第20話 臨時役員①

 6月の或る土曜日、体育祭の会場で俺は何故か『生徒会』の腕章をして校内に居た。


 ウチみたいな普通科の高校だと秋には3年生は既に受験勉強の真っ只中と言う事も有り、体育祭も修学旅行も初夏のこの時期に行われている。更にウチの高校は体育祭と文化祭が隔年で開催なので、俺たちにとっては最初で最後の体育祭って事になる。


 どうしてこんな腕章をしているのか、話は少し遡り、あの六人で逢った翌日の月曜日から始まる。各クラス共に6限の授業はロングHRに変更されて体育祭の出場種目と『学年別クラス対抗男女全員リレー』の走る順番を決める話し合いとなった。このリレー、クラスによって人数が多少違うので一人が二回走るクラスも在る。なので走る順番って難しく前半に速い選手を集めるか、最初の方と後の方へ速い選手を分散させるか、後半勝負か等と戦略が問われる種目だ。俺たちのクラスでも喧々囂々と議論の末に出た結論は「後半勝負」で、それを元に普段の体育の授業等から見て全体のアンカーはサッカー部の井上、一人前の女子アンカーが秋絵、更に一人前が俺、その前があの新垣さんと、まるでの順になってしまった。


 全員リレーの順番も決まり、各種目の出場者も続々と埋まり俺は全員リレーの他は借り物競争だけで済んだ。HRが終わって(二種目なら楽出来るな)と思いながら帰ろうと教室を出ようとすると、新垣さんから「上野君!」と呼び止められた。


「上野君、体育祭の時に生徒会としてお願いが有るんだけど…」

「お前なぁ…ついこないだ、あんなを流しておいて、謝罪無しでお願いって何なんだよっ!」

「あれは…ホントにごめんなさい」

「本当に反省しているのか?このままだとお前も神田と変わらんぞ!」

「はい…」

「ったく。反省しているなら良いよ。で、生徒会からって何だ?」

「あのですね、体育祭の時に校内で取材して欲しいんですけど…」

「取材?」

「あ、取材と言っても写真を撮るだけで良いの」

「どうすんの?写真なんて」

「あたしが広報担当だから、校内新聞の号外をその日のうちに出したいの。で、その号外に使う写真って事なんだけど」

「用件は判ったが…二つ、問題が有るな」

「二つ?」

「あぁ。一つは俺のカメラはフィルム式でデジタルじゃないんだ。だから撮っても当日には使えない」

「それなら生徒会の備品を使ってくれれば良いです。今年度から写真部が休部になったゃったから備品は生徒会預かりになっていて、確かデジタル一眼カメラも在るはずです」

「そうか。機材はそれで良いとしてもう一つ、場合によってはこっちの方が問題かもだな」

「と言うと?」

「俺が普段、撮っているのは列車なのは知っているだろ?」

「うん」

「写真ってカメラを持っていれば何でも撮れると思っている人って多いんだけど、列車と人物って全く別なんだよ」

「よく判らないんだけど…」

「例えば列車なら構図を決めて、列車が或る一点に来たらシャッターを切る。でも人物、それも体育祭みたいに動きが有って人の表情も刻々と変わるのを撮るのって凄く難しいんだ」

「う~ん、何となく判るけど…校内新聞だからそこまで要求は高くないし」

「そこはカメラ持ちのプライドで、撮る以上は良い写真を撮りたいんだ」

「何とかお願い出来ないかな?一応、当日は臨時の生徒会役員扱いって学校の許可出てるし。それと助手と言うか、もう一人手伝ってくれる人は決まったし」

「助手?誰?」

「秋絵ちゃん」

「お前、本当に反省してるか?また何か企んでいないか?」

「企んでなんかいませんって!たまたま秋絵ちゃんは全員リレーの他は選抜リレーだけだっていうから空き時間が多いと思って…」

「結局、外堀埋まっているじゃないか。これで断ったら俺が極悪人に見えるだろうが…しょうが無ぇなぁ、受けるよ」

「ありがとう!」


 こうして俺は何故かカメラ抱えて秋絵と共に駆け回る事になってしまった。



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