第17話 あたしの想い②(秋絵視点)

 1年生から2年生の二年間、席替えも有ったんだけどあたし達はクラスで一番、背が低くて常に一番前の席で翼君と隣同士な席だった。


「秋絵ちゃん、またお隣だね!」

「うん、翼君!」

「今度は雪子ちゃんも近くだよ、秋絵ちゃん良かったね!」


 いつの間にか「那須さん」から「秋絵ちゃん」と呼び方が変わり、あたしも「上野クン」から「翼君」と変わったけど三人で勉強したり遊んだりする関係は変わらなかった毎日だった。



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 あたし達は3年生の始業式の日、朝の全校朝礼が終わると新しいクラス分けの為に校庭には3年生と5年生が残っていた。先に5年生がクラス替えが終わって教室へ向かって行くと、あたし達3年生の番だ。そして元2年1組の子達が名前を呼ばれて新しい担任の先生の前に並んでいく。あたしは(雪子ちゃんや翼君と同じクラスになれるかぁ…)と不安に思いながら待っていた。そして元2年2組のあたし達の番になり、先生が名前を読み上げる。


「上野 翼君、2組」

「白幡 雪子さん、2組」


 あたしは(あたしだけ別だったら…)、そう不安が高まった時に順番がきた。


「那須 秋絵さん、2組」


 そうして新しいクラス分けが終わって教室へ行くと、黒板には新しい席順が書いて有ってあたしは自分の名前を見ると…また一番前の席。隣は?と見ると翼君ではない子の名前が有る…クラス替えで翼君より背が低い子があたし達のクラスに集まったからだ。でも3年生からは一人づつの机だし同じ教室に雪子ちゃんも翼君も居る、そう思うとあたしは嬉しい気持ちの方が大きかった。そう思っていたんだけど夏休みに入る少し前、が起きた。


 3年生になると音楽や図工の授業はクラスの教室ではなく、音楽室や図工室へ行く様になった。その日は昼休みの後、5時間目が音楽だったので昼休みが終わる頃に音楽室へ行く準備をしようと教室の後に在るカバン掛けの所へ行き、自分のカバンからリコーダーを出そうとすると…リコーダーが無い。確か昼休み迄はカバンに入っているのを見たし、自分の机の中にも入れていない。カバンの中や机の中を探していると雪子ちゃんが来て「どうしたの?」「リコーダーが無いの…」「えっ?じゃあ一緒に探そ」と言って探してくれた。けどリコーダーは見付からず今度に翼君も来て「僕も探してみるよ」と探すも…と、その時に雪子ちゃんが或る事に気付いた。教室の端で一人の男の子がニヤニヤしているのを見て雪子ちゃんが詰め寄った。

「あなた、知っているでしょ?」

「べ~つ~に~」

「ほ ん と うに知らないのっ!?」

 その圧に押されたのか、教室の後に在る掃除用具入れを指差して「あそこ」と一言だけ呟いた次の瞬間…その男の子に翼君が飛び掛かって行った、それも今まで見た事が無いような怖い顔をして。


 二人はアッと言う間に取っ組み合いになり、男の子達は普段は大人しい翼君が怖い顔をしているのを茫然と眺めるだけ、女の子達もオロオロするだけだったけど誰かが担任の先生を呼んだらしく、先生がやって来ていきなり翼君を叱り始めた。

「上野君!ケンカなんて何をしているの!!」

「だって…」

「だってじゃないの!呼びに来た子が上野君が飛び掛かったと言って来たの!」

 先生は何も聴かずにそう言っている。あたしは居たたまれなくて「先生、上野君だけが悪いんじゃ…」「那須さんは黙っていて!」と聞く耳を全く持たない。そうしたら今度は雪子ちゃんが冷たい言い方で「先生、いきなり上野君を叱るのはおかしくありませんか?ケンカなんて両方に原因が在ると思います」と言う後ろにはほぼ全ての女の子が集まり、男の子も何人かは「あの上野があんだけ怒るんだからなぁ」「『ケンカ両成敗』って言うしなぁ」と口々に言うと、先生はその圧に負けたかの様に「じゃ、じゃあ早く音楽室へ行きなさい。あなた達もケンカなんかしない様に!」と教室から出て行った。あたしはこの出来事でこの担任が嫌いになったんだけどこの先生、普通は3年生から4年生は持ち上がりで担任するのにあたし達が4年生になった時に転任させられて他校へと去っていった。後で知ったけど、保護者会でも一部の保護者だけ優遇して他の保護者から不評や不満を買っていたと聴いたけど、それは後日のお話。


 そんな事が有った翌日、あたしと雪子ちゃんが登校して来ると校門の所で翼君と逢った。


「秋絵ちゃん雪子ちゃん、おはよう~」

「「翼君、おはよっ」」

「秋絵ちゃんと雪子ちゃん、昨日はごめんね」

「ううん、翼君は悪くないわよ」

「でも僕がケンカしたのは悪いんだし、先生に叱られてもしょうがないよ」

「翼君、お人好し過ぎだよ。それにしてもあの先生、大嫌い!」

「…まぁまぁ、先生は先生だから」


 そんな話をしながら教室へ行って「「「おはよう~」」」と言いながら入ると黒板に大きく相合傘が !そしてあたしと翼君の名前が書いて有る!!


 あたしは横に居る翼君が昨日の様に怒るとマズい…そう思ったら何時もの笑顔のまま、何も言わずに黒板へ行って消すと自分の席へ座った。そうしたら男の子達が囃し立て始めた。

「上野、那須が好きなんだろ~」

「奥さんの為には怒るよな~」

「ヒューヒュー」

 すると翼君は

「うん、那須さんの事好きだよ」

 あたしはその言葉を聴くとドキッとしたけど…

「だってだもの。雪子ちゃんも他の人も、友達ならみんな好きだよ?嫌いな人なら友達になんかならないもの」

 それを聴くと男の子達は肩透かしを食ったかの様に諦めて授業が始まるのを待ったの。

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