第25話 撮影旅行
7月に入ると俺たちの高校でも期末テストが行われ、全教科の答案用紙が採点されて帰って来た。俺は相変わらず可もなく不可もない点数なのだが、眼の前には頭を抱える秋絵の姿。
「うう~、現国と英語が追試だわ」
「お前なぁ…テスト前、俺ん家で勉強会した時は『解った』って言ってたじゃないか」
「翼君、秋絵の解ったは信用度が低いのは今に始まった事じゃないでしょ?」
「だって…あの時は解ったと思ったんだもの」
「はぁ~…お前、追試もダメだと夏休み中に補習決定だぞ?」
「そんなぁ!補習は何とか避けたいわよ!」
「それなら雪子にしっかりと教えてもらえ!」
「雪子先生!何卒お願いします!」
「まぁ仕方ないわね。中学の頃からこうなんだから…」
「それと秋絵、補習決定したら俺との『あの約束』は無しにするからな!」
「ええっ?」
「それなら追試、頑張れよ!」
「頑張ります!」
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その翌々日、俺は早朝の新幹線車中に居た。もう追試が無い限り終業式の日まで登校する事がない、いわゆるテスト休みを利用して平日にも拘わらず撮り鉄の為に乗っているのだが…隣の席には望が座っている。公立高校なら同じ時期に期末テストだからテスト休みも似たり寄ったりで、望も学校は休みなので一緒に撮り鉄に来たって事だ。
「秋ちゃんは追試なんだって?」
「ああ。あいつ、得意科目と不得意科目の差が激しいんだよなぁ」
「そうそう、中学の頃も同じであたしと雪ちゃんで一緒に教えていたもの」
「そう言えば小学生の頃も算数や社会科なんかは得意だったけど、国語なんかダメダメだったな。でも出来る科目は出来るから地頭は良いと思うんだけど…」
「秋ちゃん、飽きっぽいのよねぇ。三人で勉強してても一番早く飽きるし」
「それは有るな、秋絵だけに飽きってか!」
「つー君、そんなオヤジギャクは要らないから」
「望、そう言えばさぁ」
「ん?」
「雪子や秋絵に鉄が趣味な事、話したんだって?」
「うん」
「そりゃまた、どうして?」
「う~ん、色々あるけど…一番の
「コソコソしたくない?」
「うん。だってこうしてつー君と撮影行く事だって内緒にしなきゃならなくなる訳でしょ、撮り鉄だって言わない限りは」
「そうだなぁ」
「だから思い切って二人にカミングアウトしたの。そうしたら…」
「やっぱり引かれたか?」
「ううん、笑われたの」
「笑われた?」
「うん。そんな人の趣味を否定なんかしないって」
「まぁ、あいつららしいな」
「でね、秋ちゃんが『望、一人忘れてるでしょ?だからあたし達も驚かないわよ』って」
「一人?」
「そう。雪ちゃんが『翼君の妹さん!』って言って気付いたのよ。光ちゃんが鉄な趣味なのを二人とも知っていたからだって。だから今日、こうして二人で来てるのって雪ちゃんも秋ちゃんも知っているわよ」
「あ、そうなんだ…おっと、そろそろ着くみたいだな」
そんな二人を乗せた新幹線は東北地方最大の都市の駅に着いたのだった。
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「すごい人の数だな、コンコースの中だけなら東京と変わらんな」
「ちょうど通勤時間帯だから余計にでしょ?」
「たぶんね。ええっと、地下ホームへの階段は…あっ、向こうだ。望、逸れるなよ!」
「ふぅ、こっちは逆方向になるから空いているな。確か、途中までは地下区間だから地上に出たら撮影場所を探しながら行くか」
「この路線なら海を入れて撮りたいわね」
「そうだな。でも震災の後に線路が移設した区間も在るし、そうじゃない区間も堤防が嵩上げされて海が見え難くなった所も多いらしいよ」
「そうかぁ。でも探せば全然無いって事はないんじゃない?」
「そうだな。取り敢えず、各駅停車だし良い場所を見つけたら降りるか」
「うん!」
そうして俺たちは一番前の車両で撮影場所を探しながら乗っていたのだが…
「もう次は終点だよ」
「う~ん、此処って場所が無かったなぁ」
「そうなのよね、電車と海が上手く入りそうな場所は…」
「海は諦めてさっきの線路移設区間に在った橋、彼処ならこの路線っぽくないか?少し離れた場所から望遠で引っ張って」
「そうね。じゃあ戻ろうか」
数駅戻った駅で降りて線路を見ながら歩くと、震災後に造られた立派なコンクリートの橋が見えてきた。俺たちは各々カメラを取り出してレンズを付け替え、ファインダーを覗いて構図を決め列車を待つ。この路線は車両は二車種しか来ないが電車は編成毎に塗装が違い、それに加えて東京では見ないハイブリッドの気動車も来るので飽きる事なく撮影をしていた。ふと、時計を見ると既に12時を廻り腹が減ってきたので望に訊ねた。
「昼、どうする?」
「あ、あたしが作って来たわよ」
「へ?」
「うん、たぶん撮影場所で食べると思ったから簡単に食べられるサンドイッチだけど。つー君、一緒に食べよっ!」
「悪いな、俺の分まで…」
「いいからいいから。はい、つー君の分」
「有り難く頂きます」
そう言うと草むらの上にビニールシートを拡げて座り、列車の合間を見ながらサンドイッチを口に運ぶ。
「どう?」
「なかなか美味しいよ」
「良かった~」
「ハムサンドのマヨネーズなんか多すぎず少なすぎずだし。多いと噛んだ時にはみ出して手を汚すからな」
「えへへ、お母さんに訊きながら作ったけどネ」
「いや、十分だよ」
そうして撮影をしていたけど、時計を見ると15時近く、俺は時刻表を見ながら
「よし、後1本撮ったら帰るか」
「そうね。新幹線乗る前に買い物もしたいし、出来れば夕飯も済ませちゃおか?」
「そうだな」
こうして撮影を終わらせて駅に戻り、新幹線の駅へと向かった俺たちだった。
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