第19話 あたしの想い④(秋絵視点)
あたしが北川高校へ入学した日、雪ちゃんと共にクラスの名簿が貼ってある掲示板の前に居た。
「雪ちゃん、また一緒のクラスだよぉ!」
「秋絵ちゃん、またよろしくネ!」
そう、あたし達は幼稚園の時からすれば13年目も同じクラスな事が決まって二人で手を取り合って喜んでいた。そして「他に知っている人って居るかなぁ」と名簿を眺めていたら、其処には信じられない名前を見付けた。
『上野 翼』
あたしは一瞬、同姓同名な別人かと疑ったけど周りを見ると…本当にあの翼君が居た。中学三年間ですっかり男ぽっくなり、身長もあたしとは20cmくらい差が付く様になっていたけどあたし達に気付くと「よぉ、また一緒だな。よろしくな!」そう言って前と変わらない笑顔で微笑んでくれたの。
その夜。あたしは嬉しくて、じゃないな浮かれ切って望ちゃんにメッセージを送った。
「あの男の子に再会出来たんだっ!」
「秋ちゃん、良かったじゃない!」
「それで今度も同じクラスなの!」
「うわぁ、もう運命の人じゃない!?」
「えへへ、今度こそずっと一緒に居たいな!」
「秋ちゃんらしなぁ。頑張ってね!」
「うん!望ちゃんも早く逢えると良いね!」
望ちゃんはそう言ってくれたけれど、彼女は高校でも逢えなかったみたいで(少し浮かれ過ぎたな)とちょっと反省したの。
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あたし達の高校はクラス替えって一回だけだった。2→3年生の時はクラス替えが無いので2年生に進級する時のクラス替えで(雪やつー君と一緒のクラスになれます様に!)と願っていたら…念願叶って三人、それと高校へ来てから翼君と仲良くなった秋川 晃一君って男の子の四人揃って同じクラスになった。でも高校生になってからは小学生の頃みたいに何時も一緒って事は減って昼休みなんかは翼君と晃一君だけで外でお弁当食べたり、あたしと雪ちゃんも他の女子とお喋りしたりってしていた。それでも何かと一緒に居る事も多かったし、ゴールデンウィーク直前に起きたあの事の時も。
ゴールデンウィーク明けの週末、あたしと雪、望の三人で北関東の方まで日帰りでお出掛けしようと話が纏まり土曜日、つー君にロマンスカーの切符をお願いした夜に雪から連絡が来た。
「あ、秋絵?」
「どうしたの?切符ならつー君にお願いしたけど…」
「ううん、別件。春休み前に隣のクラスの立川さんの件って知っているわよね?」
「知ってる知ってる。確か、嘘告されて断ったら酷い噂を流されたって話よね?」
「そう。その嘘告男が次に秋絵に嘘告をして来るって情報が廻って来たのよ!」
「あたしにぃ!?」
「うん。学校中の女子には『神田先輩=嘘告男』って知れているのに本人はナルシストの極みだから解っていないみたいだし…」
「どうしようか…」
「うん…翼君に相談してみようかと思うんだけど…」
「つー君に?さすがに先輩相手なのにお願いし難いわよ」
「あたしもそうは思うけど…あたし達から他に頼れそうな人は居ないもの。だから秋絵からじゃなく、あたしからって事にしたいんだけど」
「……雪がそう言ってくれるのなら…お願いしてもらえるかな?」
「わかった。明日にでも翼君に訊いてみるね」
そして日曜日に雪からつー君にお願いすると月曜日の朝、あたしと雪とつー君で相談したら、つー君が晃一君にも協力を頼むと言ってくれたんだ。そして水曜日の放課後、あたしは神田先輩に呼び出されたけれどつー君と晃一君が先輩と対峙する為に教室を飛び出すと、あたしと雪は教室に残った。すると、クラスメイトの吉田君が来て雪に訊ねた。
「白幡、何が有った?」
「えっ?…いや、大したことじゃないから…」
「昼休みの終わり頃、お前ら四人で深刻そうに話していただろ?」
「………」
「クラスメイトを信用してくれよ!上野や秋川だけじゃなく、俺たちだってクラスメイトの為なら動くぜ!」
「…ありがとう。実は秋絵が神田先輩から嘘告されると聴いて翼君たちに…今は第2特別教室の裏だと思う」
「神田か、それならば…オーイ井上と石塚、上野たちがピンチかも知れん!協力してくれ!」
「「おぅ、任せろっ!」」
こうして神田先輩の嘘告はつー君だけで無く、クラスの男の子たちに助けてもらって神田先輩を撃退したんだった。そしてその日の夜、あたしと雪はライムでみんなが助けてくれた事をやり取りしていたんだけど…途中で『なになに?その話しを詳しく!』とクラスメイトの新垣さんが入って来て「えっ???」と思ったらクラスの女子グループの方でやり取りしてしまったの。そうしたら案の定、翌日登校すると教室では女子数人に囲まれて「これホントに?」「上野君、秋絵ちゃんの為なんてやるわねぇ」冷やかされ…あたしは嬉しさ半分恥ずかしさ半分だったけど、逆につー君には距離を取られてしまった。つー君、あたしの想いに気付いていなくてあたしも迷惑してると噂を鎮める為だと言ってくれて…そんな優しい処も好きなんだけど、望に話すと「前途多難だね」なんて言われるし…。
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三人で遠目の日帰り旅行の翌週の日曜日、あたしは雪と望との待ち合わせの為に最寄り駅へ向かって走っていた。駅に着くと、先に二人が待っていた。
「はぁはぁ、ごめんごめん!」
「どうしたの?」
「家を出る直前に持ち物確かめたら忘れ物に気付いて…」
「忘れ物?」
「うん。今日渡すお金をバックに入れるの忘れてたの」
「それって一番、忘れちゃいけない物じゃない…秋ちゃん、相変わらずね」
「てへへへ。それじゃ行こっか、あんまり向こうも待たせちゃ悪いし」
あたし達は電車で晃一君の家の最寄り駅で降りて駅近く、全国チェーンのコーヒーショップに行くと先につー君、光ちゃん、晃一君が座って待っていた。あたし達は各々椅子に座り、望は初対面のはずだから紹介しようと
「こっちの男の子が秋川 晃一君と上野 翼君、それに翼君の妹さんの光ちゃん。で、この子はあたし達と中学の頃から仲良しの白河 望ちゃん」と言うと…
「うっそぉぉぉぉぉぉ!?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「ホントにぃぃぃぃぃ!?」
あたしは何が何だか判らずに唖然としていたら、つー君と光ちゃん、望は嬉しそうに話している…そう、つー君と望は幼稚園の同級生だった。(えっ?それって…まさか…)とあたしは激しく動揺したんだけど、動揺を隠す様に「つー君が代金要らないなら良いんですけど!」と、つー君を睨みながら言ってしまった。でもその後は雪や晃一君も居るので何とか平静を装ってお喋りをして帰る事にした。
帰りの電車はつー君と光ちゃんは先に降り、あたし達三人は1駅先まで行ったのだけれどその1駅間、誰も話さなかったし話せなかった。あたしは最寄り駅から一人になりたくて雪より先に「…じゃあね」と家に帰り、ベッドに寝転ぶと色んな感情がごちゃ混ぜになって 自然と涙が出てくる。
(まさか、望の初恋にして今も想い人がつー君だなんて…)
(つー君、あたしの事をどう思っているんだろ)
(でも、つー君と光ちゃんのあんな嬉しそうな顔って…)
(でも…望も大事な親友だよ!)
その夜、あたしは殆んど寝付けなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
作者より
これで秋絵ちゃんの胸中はひとまず絞めます。次回から本題に戻ります。
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