つめる。
「君は代わりじゃない。偽物でもない。君は君。世界でたったひとりの、僕の好きなひとだよ」
「汐風くん……」
「どうしてこんなに涙が出るのか、今分かった。好きなひとが抱えてた秘密を打ち明けてくれたから、嬉しいんだ。すごく、すごく嬉しいんだ」
そう言うと、桜は驚いた顔をした。
「え、そういう意味で泣いてたの?」
「そうだよ。だって、だれかにこんな大切なことを言われたのは、初めてだったんだから」
「ははっ……なにそれー」
「……だからさ」
一旦言葉を区切って、服の袖で涙を拭う。そして、はっきりとした声で言った。彼女の心に、届くように。
「たぶん幸せって、こういうことだ」
「そっかぁ……」
すると、桜は笑いながら目元を拭った。
「……ねぇ、またあの神社で会える?」
「うん。土曜日、行く」
「ぜったいだよ」
頷くと、桜はおもむろに小指を僕に差し出してきた。すぐ意味を察して、僕も小指を出す。すると、不意に小指に桜の小指が触れた。そのまま、お互いの指が優しく絡まる。
「じゃあまたね」
「うん、約束」
まるで、秘密の約束ごとのようで、どきどきした。
その日の夜はもちろん、眠ることなんてできなかった。
次の週末、僕は紫ノ宮神社にいた。桜の木の下に愛おしいシルエットを見つけて、頬がほころぶのを実感する。
「桜」
名前を呼ぶと、桜が軽やかに振り返った。
「汐風くん!」
桜は僕のもとへやってくると、さっそく元気な声で言った。
「この前の答え、撤回したくて」
「この前の答え?」
首を傾げると、
「私、考えてみた。考えて考えて、これがぜったいに正しいって思う答えはまだ分からないけど……でも、生きたい。気持ち悪いって思われても、みっともないって思われても、生きたい。私は、お姉ちゃんが大好きだったから。汐風くんに……好きなひとに出会えたから」
ハッとして桜を見る。蒼ざめた深水のような瞳に、僕が映っていた。
「錦野汐風くん。私は、汐風くんのことが好きです」
生まれて初めて、受けた告白だった。
嬉しくて、飛び上がりそうになるのを必死でこらえ、負けじと言う。
「僕も、好きです」
桜は心底嬉しそうにはにかんだ。ポケットをまさぐる。
「ねぇ、これ、もらってくれる?」
取り出したのは、あの日突き返されてしまった、黒猫と桜のキーホルダー。
「つまりその……付き合ってくれませんかってことなんだけど」
桜は一度僕を見てから手の中のそれへ視線を移す。そして、僕の手ごと、両手でぎゅっとした。
「はいっ!」
こうして僕たちは、恋人となった。
桜と一緒に過ごす時間、僕の心は初めての感情で溢れていた。
天気のようにころころと変わる桜の表情のひとつひとつが愛おしくてたまらない。
楽しい、嬉しい、可愛い。あれが食べたい、あそこに行きたい。
桜は、いつだって素直な感情を口にした。僕はそれが、すごく嬉しかった。
ふたりで近くの美術館に行ったり、海に行ったり、たい焼きやたこせんを半分こしたりしながら、他愛ないことをたくさん話した。
ただ、ふとしたとき桜の顔が曇る瞬間があった。何度もその瞬間を見たはずなのに、僕は深く気に留めなかった。
夏休み前になると、桜はさらに病院から出られない日が増えた。
それでも僕は、早く夏休みにならないかな、なんて浮かれたことばかり考えて、桜の変化にこれっぽっちも気付かなかった。
夏休みになれば平日もたくさん会える。だから今は、桜もきっと検査を詰め込んでいるんだ。その程度にしか考えていなかった。
そして。
無限にあると思っていた桜との時間は、突然に終わりを告げた。
ある日の朝、蝶々さんが僕に言った。
「しおちゃん、神社で女の子と会ってたりする?」
どきっとした。
べつに悪いことをしているわけではないのだけど、なんとなく後ろめたいような、恥ずかしいような気持ちになり、僕は蝶々さんから目を逸らす。
「……まぁ、はい」
「そっか。その子とは、付き合ってるの?」
「……まぁ」
答えない僕の態度を肯定と捉えた蝶々さんが、小さくため息をついた。
「……なんなんですか?」
少しイラッとして、語気を強めに訊く。
「会ってるのは、桜ちゃんっていう女の子?」
名前を言い当てられて、僕は弾かれたように顔を上げた。
「……なんで蝶々さんが桜のこと」
ハッとした。蝶々さんは今、桜が入院する病院の研究施設に勤めている。
もしかして、と思った。
「……しおちゃん。話があるの」
「話?」
「まず初めに聞くけど、桜ちゃんのこと、どれくらい知ってる?」
真剣な眼差しに、なんとなく察した。蝶々さんは、桜がクローンであることを言っているのだと。
だから僕は、蝶々さんをまっすぐ見据えて、言った。
「ちゃんと、知ってます。桜の生まれた経緯とか、彼女のお姉さんの話とか。ぜんぶ彼女から聞きました。ぜんぶ知ってて、付き合ってます」
「……そう」
蝶々さんは一度目を伏せてから、僕を見た。いつもと違う厳しい目付きに背筋が伸びる。
「じゃあ、彼女の余命のことは知ってる?」
「……え?」
――余命?
困惑気味に首を振ると、蝶々さんは静かに話し始めた。
蝶々さんの話は、こういうことだった。
蝶々さんは数年前に医師を辞め、それ以来大学病院の研究施設で働いている。その施設は主にクローン研究に力を入れているらしい。
そして七月の初め、蝶々さんが担当することになった患者というのが、研究所初のクローン成功検体である桜だった。
蝶々さんはつい最近、彼女との会話の中で僕の名前を聞いて、僕たちの関係に気付いたのだそうだ。
「クローンはね、ふつうのひとよりもずっと短命なの」
「え……」
生きて、二年程度。
「だから、桜ちゃんは入院しているのよ」
あの施設で、桜は既に一年半ほど暮らしている。つまり余命は単純に計算してあと半年ほど。
しかし桜の体は予定よりずっと早く、限界を迎えていた。
「クローンが短命なのは、臓器が弱いからなの。クローンが私たちと同じ食生活をしていたら、クローンの臓器はすぐにだめになる。研究施設で出されるものだけを食べていれば、そこまで極端な劣化はしないのだけど……桜ちゃん、外出してるときにいろいろ食べてたみたいで」
頭の中が真っ白になった。
知っている。僕はこれまで、桜とたくさんのものを共有してきた。気持ちとか思い出だけでなく、食べ物も。
「この前の検査結果で、桜ちゃんの臓器は既に限界を越えていた。彼女を苦しませないため、私たちは彼女を眠らせることにした」
「眠らせる……?」
蝶々さんは静かに頷き、言った。
「安楽死させることが決定したの」
「あん……らく……」
世界中の時間が止まったような気がした。
「ま、待って、それ……桜を殺すってこと?」
急に気が遠くなった。
「どうして。だって、この前までふつうに元気だったのに」
「桜ちゃん、臓器がもうほとんど機能してない状態なの。これ以上の無闇な延命は、桜ちゃんをただ苦しめるだけになっちゃうのよ」
――安楽死。
蝶々さんの言葉が、ずっと頭の中で反芻している。
「……なんでよ。桜は生きてるんだよ? 桜は、僕たちと同じように生きてて……なのに安楽死って、まるで実験動物みたいな扱いじゃないか!」
「しおちゃん」
「桜は、僕のせいで死ぬってこと……?」
「違うよ、しおちゃん」
蝶々さんが僕を呼ぶ。
「僕はやっぱり、ひとと関わっちゃいけない人間なんだ。炎が操れるから……炎が、ぜんぶ燃やしちゃうから。炎は、僕の大切なものをぜんぶ……ぜんぶ、燃やしちゃう。僕は桜のことも、桜が愛するものもぜんぶ、灰にしちゃうんだ。僕のせいで……桜は」
桜が生き物に水を与える女神なのだとしたら、僕は生き物の命を奪う炎そのものだ。だって炎は、すべてを燃やし尽くしてしまう。ひとも、思い出も、それから……植物も。
桜は、僕と出会わなければまだもっと生きられた。僕が桜の命を奪ったんだ。炎と、同じように……。
呆然とする僕の名前を、蝶々さんが何度も呼ぶ。
「しおちゃんっ!」
両肩を揺すられ、ようやく僕は蝶々さんを見た。
「ちゃんと聞いて。しおちゃんの大切なひとのことだから、私も規律を破って話してるの。お願いだから、冷静に聞いて」
蝶々さんの強い口調に、息を呑む。
「桜ちゃんはね、施設外での飲食が禁じられていること、その理由、ぜんぶちゃんと知ってた。分かったうえで破ったの。それがどういうことだか、しおちゃん分かる?」
「僕のせいだ……僕がなにも知らずに一緒に食べようって言ったから」
込み上げてくる涙をこらえながら言うと、蝶々さんははっきりとした声で「違うよ」と否定した。
「きっと、桜ちゃんは知りたかったんだと思う。君と同じものを見て、食べて、感情を共有したかったのよ」
「共有……?」
「彼女、お姉さんを亡くしてからずっと塞ぎ込んでたみたい。でも今年の春頃から、とても性格が明るくなって、いろんなことに興味を持つようになったって」
春頃。ちょうど、僕と桜が出会った頃だ。
「……でも僕と出会わなかったら、桜はもっと生きられた」
蝶々さんは、
「たしかにそうかもしれない」
と言いつつ、けど、と続ける。
「炎は、たしかに恐ろしいものよ。あっという間にいろんなものを消してしまう。……でも同時に、生き物にとってはぜったいになくてはならないもの。だって、植物は太陽がないと生きていけないでしょ? 炎は、燃料なのよ。だけどそれは、あなたもそう。炎だって、燃える原料が必要でしょ。燃料は植物からできてる。あなたたちは、お互いなくてはならない存在なのよ」
「……でも」
「桜ちゃんはしおちゃんに出会って、初めてじぶんの人生を生きたんだと思う。生きるってね、ただ毎日を淡々と過ごすことじゃないの。じぶんで考えて、じぶんの意思で選択する。好きなひとと好きなことをして、好きなものを食べて……そうやっていろんなことを学んで、いろんな可能性をじぶんで選択していくことが生きるということ」
「でも」
膝の上に置いた手をぎゅっと握り込む。その手を、蝶々さんが優しく握った。
「しおちゃん。ひとはみんないつかは死ぬよ。私も、あなたも。生まれてすぐ亡くなる子だっているし、死ぬことは特別なことなんかじゃない」
分かってはいても、僕の頭はどうしたって、もし、を考えてしまう。
「桜ちゃんの安楽死は今週末に予定してる。桜ちゃん、今既に発熱してて、もうたぶん外に出ることは不可能だと思う。でも、今ならまだ意識はあるよ。会いに来る?」
なんの返事もできずに黙り込んでいると、蝶々さんは続けた。
「私ももっと早く気付いてあげればよかったんだけど……。私にはもう、ふたりに時間を作ってあげることしかできない。だから、後悔しない選択をして。……ただ、しおちゃんがどんな選択をしたとしても、これだけは忘れないで。しおちゃんとの時間を選んだのは、桜ちゃん自身。彼女の意志だよ。だから、じぶんを責めるのはやめてあげて。彼女のためにも」
蝶々さんはそう言うと、椅子から立ち上がった。
冷蔵庫を開け、
「……分からないかな。お別れをする選択肢があるっていうのは、贅沢なことなんだけど」
そう、ぽつりと呟いた。
虚しさが胸いっぱいに広がって、僕は唇を噛み締める。
「……蝶々さんは他人だから言えるんだよ」
蝶々さんが冷蔵庫を開けたまま振り向いた。僕が言い返すとは思わなかったのだろう。少し驚いたような顔をしている。
「蝶々さんは当事者じゃないからそんなこと言えるんだ。蝶々さんがもし僕の立場だったら、もし僕と同じ年齢で、同じ状況で当事者になってたとしたら、冷静にお別れしようなんて思えるはずない!」
蝶々さんは口をつぐみ、俯いた。
こんなの、八つ当たりだ。蝶々さんは、かつての後悔を踏まえて、僕に助言してくれているのに。
……でも、だからって。安楽死を受け入れるなんてそんな選択、僕にはできない。僕はそんなに大人じゃない。
翌日、僕は学校をさぼって、神社に行った。
いつもの桜の木の下に、黒猫がいる。すっかり大きくなった黒猫は、僕を見るなり足元に擦り寄ってきた。
「にゃあ」
すっかり懐かれてしまったな、と苦笑していると、不意に黒猫は僕から離れて能舞台に飛び乗った。舞台の上でころころと床に背中を擦りつけている。図々しい奴め、と思いながら近寄ると、すぐそばに拳の大きさほどの石が置いてあった。いたずらだろうか。持ち上げると、ひらり、となにかが足元に落ちた。
落ちたものを拾って、目を瞠る。
「手紙?」
それは、黒猫が描かれた可愛らしい封筒だった。宛名の欄には『錦野汐風さま』とある。ちょっと下手くそな字だ。
「桜?」
いつの間にこんなものを置いていたのだろう、と思いながら、僕は手紙を開封した。
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