第22話 臨時役員③


 そして迎えた体育祭当日、俺たちは開会式からカメラを抱えて駆けずり回っていた。


「もう少し前に出るぞっ!」

「レンズは?」

「このまま行く!」

 そう言いながら俺はカメラを並んでいる生徒たちに向けてシャッターボタンを押すと連写音が響く。普段のカメラだと連写なんかしたらフィルム代が大変な事になるので殆んどしないが、デジカメなら遠慮なく連写出来るのは有難い。


「よし、じゃあこのSDカードを編集室に頼む!帰りに予備用のSDカードを持ってきてくれ!」

「わかった!」


 そう言いながら秋絵は小走りに編集室へと向かい、俺は応援席や父兄席などの光景を収めていく。


「ええっと次は1年生の『大玉送り』か。田中君が出るはずだから入場門側へ行くか」

「次の次に3年生の騎馬戦か。三沢先輩は出ないけど、中野先輩が出るからポジションを考えるかな…騎馬戦の直後に借り物競争かよ。仕方ない、騎馬戦は二人に任せて準備するか」


 俺は戻って来た秋絵にカメラを預け、入場門側の待機場所へ向かう。そしてクラス毎に並んで順番を待ち、自分の番になった。


 パァン!


 号砲が鳴ると一斉に借り物の描いて有る紙が在るテーブルに向かって走り出す。そして一枚の紙を取り開くと…


『かわいい子、但し自校の生徒以外』


 誰だ、こんなの考案したのはと思いながら父兄席を見ると、運良く光が母さんと望と一緒に観ているのが眼に入ったので「光!来てくれ!」と叫び紙を見せると…「望お姉ちゃん、出番よ!」「「はっ!?!?!?」」


 俺は何故か望の手を引いてゴールに入り判定係に紙を見せると、判定係は「ウチの生徒じゃないですね、合格です!」と言い二着となった。


「すまんな、突然」

「ううん、大丈夫」

「光のやつ、何で自分で来ないで望に振るかな!」

「恥ずかしかったんじゃない?」

「望は?」

「あたしの学校でも有るからね」

「そうか。じゃあ、ありがとな」

「うん!」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「あら、借り物競争していた上野 翼君、お帰りなさい」

 本部席近くに待機していた秋絵の所へ行くと何故か、不貞腐れながらそんな事を言われる。

「別にいつもと変わらんと思うけど?」

「ふ~ん、望と手を繋いで嬉しそうに見えましたけど?」

「しょうがないだろ、光を呼んだら光が望に振ったんだから…」

「それで嬉しそうにですか」

「だから、そんな事は無いって!何をそんなに不機嫌なんだか…次の種目が始まるから行くぞ!」

「はいはい」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 午前最後の種目は1年生の全員リレーだ。当然ながら田中君も石橋さんも出場するので彼らが居た東側へ移動して、なるべく全員を写る様なポジションを見付けてスタンバイする。


 パァン!


 号砲と共に1年生が走り出す。石橋さんは3組の女子一番手で走り始めたけど、速い事何のって…二番手でバトンを受けたらアッと言う間にトップに立つとそのまま次の人へリレーしていた。その後に数人が走り、田中君の番は…うん、まぁ彼の名誉の為に黙っておこう。結局、一位は2組で3組は二位に終わったがその間、俺はひたすらカメラで選手達を追って連写しての繰り返し。他の種目と違って間が空かないので疲れたけど、どうにか午前中の任務を済ませて秋絵と二人で生徒会室へと向かった。


 生徒会室へ入ると機材は在るものの、誰も居ないので隣の編集室へ行くと先に中野先輩と三沢先輩が新垣さんにデータを渡していた。

「「中野先輩、三沢先輩お疲れ様です」」

「上野と那須か、お疲れ!」

「最後の1年生の全員リレー、疲れたでしょ?あたしも息が抜けなくって」

「そうですね。でも午後には三沢先輩も自分も、もう一回ずつは全員リレーの撮影が在りますから、気入れるしか無いですね」

「そうね、他の種目もまだ在るし頑張りましょ」

「はい!」

 そこへ田中君と石橋さんがデータを渡しにやって来た。

「二人ともお疲れ様!」

「新垣先輩、これデータです。先輩方もお疲れ様です!」

「石橋さん、足速いんだね」

「いえいえ、それだけですから取り柄なんて…」

「一つでも取り柄が在るのはいい事だぞ、なぁ上野?」

「中野先輩、何で俺に投げるんですか!」

「「「「「ははははっ」」」」」


 そんな他愛ない雑談をしていると新垣さんから「午前中のデータは他の役員と処理します。午後からも大変ですけれど、よろしくお願いします。少ない昼休みですが休んでくださいね」と言われ漸く教室へ行き弁当を…と、思ったんだが今日は朝が早かった為に後から母さんが持って来るんだったっけ。俺は急いでグラウンドに戻ろうとすると晃一に呼び止められた。


「あ、翼!さっき光ちゃんからコレを預かったぞ」

「サンキュー晃一!コレが無いと俺は飯抜きになるところだった」

「何だか、お母さんじゃなくて他の人が作ったとか言ってたけど?」

「他の人?…光が練習がてら作ったんだろうな」


 俺は急いで弁当箱を開けると…うん、何時も通りに好きなものばかりな中身だ。卵焼きはシラス入りの塩味だしミニハンバーグやら付け合わせのスパゲティ、二重の海苔弁にブロッコリーとミニトマトで母さんと変わらない…まぁ、光が母さんから教わりながら作ったんだろうから当たり前か。そんな弁当を急いで食べて俺は再び生徒会室へと向かったが、この時点では誰が弁当を作ったのかを深く考えなかった。







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