創作物にはその人がそのまま出てる
筆者は音楽系の修行を積んできたという過去があるのだが、大学時代の専科の先生はまさに「師匠」と呼ばなければいけない存在である。最近はめっきり指導を賜ることも無くなったのだが、時々あのどストレートジャックナイフを食らいたい、という謎のマゾ心が生まれてくるのだから相当な存在感だ。
音楽家もプロのプロクラスになってくると、一音聞いただけで全てを悟られてしまうのだ。こちらはなにも喋っていない、にもかかわらずだ。その的中率はどの占い師よりも、どんな心理士よりも高いと思っている。ただ問題は、音楽家という人たちはオブラートに包むとか遠回しに言うとか、あまり考えずに核心をいきなりえぐってくるのでキツイものがある。人間、核心を突かれることが一番堪えるというのがよくわかる指導の日々だった。最初の頃こそただただ撃沈してレッスン室を出るだけであったのだが、回数を重ねると段々と乾いた笑いで返せるようになる。言われていることが事実過ぎて、しかももう隠せないことがわかっているから笑うしかなくなってくるのである。おかげでそこらへんのストレートな物言いには耐性がついた。
それはさておき、印象に残っている言葉がある。それは
「演奏は精神的ヌードである」
これは師匠が思いついた言葉ではなく、師匠がどこかのレッスンで聞いてきて「その通りだ!」となったものらしい。それだけ「音」というものは奏者の内面世界を隠すことなく相手に伝えてしまうものだという。これには勿論同意せざるを得ない。なぜなら今まで全てバレていたからだ。全てというのは、普段の食事までバレていたからだ。
「あんたねぇ!こんな薄い出汁味みたいな音出して!ドイツ人は肉を食べてワイン飲んでの生活してるのよ!」
しゃーないやん、関西はうす味のうどん出汁文化ですやんか。ジャパニーズトラディショナルですやんか。
と反論できるわけもなく。そして勿論食生活をそうすることも出来ず。あの曲は結局出汁味のまま終わったのだろう(確かブラームスだった気がする)。とにかく、音はその人の全てを映し出すもの、ということを嫌でも理解した出来事であったし、なんなら今、その特性を生かした仕事さえしているから面白い。
一方で小説などの「文学」はどうだろうか?
つい最近X(Twitterとまだ言いたい)でも、物語は作者が経験したことしか書けない、みたいな話が流れてきて、たくさんのアカウントが「そんなファンタジーな経験してない」というような反論?を返していたのが印象的であった。
確かに異世界転生だの、魔法が使える世界だの、経験してたらびっくりするし、なんならその方法を教えてほしいものだ。面白そうだから。ただ、きっとこのことばの意味はそういうことでは無いと筆者は考えている。
音と違って「文字」は処理のプロセスが複雑である。音はそのまま、楽器を通さずとも声という音にして表現出来る。しかし文字は違う。文字は「言語」だ。言語の処理プロセスはおそろしく複雑で、いくつもの段階を経て表出されるものである。そしてそこに「物語」という要素がつくと、「思考」が加わってくる。この「思考」の部分で色々な世界に飛び回ることが出来ている。
「思考」を支えるモノは何か?となると、それはやはり個人の経験や、知識になるのだろうと思う。経験は実体験でなくとも、物語を読むことで仮想の体験が積まれていることもあるだろう。仮想の体験が楽しい、というのが「小説」の醍醐味であると思っているし、それが「ファンタジー」というものなのかもしれない。それらを基に生まれるモノは、やはり作者の「経験」からしか出てこないはずである。だからやはり
「小説は作者が経験したことから生まれる」
のだろう。というよりも、その人そのもの(化身)のようなところはあるだろう。あえてそうでないように「演技」をするかのように内容を考えたり文章を紡いだりする人もいるのかもしれないが、にじみ出る個性は隠せないと感じている。素人の筆者でも「あ~これはこういう事経験されたんだろうな~」などとわかってしまうので、プロなら尚更明らかだろう。
音楽や小説に限らず、人が何かを表現したとき、その表現されたモノは表現者のエッセンスが詰まっている。そしてどういうわけか、人々はそれを「見て~~!」と思うことが多い。生身の隠されていない自分であるにもかかわらず、だ。音楽家なぞ、素っ裸の自分を舞台上でさらけ出すということをしている。それでも人前に出るのは、結局誰かとコミュニケーションを取りたかったり、気持ちを分かち合ったり、そういうことが原始的なレベルから欲するものなんだろうな、と思っている。
そんなことを考えながら、今日も自分をさらけ出す作業を淡々と行う。
この不思議な快感はたくさんの人々を虜にし、文化を創り上げてきたのだろう。
創作は、本能!
りおまさんの長めの呟き あかつきりおま @rioma-a
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