第14話 あたしの想い②(望視点)

 ゴールデンウィーク中の一日、あたしは秋ちゃんと雪ちゃんの三人で近くのショッピングセンターで買い物をしていた。


「秋ちゃん、たくさん買ったわね~」

「そうそう、お出掛けの為にはお洒落な服が必要なのよ!ねぇ雪?」

「それはそうだけど…望ちゃん、どう思う?」

「確かに買い過ぎじゃない?秋ちゃんは…」

「そうかな~?逆に望は可愛い洋服ってあんまり見ないから勿体ないわよ?」

「勿体ないって?」

「望って可愛いんだから可愛い洋服が似合うわよ。あたし程じゃないけど」

 そう秋ちゃんは舌を出して笑っていたけど…確かにあたしはお洒落って部分は疎いのよねぇ。ファッション雑誌より鉄道雑誌の方が持っている数は多いし…。

「よしっ、次行くわよ!」

「えっ?秋ちゃん、まだ買うの!?」

「違う違う、望の為に可愛い洋服を選ぶのよ!」

「何言ってのよ。あたしも少しは買ったし…」

「だ~め、これは『望ちゃん女子力アップ作戦』の一環なんだから!」

「…望ちゃん、秋絵の変なスイッチが入っちゃたら諦めた方が良いわよ」

「さすが雪、判っているわね。じゃあ行くよ!」


 結局、何軒ものショップを巡って秋ちゃんには着せ替え人形状態にされ、雪ちゃんには呆れられながら何着かの洋服を買い、漸くセンター内のフードコートに空席を見つけて座り一息付いた。


「ふぅ、満足したぁ」

 秋ちゃんはそう言いながらフードコート内で買った飲み物を口に運ぶ。

「ごめんね、望ちゃん。秋絵がこうなったら止まらないんだから…」

「ううん、あたしもファッションって疎かったから助かったわ。秋ちゃん、またそのうちにコーディネートお願いね」

「よしよし、いくらでも頼ればよいぞ!」

 そう秋ちゃんが言うと三人で笑いながらお喋りを続けたんだけど…「でも…ねぇ」と雪ちゃんが言う。あたしが「ん?どうしたの?」と訊くと、雪ちゃんと秋ちゃんはゴールデンウィーク直前に起きた出来事を話し始めた。


「秋絵がロマンスカーの切符を頼んだって話し、聴いたでしょ?」

「うん。何だか電車の事に詳しい人とか?」

「そう、それって秋絵の『王子様』なんだけどね」

「うんうん」

「でも、その日の遅くにとんでもない話があたし達の耳に入ったの」

「何それ?」

「あたし達の学校って女子同士の情報網ネットワークって凄いのよ」

「あ、それってあたしの学校でも在る。こっちは商業科だから女子の方が圧倒的に多いし、特に恋バナなんて1時間もすれば全校の話題だもの」

「でね、ある先輩が秋絵に嘘告してくるって話だったの」

「うわぁ、最悪じゃない!」

「その人って秋絵の前に隣のクラスの子に嘘告したのよ。その子も当然ながら嘘告だと知っていて断ったの」

「それは当然よね」

「そうしたらその先輩、逆ギレしてその子の在りもしない噂を流したのよ。やれあいつはビッ●だのパパ活しているだの…」

「酷い…」

「でも情報網ネットワークのおかげで女子は殆んど信用しなかったの。でも男子は半分くらいの子が信じちゃって…」

「男子って仲が良い子は良いけど、悪いと口も利かないって言うからねぇ」

「うん。だから秋絵を同じ立場にしたくなくて相談したの、秋絵の王子様に」

「秋ちゃんはどうしたの?」

「うん、小学生の頃からあたしや雪が困っていると助けてくれたけど、さすがに先輩相手だと…」

「だからあたしが彼に直接お願いしたの。そうしたら彼と彼の親友がその先輩相手に対峙してくれて、しかもクラスの男の子が何人か彼を助けてくれたの」

「凄いじゃない!」

「うん、普段からその子って男の子でも女の子でも分け隔てなく接してくれるからね。ただその後が…」

「?」

「その日の夜にその事をあたしと秋絵でライムでやりとりしてたの」

「それって何か問題でも?」

「うん、二人でライムしてたつもりが間違ってクラスの女子グループのライムでしてたの」

「それって…」

「案の定、クラスのゴシップネタ好きな子に知れちゃって、翌朝には全校の女子には拡がっちゃったの」

「ありゃ~…でも秋ちゃん、案外と嬉しかったんじゃない?」

「まぁ…嬉しさ半分恥ずかしさ半分だったけど、彼には逆に距離取られちゃったの」

「何で!?」

「だって彼ってあたしの想い、全然気付いていないみたいなの。だからあたしも迷惑していると思って噂を鎮める為にって」

「何だか相当に鈍感な男の子みたいね。秋ちゃん、前途多難だね」

「ホントに…でも、いつかあたしの隣に居る様に頑張るわよ!」

「それでこそ秋ちゃんだよ!」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 三人でミニチュアランドに行った翌週の日曜日、あたしは最寄駅の改札口に居た。

「あ、雪ちゃん」

「望ちゃん、早いわね。秋絵はまだ?」

「うん」

 少し待っていると、息を切らしながら秋ちゃんがやって来た。

「はぁはぁ…ごめんごめん!」

「どうしたの?」

「家を出る直前に持ち物を確めたら忘れ物に気付いて…」

「忘れ物?」

「うん。今日渡すお金をバックに入れるの忘れてたの」

「それって一番、忘れちゃいけない物じゃない…秋ちゃん、相変わらずね」

「てへへへ。じゃ行こっか、あんまり向こうも待たせちゃ悪いし」

 そう言うと電車に乗って大きめな駅で降りる。此処って一人の男の子の家の最寄駅で、駅近くの全国チェーンのコーヒーショップへ行くと先に男の子二人と女の子一人が座って待っていたんだけど、男の子の一人を見てあたしは(あれ?この人って何処かで見た気がする。何処だったけ……そうだ、この前神川橋駅に居た人じゃない!撮り鉄な事を話されたらマズイ)って思って咄嗟に他の人には判らない様に唇に人差し指を当てると、向こうも意図を判ってくれたのか軽く頷いてくれた。そして秋ちゃんが真ん中に、雪ちゃんが一人の男の子の前に座りあたしはその男の子の前に座った。そして秋ちゃんが各々を紹介した時、あたしは更に驚いた。


「こっちの男の子が秋川あきがわ 晃一こういち君と上野 翼君、それに翼君の妹さんの光ちゃん。で、この子はあたし達が中学の頃から仲良しの白河 望ちゃん」


「うっそぉぉぉぉぉ!?」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「ホントにぃぃぃぃ!?」


そう、あたしの目の前に座る男の子は逢いたくて逢いたくてどうしようもなかった初恋の相手、上野 翼君本人だった。

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