第13話 あたしの想い①(望視点)
あたしがその男の子に逢ったのは幼稚園に入園して間もない頃だった。その頃のあたしは少し身体が弱く、よく風邪を引いたりお腹を壊していたりした。そんなあたしは他の子が園庭で遊んでいても一人で絵本を見たりお絵かきをして過ごしていた。
「ねぇねぇ、みんなと遊ばないの?」
その男の子はそう言いながらあたしの傍に
寄ってきた。
「…うん」
「そうかぁ。じゃあボクもお絵かきする!」
そう言って画用紙とクレヨンを持って来て何かを描き始めた。
「何を描いているの?」
「でんしゃだよ!」
「ふ~ん、なんで?」
「ボク、でんしゃだいすきだから!おおきくなったらうんてんしさんになるんだ!」
そう言うと満面の笑みを浮かべた。
「ねぇ、キミのおなまえは?ボクは『うえの つばさ』って言うんだ」
「…あたしは『しらかわ のぞみ』よ」
「じゃあ、今日からおともだちだね!」
「おともだち?」
「うん!」
それからあたし達は二人で過ごし事が多くなった。もともと二人とも身体が小さかったので園外保育や遠足で並んで歩く時は並んでいたし、お遊戯の時も二人並ぶ事が多かったし帰りの送迎バスも隣同士に座るのが何時もだった。時々、他の子が「つばさクンとのぞみちゃんっていつも一緒だね」なんて冷やかしてきたけど、あたしは恥ずかしがったりしても翼君はあの笑顔のまま「じゃあ一緒に遊ぼうよ。みんな一緒の方が楽しいよ!」とそう言う子の手を引いて来て遊んでいたわ。
あたし達が年長組になると翼君の妹、光ちゃんが入園してきた。翼君は何かと光ちゃんの面倒を見ていて少しだけ羨ましく思ったんだけど、翼君は「ボクはお兄ちゃんだから」と言っていたっけ。そんな光ちゃんが幼稚園に馴れてくると今度は三人で過ごす様になって「のぞみちゃん、こっちだよ~」「のぞみお姉ちゃん待って~」「つークン、ひかりちゃんを置いていかないでよ~」なんて園庭を駆け回ったり、三人でお絵かきをしたり。そして帰りのバスを翼君と光ちゃんが先に降りる時には何時もの笑顔で「先生、のぞみちゃんバイバイー」と手を振って1日が終わる日々だった。
そんな楽しい日々もあたし達の卒園式の日に終わりを迎えた。式が終わって最後の二人並んでの写真を撮った後に各々の両親と帰る時、何時もは「バイバイ~」と言う翼君は手を振りながらこう言ったんだ…
「じゃあ、またねっ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
小学校に入学すると、またあたしは一人で過ごす事が多くなった。そう、翼君とは別々の小学校になったからだった。もう隣に翼君は居ないんだ…そう思うと悲しくなって涙が流れる時も有ったけど、6年間で普通にお話出来る友人は何人かは出来た。けど、翼君ほど仲良しな友達は居なかった。
中学校へ進学しても初めは変わらない感じだった。同じ小学校から来た人も結構居たけど、小学校時代からの人間関係の延長って感じで何となく馴染めずに居た。そんな時、二人の女の子が話し掛けて来た。
「白河さん…っていったっけ?良かったらお話ししよ?」
白幡 雪子さんと那須 秋絵さんの二人だった。あたしとは別の小学校だったけど、一人で居る事が多かったあたしの事を気に掛けてくれたのだった。白幡さんは少し大人びた雰囲気でお姉さんっぽい感じだったけど、那須さんは(この人、何処となく自分と似てる)と直感的に思った。背格好は彼女と殆んど変わらないんだけど、彼女は活発で明るい子なのにあたしは少し引っ込み思案…正反対みたいだけどそれでも似てると確信したのは『友達』の事を話した時だった。
「あたしね、1年生から6年生までずっと同じクラスの男の子が居たの」
「男の子?」
「うん。雪ちゃんも一緒だったけど、その男の子がいつも、優しい笑顔で助けてくれたり、寄り添ってくれたりしたの」
「うんうん、解るなぁ。あたしにも幼稚園3年間、同じクラスの男の子が居たから」
「でも…その子とは中学校が別々になっちゃって少し寂しかったんだ」
「あたしも同じ。やっぱりその子と小学校が別で中学校でも再会出来なかったんだ」
「そっかぁ。望ちゃんはその男の子、好きだったの?」
「う~ん、今考えると初恋だったんだろなぁ。秋絵ちゃんは?」
「あたしもそれが初恋だったと思うんだ」
「何だかあたし達、似ているわね」
「そうね。望ちゃんもその男の子にまた逢えると良いね」
「秋絵ちゃんもね!」
それからはあたし達三人は何時も一緒だった。2年生の時の林間学校も3年生の時の修学旅行も、常に三人は一緒で遊んだり勉強したり。あたしには初めて『親友』と言える存在に巡り逢えた、そう思ったんだけど…一つだけ彼女達に対してあたしには秘密が有った。それは『鉄道好き』って事。やっぱり女の子で鉄な趣味って言い難いし、もしかしたらドン引きされちゃうかも知れない…そう思ったらどうしても話せなかったの。
高校進学の時、二人は普通科の北川高校へ行くと聴いたけど、あたしは先々の事を考えて(高校のうちに資格を取れれば良いな)と思って北高の近く、北川商業高校へ進学する事にした。中学校の卒業式の時に二人は「高校は別々だけど、あたし達は親友だもんね。一生の付き合いだよ!」と言ってくれたし、あたしも「うん、今度は離れても親友だよ!」と言って卒業したんだ。
高校へ進学した直後、秋ちゃんからメッセージが来た。
「あの男の子と再会出来たんだっ!」
「秋ちゃん、良かったじゃない!」
「それで今度も同じクラスなの!」
「うわぁ、もう運命の人じゃない!?」
「えへへ、今度こそずっと一緒に居たいな!」
「秋ちゃんらしいなぁ。頑張ってね!」
「うん!望ちゃんも早く逢えると良いね!」
もうスマホの向こうで秋ちゃんが浮かれ切っているのが眼に浮かぶ様だったけど、あたしも親友が喜んでいるのは嬉しかった。けど…(つー君、今はどうしているんだろう…)と思うと秋ちゃんが少し羨ましく思ったのも事実だった。
それから一年間、中学の頃の経験で少しはコミュ力を身に付けて高校でも友人が出来て大過なく過ごしていたけど、やっぱり一番の親友は秋ちゃんと雪ちゃんで同じ公立高校って事で教科書も同じなのでテスト前には一緒に図書館で勉強したりしていたの。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2年生になって少し経った頃、あたしは息抜きの為に撮り鉄に行った。その日は選択教科の関係で午前中に授業が終わり、午後は空いていたので制服のまま県境を越えて城南線の神川橋駅へ。此処ってJL線が横を走っていて城南線のホームから撮るのに絶好の場所なんだけど、その日は誰も居なかったからお父さんから譲り受けたカメラ、キ●ノンEOS-1sVを出して構図を考えていると、次に来た電車で高校生っぽい男の子が降りて来た。と、その子はカメラを出して構図を考えていたんだけど、そこは完全にあたしの構図の中…あたしは思わず大きな声を出した。
「そこ、あたしの構図に入るんですけど!」
その子は慌ててあたしの後ろ側に来て「すいません!後ろ側に入れてもらっても良いですか?」「あたしの邪魔にならなければどうぞっ!」と突き放す様にあたしは言った。
(どうせ女の子だから撮り鉄じゃないと思ったんでしょ!)
あたしはそう思いながら暫く撮影した後、カメラをバックに仕舞って来た電車に乗って帰ってんだけど、やっぱり腹が立って電車が発車直前にその男の子を睨んでしまった。
その数日後。
秋ちゃんから「三人で北関東に在るミニチュアランドに行かない?」とお誘いが来た。
「そうだね~、たまには三人でちょっと遠目なお出掛けも良いかも」
「でも日帰りには少しキツくない?」
「往復ともロマンスカー使えば良いんじゃないかな?」
「そっかぁ。でも誰が切符を買うの?」
すると秋ちゃんが
「あ、それは電車の事が詳しくてお願いできる子が居るから」
あたしは一瞬、つー君みたいな子かな?と思ったけど…
「じゃあ秋ちゃん、その人にお願いして!」
「任せて!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
作者より
ちょっと中途半端な処ですが、望ちゃんのエピソードが予想以上に長くなりそうなので此処で分割して更新します。この後は望ちゃんの後半と秋絵ちゃんのエピソード…どうなる?
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