第24話 秋絵と望
体育祭の帰り道、俺は家の最寄り駅の一つ手前の秋絵と雪子の家の最寄り駅で降りていた。学校から駅までの道のりで秋絵はかなり辛そうで、俺は(この状態だと雪子一人では無理だな)と思って秋絵の家まで送る事にした。
「つー君、ごめんなさい」
「翼君、疲れているのに大丈夫?」
秋絵と雪子はそんな事を言うけど、学校から駅まで普通なら10分で歩けるのに倍以上も掛かるのを眼にして見捨てたら…そりゃ送る以外の選択肢は無いし、時間も時間。最悪、俺が秋絵を背負うつもりでいたら何とか歩いていたけど、俺の左腕を掴んで右足を引きずりながら秋絵は自分の家に向かう。そして雪子の家の前に着くと俺は秋絵の荷物を受け取り、雪子に「お疲れ!あと数メールだから大丈夫だよ。お前も休めよ」と言うと「大丈夫?大丈夫ならお願いね。じゃあ秋絵、お大事にね」「うん、ありがと!」と雪子は自分の家に帰って行った。
俺は隣の家、那須家のインターホンを鳴らし、ピンポーンと鳴ると「は~い」との声と共に秋絵のお母さん、春江さんが玄関扉を開いた。
「秋絵、大丈夫なの?って…もしかしたら翼君!?」
「あ、どうも。お久し振りです」
「あら~、翼君ったらすっかり大人っぽくなったわね~」
「いえいえ、まだまだ母からは子ども扱いですよ」
「まぁ母親からは特に男の子は何時まで経っても子どもだからね~。あ、夏海、秋ちゃんの荷物を受け取って」
すると春江さんの後ろから小学生の頃の秋絵によく似た女の子、秋絵の妹の夏海ちゃんが出て来た。
「お姉、怪我したんだって?…って、翼お兄さん?」
「よぉ、夏海ちゃん。今、6年生だっけ?大きくなったなぁ」
「お久しぶりです。お姉がお世話掛けっ放しで…」
「そんな事ないよ、俺も助けてもらう事も有るから」
と話していると春江さん、とんでもない事を言い出す。
「あら、秋絵の為にわざわざ送ってくれるし、夏海とも上手くやれそうだし、あたしも息子が欲しかったし…秋絵と一緒になれば?」
「ちょ、ちょっとお母さん!何を言い出すの!」
「あらぁ~、秋ちゃん?」
「んもうっ!翼君、気にしないでね!」
「あ、あぁ…じゃあ、そろそろ自分は帰りますね。春江さん、夏海ちゃん、またそのうちに」
「そう?じゃあ今日はありがとうね。また来てね」
「じゃ、失礼します」
そう言うと俺は那須家を出て家に向かった。
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秋絵の家からならば電車に乗る程では無く、俺はのんびりと家に向かって歩いていた。と、途中でスマホからピコン♪と通知音が鳴り見ると望からのメッセージだ。
『秋ちゃん大丈夫?』
『今、秋絵ん家へ送って歩いて家に帰る途中』
『じゃあ少し逢える?』
『少しならな』
『家の隣の公園で待ってる』
『了解!』
俺は少し早足に歩き、望の家の隣の公園に行くと、先に居た望に声を掛けた。
「待たせたか?」
「ううん、大丈夫」
「で、何だ?」
「うん、今日の体育祭って秋ちゃん達のリレー迄は見ていたんだけど、秋ちゃんが倒れたから心配で…」
「それなら心配ないよ。少し両膝を擦り剥いただけだから一日二日、大人しくしていれば大丈夫だと思うよ」
「そっか、それなら大丈夫だね」
「ああ。ただなぁ…」
「どうしたの?」
「いやな、今日の秋絵って何か変だったんだよ」
「変って?」
「今日、望と借り物競争で走ったろ?」
「うん」
「あの後とか、午後も先輩のリレーの時に先輩を見惚れていたら妙に拗ねていたりでさぁ」
「…そうかぁ」
「望?何か心当り有るのか?」
「心当りって言うか…多分、あたしが秋ちゃんの立場でも同じだったと思うわよ」
「望が?秋絵と同じ立場だったら?」
「うん。だってあたしと秋ちゃんってよく似ているもん!」
「俺から見ると正反対に見えるけど…」
「ふふふ、きっとそのうち判るわよ。その時はつー君、大変な事になるかもネ。じゃあね」
望と秋絵が似ている、その意味が判らないまま俺は家に帰ったのだった。
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