第27話 帰り道①
ガサガサ ゴソゴソ
俺は部屋の中から発する音で眼が醒めた。部屋の時計は6時を少し過ぎた処だ。
「あ、つー君起こしちゃった?」
「いや、普通に眼が醒めただけだけど…何をしているの?」
「うん、昨日着た服を宅配用の袋に詰めてたの。昨日、買い物から帰ってきた時にフロントで宅配便の受付が出来るって掲示が在ったから」
「宅配便?」
「そう。服を持って帰るのも面倒だし、家宛てに送っちゃおうと思って」
望はそう言うと宅配便の伝票が貼られた袋を見せる。
「昨日着た服全部って…もしかして今着てる服、それ全部昨日買ったのか?」
「えへへ、どう?似合う?」
望は白いブラウス、ピンクと言うより少しくすんだ桃色の膝丈スカート、ブラウスの上に淡い水色で薄手のカーディガン…確かに似合っている。惜しむらくはこの格好でカメラの入ったバックを持つ事か。
「うん、似合ってるよ」
「ありがとう!じゃあ、もうすぐ7時だからロビーに朝食食べに行こうよ。ついでにフロントで宅配頼んじゃうから」
「じゃあ着替えるから、待っててくれ」
「ううん、あたしが居たら着替えにくいでしょ?先にフロントで宅配頼んでくるからロビーで待ってるね!」
「そうか?じゃ着替えて行くよ」
このビジネスホテルの系列店はバイキング形式の無料朝食サービスが付いている。まぁ無料なのでそれなりにでは有るんだけど、味噌汁にフリカケを混ぜたおにぎりとかサラダ、3~4品の惣菜が並び朝食としては十分な量だ。
「おにぎりは二つにサラダと…あ、焼いた鮭と鯖も食べよっと」
「お前、朝から結構喰うな?」
「そうかなぁ、つー君が男の子にしては少食なのよ。今だってロールパン一つとサラダだけって…」
「どうも朝はなぁ…」
「朝はしっかり食べないとダメよ」
「ガンバリマス」
「あ、今日は朝刊の無料配布分、まだ有る」
「朝刊?つー君新聞って読むの?」
「ああ、こうやって地方に来た時にはな」
「でもこの朝刊って全国紙よ?」
「全国紙でも地方版だと地方毎に違うから面白いんだ。あとラテ欄なんか完全にちがうし」
「ふ~ん」
「じゃ、そろそろ一旦部屋へ戻るか。望は何飲む?」
「あたしはオレンジジュースがいいかな」
「俺はホットコーヒーにするか。今、カップに入れて持つからエレベーターのボタンと部屋の鍵、宜しく」
「は~い」
部屋に戻るとテーブルの上にオレンジジュースとコーヒーを置き、二人ともベッドに座る。
「もうすぐ8時か、何時頃出ようか?」
「そうね、今日はお土産を買わないとだから…」
「その前に帰り、山線か海線の何方経由にする?」
「う~ん…つー君のお勧めは?」
「一長一短かなぁ。海線の方は乗り換えが少ないけど、海に近い割には海って見える所が少ない。山線は乗り換えが少し多いけど貨物列車も走っているから変化は有るかな」
「そっかぁ…乗り換えが多いって事は色んな車両に乗れるって事だから山線にしよ!」
「分かった。山線なら10時頃の列車で出れば20時前後には家に着けるから…買い物する時間を考えて9時頃には出ようか」
「じゃ、もう少しだけゆっくり出来るわね」
俺たちは9時になったのでエレベーターで一階に降り、フロントでチェックアウトを済ませて駅へと向かった。駅に着くと新幹線は昨日の影響か、未だダイヤが乱れていて、指定席は満席で自由席もかなりの混雑らしい。
「酷いな、新幹線は…」
「うん。時間を気にしなければ在来線にして正解だったわね」
「そうだな。取り敢えず、お土産を買いに行くか」
「うん!」
「見て見て、このキーホルダー!」
「地方のゆるキャラって時々、謎なキャラが在るな…」
「つー君、判っていないなぁ~。そこが面白いんじゃない!」
「…まぁ、望が良いなら良いけど」
「よしっ、これを秋ちゃんと雪ちゃんと光ちゃんのお土産にしよう!」
「俺は無難に●の月にしておくかな。ん~と家と秋絵、雪子、晃一ん家と望ん家だから…」
「えっ?あたしん家は自分で買うわよ」
「いや、新幹線の事故は不可抗力だけど、帰るのが20時間以上も遅くなったんだから俺も謝りに行くよ。その時に手ぶらはちょっと…」
「つー君、妙に律儀ね」
「仕方ないだろ?」
「あたしは気にしないんだけど…」
「望が気にしなくても、家の人が気にするかもだからな!」
「はい」
「じゃ、お土産はもういいかな?よければ改札入ってホームに行くけど」
「そうね。最初の電車から立ちっ放しはツラいわ」
そうして俺たちは東京に帰るべく、山線の電車に乗り込み進行方向右側のボックスシートに並んで座った。
「見て、あの観覧車って何処だろう?」
「あれは…動物園併設の遊園地じゃないか」
「この並木って桜かな?春は綺麗だろうね」
「そうだな、桜の季節なら桜をバックに列車を撮るといいな」
「つー君、そのうちに来ようね!」
「この辺って果樹園かな?」
「県境を越えたし、たぶん果樹園だろう。この県って果物の生産が盛んだしな」
「そう言えば桃の箱でよく見るわね」
そんな会話をしながら途中で一回乗り換え、二人が乗った電車は隣県の県庁所在地な駅に着いた。
「ええと、昼食には早いし次の乗り換え駅でいいよな?」
「うん、確かに早いわね」
「じゃあ乗継時間が10分くらいだから、直ぐに行こうか。たぶん、もう停まっているだろ」
次の電車が停まっているホームへ行くと、其処に居た電車は通称『走ルンです』と言われるロングシートな電車…
「何で旅行に来てまで乗るかな、走ルンですに…」
「つー君の行い?」
「望に言われたくないよ~だ!」
「あたしの今日の運勢って良かったもん!だから、つー君のせい」
「…お前、無駄にポジティブだな」
「ふっふっふっ、それがわたしだからね」
「…はぁ、はいはい」
周りから見たら夫婦漫才みたいな会話をしている二人を乗せた走ルンです、じゃなくて電車はこの県の路線の要衝な駅に着いた。
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