第12話 初恋の相手と
「ホントにつー君?」
「望お姉ちゃん!逢いたかったよ~」
「懐かしいなぁ…何年振りだ?確か幼稚園の卒園式以来だから10年、正確には11年か!」
そんな盛り上がる3人に対して少し引き気味の3人…それでも何とか、一番冷静な晃一が口を開く。
「ええっと…3人って知り合いだったのか?」
「ああ、俺と白河さんは幼稚園の同級生でよく一緒に遊んでいたんだ。光が同じ幼稚園に入ってからは3人で遊んでいたっけ」
「そうなんです。あたしはお兄ちゃんと白河さんに面倒を見てもらったんですよ」
「それってもしかしたら…」
晃一が何かに気付いたらしく、口にしようとした瞬間に俺は軽く咳払いをして「あ、ごめん、秋絵と雪子を蚊帳の外にしちゃったな。今日は秋絵たちから代金を貰うのが主な目的だよな」と言うと…「つー君が代金要らないなら良いんですけど!」と秋絵さん…何か眼が怖いんだけど。
「はい、これは晃一君に。よくあるお菓子で面白くない物だけど」
「いやいや、僕は何もしていないのに。でもありがとう」
「で、これは光ちゃんにね」
「うわぁ、秋絵さんと雪子さんと望お姉ちゃん、ありがとう!」
「で、これはつー君にね。代金と一緒だから」
「あ、ありがとう」
と、各々にお土産を貰って6人でお喋りした後、「じゃあそろそろ帰ろうか」とコーヒーショップを出て駅までの途中で俺と光は望とライムの登録先を交換して帰宅したのだが…この時、既に俺の知らない処で静かな闘いが始まっているとは思わなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その夜、俺は早速ライムのメッセージを望に送った。
『今、通話出来るかな?』
『うん、大丈夫!あたしもつー君とお話し
したかったから』
「あ、望か?」
「つー君?改めて久しぶり!」
「ビックリしたよ。まさか秋絵と雪子の仲良しが望だったとは予想も出来なかったよ」
「あたしも驚いたわよ。秋ちゃんや雪ちゃん達と仲良しだったなんて」
「それにあの時の子が望だったなんてな」
「ホント、あの時のマナー知らずの男の子がつー君だとはね」
「それはあの時に謝ったじゃないか…」
「ふふふ、冗談よ」
「そう言えば秋絵達には撮り鉄な事、話していないのか?」
「うん。やっぱり女の子で鉄な趣味って言い難いし…」
「あ~、それは光も言ってたな」
「えっ?光ちゃんも撮り鉄なの?」
「いや、あいつはどちらかと言えば乗り鉄だな」
「そっかぁ。でも光ちゃんもあたしも、鉄になったのはつー君のせいだからね?」
「それは…そうだな」
「…変わらないなぁ、つー君って」
「えっ?何で?」
「だって幼稚園の頃、あたしや光ちゃんがつー君を困らせる事を言ったりしたりしても笑顔で受け入れてくれたじゃない」
「まぁ、あの頃はね。さすがに今は違うと思うよ。この前だって…いや、これはいいか」
「…それってもしかしたら…秋ちゃんとの噂の事かな?」
「うっ、望も聴いていたのか!?」
「うん。さすがに相手が誰だかは話してくれなかったし、秋ちゃんも雪ちゃんもあたしがつー君を知っているとは思わなかったはずだから」
「それならいいか。本当に参ったよ、あれは」
「ホントに?案外とまんざらでも無かったんじゃないの?秋ちゃんって結構可愛いと思うし」
「あのなぁ、望までそう言うのは止めてくれよ。秋絵は単に小学校の時からの幼馴染みの一人なんだから!」
「ふふふ、これも冗談よ」
「ったく、シャレにならんわ」
「ならば、つー君って誰かと付き合っているの?」
「こんなモブを好きになるヤツなんて物好きは居ないだろ?だから誰も居ないよ」
「………じゃああたしにもチャンスが…」
「えっ?今何か言った?聞こえなかったんだけど」
「うぅん、何でもない。今日はもう遅いし、また今度逢ってお話しよ。それと一緒に撮影とか」
「そうだな。じゃあ、おやすみ!」
「おやすみなさい」
俺は(久しぶりに初恋の子と話せて嬉しいなぁ)と思いながらベッドに入ったけど、その晩はなかなか寝付けなくて翌朝は寝不足で散々な目に遭ったのだった。
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