第26話 寝れない…
俺たちが撮影を切り上げて新幹線の駅へと戻って来たのは17時近くになっていた。
「ん~と…19時少し過ぎの列車なら22時半までには家に着けそうだし、2時間ちょっと有るから買い物と夕飯なら余裕だろ」
「そうね。お土産買いたいけど持ち歩くのは面倒だから…駅の近くをブラブラしない?」
「そだな。なら夕飯はどうする?」
「此処へ来たら牛タンでしょ!近くに在るかな…」
「さっき調べたら駅ビル以外にも近くに何軒か在るみたいだよ」
「じゃあ行こ!」
そう言う望と駅近くの商店街に向かったんだが…
「望さん、何で俺の腕にしがみついてるのかな?」
「え~?こんな東京から離れた所で迷子になったら困るじゃない。だ~か~ら~迷子にならない様にで~す!」
俺は(こいつ、こんなキャラだったっけ?)と思いつつ、目的の牛タン屋を見付けて夕飯を済ませ、駅に戻ると新幹線の改札口辺りが大混雑している。混雑だけなら気にしなかったのだが、次に聴こえて来た放送に俺は耳を疑った!
『新幹線は架線断線の為、運転を見合せています。運転再開の見込みは立っていません。復旧作業を行っていますが、本日中の運転再開は難しい状況です。詳しくは駅掛員にお尋ね下さい』
「新幹線、止まっちゃったよ」
「つー君、どうしょう…」
「在来線は…だめだ。もう東京までは行けないな」
「……あたし達、どうなるの?」
望が不安そうな表情で俺を見る。俺だって困惑しているけど、とにかく次善の策を考えるのが先決だ。
「このまま新幹線の開通を待つか…でも見込みが立たない中で待つのもキツいよな。ならば、夜行高速バスを使うか?」
「ごめんなさい、あたしバスはダメなの。1時間くらいが限界でバス酔いしそうで…」
「と、なると……取れればビジホに泊まるしか無いぞ?」
「…仕方ないわよね」
「そうか…ならば望はご両親の許可を貰ってくれ!」
「つー君は?」
「とにかく、ビジホを抑える!それから母さんに事情を説明して、母さんからも望ん家へ連絡してもらうから!」と言って何とかビジネスホテルの一室を確保したのだが…シングル二室は無理でツインルーム一つ。これって…
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「ふぅ、何とか寝る場所は確保出来たな。望、家の人は何だって?」
「うん、お母さんに言ったら『無理しないでゆっくり帰ってくれば良いわよ』だって」
「俺も母さんに連絡ついたし、取り敢えず何とかなったな」
「そうね。でさぁ、日帰りのつもりだったから着替えとか持ってないし、最低限は欲しいから買い物行こうよ」
「そうだな。確か駅の周りにユ●ク◆が何軒か在るみたいだから行くか」
俺たちはホテルを出て駅前を通り、大きな交差点近くの●ニ◆ロに入ると各々が服を眺める。俺は下着だけ買うつもりだから「えっと、これとこれか」と簡単に決めて会計を済ませたのだが…
「う~ん、つー君はこれとこっちならどっちが良いと思う?」
「あっ、この柄でこのサイズ見つけた!家の方では無くって」
「これ、もう一枚買おうっと」
そう言いながらカゴの中には結構な服の量が入っている。
「なぁ望、最低限の分じゃなかったのか?」
「えへへ、どうもこういうところに来ると欲しくなっちゃって…」
「まぁ良いけどさぁ」
「じゃあ、会計してくるね」
そうして会計所から戻って来た望の手には大きな紙袋…
「ずいぶん買ったな、お前は」
「うん。最近は服にも気をつける様にしているからね」
「ふ~ん。まぁいいや、ほら紙袋寄越せ。ホテルまでは俺が持ってやるよ」
「え~?あたしの服だからいいわよ」
「いいから寄越せよ!」
「…じゃあ、お願いしちゃうネ!」
「さて、じゃあホテルへ戻るか」
「そうね。あ、途中のコンビニでお菓子とか飲み物、買って行かない?」
「飲み物はともかく、お菓子も?」
「うん!せっかくだからつー君と一杯お話したいし、その為のお菓子」
「じゃあ少しな」
そうしてコンビニで飲み物とスナック菓子を幾つか買い、ホテルに戻って部屋に辿り着くと既に20時近くになっていた。
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俺はツインルームのベッドに寝転んでテレビを視ていると、「お待たせ~。つー君、シャワー空いたわよ」と言いながら望がユニットバスルームから出てきた。俺は準備しておいた下着とホテル備え付けの部屋着を持って「じゃあ、シャワー浴びてくるな」「あたしはその間にドライヤーで髪を乾かしているね」とユニットバスルームに入って身体と髪を洗い、シャワーを浴びて出てきた。その間、僅か5分くらいだったから望は「もう出てきたの!?」と驚いていた。そして望が髪を乾かし終わると二人、各々のベッドの上に座ってテレビを視ながら買ってきたスナック菓子の袋を開く。
「地方のテレビ番組って東京じゃ見ないのって結構有るな」
「CMだって地元企業のが多いから新鮮だね~」
「お、天気予報か。当然だけど県内の予報が細かいな」
「でも東京の予報も一緒に流れるんだ~」
そんな話をしていると、部屋の時計が23時近くを指していた。
「そろそろ寝ようか、明日は新幹線も動いているだろうし」
「ねぇ、つー君は明日って予定在るの?」
「いや、何も無いよ。帰るだけ」
「じゃあさ、新幹線じゃなくて在来線で帰らない?」
「在来線!?」
「うん、普通列車を乗り継いで」
「まぁ、時間は掛かるけど…お前が良いなら良いぞ」
「じゃ決定ね!」
「了解!じゃあ室内灯消すよ。常夜灯はどうする?」
「う~ん…普段と違う部屋だから付けていてくれると有難いかな」
「分かった、じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
そう言うと二人ともベッドに潜り込み、眼を瞑ったのだが…俺はなかなか寝付けない。そりゃ自分の想い人が同じ部屋、しかも直ぐ隣のベッドに寝ているんだから…少しすると隣のベッドから望の軽い寝息が聴こえて来た。
(今朝が早かったから疲れたんだろうな)
(しかし、まさか望と泊まりになるなんて想定外だよ、しかも同じ部屋って)
(でも望って俺の事をどう思っているんだろう?幼稚園の時からの幼馴染みで撮り鉄仲間…程度なのかな。まぁ、今はそれでも良いか)
そして俺はベッドに入って2時間近く経ってから漸く眠りに落ちたのだった。
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