第16話 あたしの想い①(秋絵視点)
あたしには幼い頃から仲の良い友達が居る。その子は家も隣同士で誕生日も一ヶ月くらいしか変わらないのでずっと一緒に遊んでいて、幼稚園も一緒に登園して一緒に帰ってくる子だ。
白幡 雪子ちゃん、あたしの幼馴染みにして今では親友と呼べる仲だけど、その頃は一緒に居るのが当たり前な子だった。
小学校の入学式の日、期待と一抹の不安を胸に両方の両親と共に学校へ向かい、初めて校門をくぐり教室へと行った。教室に入ると二人一組になっている横長の木作りの机と椅子が並んでいて、机の上には名前が紙に平仮名で書いて貼ってあった。あたしは背が一番低かったせいか一番前、教卓の目の前に自分の名前を見付けて座ると隣の席の子はまだ来ていなかった。雪子ちゃんとは少し席が離れていたけど、同じクラスになって二人で喜んでいた。
「ボクの席はここだぁ!」
不意にあたしと同じ位の背が小さな男の子が大きな声で言いながら隣の席に座った。するとお母さん?お姉さん?らしき女の人から「翼!静かにね」と言われると「ハーイ!」とまた大きな声…あたしは幼稚園の頃から女の子としか遊んでいなかったので男の子は少し苦手で(雪子ちゃんが隣なら良かったのに…)と思いながら居ると担任の先生がやって来て式に行くために廊下に並ぶ様に言った。
「はい、じゃあ背の順に並んで…えぇっとそこと次の人は逆になって。そこの人は二人後ろになって」そうして男女二列に並ぶと、あたしの隣にはさっきの男の子が並んだ。講堂に1年生が並んで入場して入学式が始まり、校長先生や来賓のお話を聴いて教室へ戻って来るとまた先生のお話…あたしは飽きてしまってキョロキョロしていたんだけど、隣の席の男の子は真っ直ぐ前を見て先生のお話を聴いている。そしてあたしの視線に気付くと優しそうな笑顔で微笑むとまた直ぐに先生の方を向いた。
休み時間になると後ろにならんでいる両親の元へ駆け寄る子、隣の席の子と話す子、一人で居る子、幼稚園の頃からの友達と話す子といろんな子が 居た。あたしも雪子ちゃんの所へ行こうとしたら、隣の男の子が話し掛けて来た。
「ねぇ、さっき先生のお話の時ってよそ見していたでしょ?」
「う、うん…」
「先生のお話は聴かないといけないんだよ」
「うん…でも飽きちゃって」
「ボクも飽きてた。だから先生のお顔を見ていただけ」
「なんだ、同じじゃない」
「えへへへ」
男の子はそう笑うと、あたしの名札を見ながら
「『なす あきえ』ちゃんっていうの?」
「うん。あなたは…『うえの つばさ』クン?」
「うん!じゃあ今度一緒に遊ぼ。でも学校だからお勉強もね!」
「うん!」
それが翼君との出逢いだった。
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入学して一ヶ月くらい経った体育の授業の時、体力測定を兼ねてクラス全員で50メートル徒競走をした。
「じゃあ男子二人女子二人、四人で走るからいつも通りに並んで。前から二人づついくよ!」
先生がそう言うとあたしは翼君と同じ順番で走る事になった。あたしは幼稚園の頃から足だけは速く、駆けっこでは女の子はもちろん男の子にも殆んど負けた事が無かった。
よーい、どん!
先生の掛け声で四人が一斉に走り出す。あたしはいつも通りに走っていたら、すぐ隣に翼君が並んで走っている。そしてゴール直前に抜かれてしまい、あたしは二番になってしまった。
「はぁはぁ…那須さん、速いなぁ」
「ふぅふぅ…上野クンってあんなに足が速かったの!?」
「幼稚園の時は駆けっこってあんまりしなかったから判んないけど…」
「だってあたし、幼稚園の時はいつも一番だったのに」
「今日はぐうぜんだよ。つぎは那須さんに負けちゃうよ、きっと!」
そう言う翼君はいつもの優しそうな笑顔だった。
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