第23話 臨時役員④

 午後のスタートは俺たち2年生の全員リレーから始まった。各クラスの生徒が走る順に並び、最初の選手がスタート地点に並んだ。我が2組は晃一からだ。


 よーい、パァン!


 2年生の四人が走り出す。トップは1組で僅差で4組が続き、やや離れて3組。晃一は半分くらい走った所で既に結構な差を付けられていたが、俺たちのクラスは後半勝負との戦略なので問題ない。


「はぁはぁ、すまん!」

「ドンマイ!この位はハンデだよ!ウチには秋絵と井上が居るんだからな!」


 その言葉通りに新垣さんがバトンを受ける頃には2組は僅差の二番手まで順位が上がる。が、さすがに他組もアンカー近くは足の速い選手が揃い、なかなかトップの3組を抜けない。そして俺がバトンを受ける。


「お願い!」

「よっしゃぁ!」


 俺は眼の前の選手を追って必死に走る。3組の選手も必死に逃げるが何とか並んで次の秋絵へリレーする。


「頼むぞっ!」

「はいっ!」


 男女のアンカーはトラック1週の100mを走るのだが、秋絵は快足を飛ばして3組に差を付けて井上にリレー、そのままゴールすると2年2組は1位となってクラスのみんなは「よっしゃぁぁぁぁ!」「やったぁぁぁ!」と大歓声を上げて喜んだ。


「翼!ホントに勝ったよっ!」

「だから言ったろ、秋絵と井上様々だな!」

「いや、みんなの助けだよ」

「まぁ、ウチのクラスの団結力は凄いからな」


 そんな興奮冷めやらぬ中、次は3年生の全員リレーの番だ。俺は午前中の1年生の全員リレーの時と同じポジションで待機し、3年生が走り始めるとカメラを構えて連写だ。そんな中、中野先輩の順番になり走り始めると…えっ?意外な事に足が速い事!俺は少し驚きながらも全員を写していた。そしてアンカー近くになると三沢先輩の順番になり…長い髪を靡かせながら走る姿は思わず見惚れる容姿。と、気付くと隣に居た秋絵がジーっと俺の顔を見ながら…


「…なに三沢先輩に見惚れてるの?」

「いやっ、あのっ…何も思ってないから」

「はいはい、あたしは三沢先輩ほど魅力はないですよ!」

「もう…何を拗ねてんの?お前、午前中から変だぞ?」

「………つー君のバカ」

「は?」

「もういいから!次は創作ダンスでその次は教職員の種目でしょ?そしたら最後の選抜リレーだからあたしは行くわよ。一人で大丈夫?」

「あ、あぁ。それより今の点差だと2組は総合優勝出来そうだから選抜リレー次第だな。頑張れよ!」

「うん!行ってくる!」


 3年生の全員リレーが終わると全学年有志の女子による創作ダンスが始まった。軽快な曲に合わせて踊る姿は全員が綺麗に揃っていて見事だったが、よく見たら石橋さんと雪子も参加している!雪子の普段の姿からは想像も出来ないキレッキレなダンスだ。シャッターを押しながら「人は見掛けによらないな、特に女子は」なんて考えていたら、男子生徒からは喝采が上がっていた。そして次の教職員のスプーンレースになると生徒達からは遠慮の無い声援、いや野次が飛ぶ。物理の教師には「法則忘れてませんか!?」だの、数学の教師には「計算間違ってるぞぉ!」だの…教師の方も体育祭だから苦笑いで済んでるけど、教室で言ったら絶対に怒鳴られるよな。


 さて次はフィナーレ、全学年紅白対抗選抜リレーだ。1組と2組、3組と4組が組んで奇数組は男子で偶数組は女子を一人ずつ選手を出してリレーするもの。此処で勝てば2組の優勝で敗ければ4組の優勝となる為に両チーム共に女子は気合い十分だ。


 号砲一発、勢いよく1年生の男子が走り出す。さすが選抜選手、100mをものともせずに走り切ると次々とリレーして行く。1年生四人が終わっても殆んど差は付かず、2年生にバトンが渡り二人目が秋絵の番だ。秋絵も4組の女子相手に懸命に走るが僅かに前に出るのが精一杯だ。と、シャッターボタンを押し続けていたら突然カメラが沈黙した…昼休みに未だ半分くらい電池が残っていたので充電しなかったのが裏目になり、電池切れとなってしまった。仕方なく、編集室へカメラごとデータを持って行こうと下を向いた時…歓声とも悲鳴とも判らない大きな声が上がった。何だ?と思ったら秋絵と4組の女子がリレーゾーンの端で倒れている!


 俺は様子を見に行こうかと思ったが、救護班の生徒も集まっていたし何より編集室で新垣さんがデータを待っている。とにかくデータが先だと編集室へ行き、新垣さんにカメラを渡す。

「すまん!電池切れになっちまった!」

「大丈夫。電源コード繋いでデータは出せるから」

 其処へ田中君と石橋さん、中野先輩と三沢先輩も来て新垣さんにデータを渡しながら三沢先輩が訊いて来た。

「那須さん、大丈夫?」

「いや、俺はちょうど電池切れになって下を見ていたんで、倒れた瞬間を見ていないんですよ」

「あたしはバトンリレーの瞬間を撮っていたんだけど、二人がバトンを渡した直後に交錯してぶつかっちゃって倒れたの」

「なるほど。リレーはどうなったんですか?」

「リレー自体には影響無くて、1・2組が勝ったわよ」

「判りました。秋…那須さんは後で様子を見に行きますから」


 そして新垣さんがデータの確認を済ませると五人に向かって

「本日はありがとうございました。既に午前中の分は印刷済みで各クラスの担任の先生方に渡してありますので、後で受け取ってください。午後の分は火曜日には配布する様にします。会長はまだ戻りませんが、会長からも感謝しているとの事です。では、お疲れ様でした」

「「「「「お疲れ様でした!」」」」」


 そうして俺たちは新垣さんに腕章を返納して教室へ行くと、もうHRは終わる間際で新聞を受け取りHRが終わって更衣室に行ってジャージから制服に着替えて保健室へ向かった。


 保健室に入ると先に制服へ着替えていた秋絵が椅子に座っていたが…両膝に大きめな絆創膏が貼られ片方は未だ血が滲んでいる。


「大丈夫か?」

「うん。ちょっと擦り剥いただけだから、打撲も大したことないし」

「相手は?」

「4組の子は擦り傷も無かったから直ぐに帰ったわよ」

「そうか、二人とも大したこと無くて良かったな。お前、歩けるか?」

「右足が少し痛いけど、歩くくらいなら大丈夫だと思うわ」

「じゃあ、歩けるならそろそろ帰るか。駅までは俺も一緒に行くし、降りてからは雪子と一緒なら何とかなるだろう?」

「なら、お願いします」

「あいよ。と、雪子にお前の荷物を持って来てもらわないと」

「じゃあ、ゆっくり歩くから先に昇降口に行くね」

「了解」


 こうして俺たちの体育祭は終わったのだった。

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