第8話 対決と撃退
月曜日は何も無いまま終わり、火曜日も変わらず。が、水曜日になって向こうが動いた。それは昼休みも終わろうとする時間、教室の入口近くに居た女子が「秋絵~、3年の先輩が呼んでるよ~」と声を上げた。その声に俺、晃一、雪子と秋絵が反応したが秋絵以外は周りに悟られない様に教室の入口を見る。あれは…神田じゃないな、確か神田の取り巻きで中野とかいうヤツだ。中野は秋絵に何かを渡すと帰っていった。
俺たちは秋絵に「何を渡された?」と訊くと秋絵は「これ」と封筒を出した。
「中を見て構わないか?」
「うん」
中には手紙が入っていて『今日の放課後、第2特別教室の裏で』と書いてある。あそこは確かに周りからは死角になっていて告白場所として有名な場所だ。俺は秋絵と雪子に再確認の意味で「実行して構わないな?」と言うと二人は黙って頷く。こうなればやるしか無いと晃一に「じゃあ計画通りに頼む」「おぅ、任せろ!」
俺たち2年生の教室は2階で3年生は3階だ。なので指定の場所に行くには必ず2階を通過するんだが、問題は階段が東西2ヶ所って事。そこで俺と晃一で各々の階段を観察していると晃一から『ターゲット4、通過』とメッセージが来た。4人って事は神田と中野の他に日野と高尾も居るっての事か。
俺たちは一旦合流して再度の打ち合わせ。俺が「恐らく指定場所に来るのは先ずは神田だけだろう。3人は何処かに隠れている筈だから晃一は見つからない様に注意して手筈通りに頼む」「分かった、無理するなよ」「おぅ!」
指定場所へ近づくと自分でも判る位に心臓がバクバクいう。それでも意を決して神田の前に出ると努めて冷静にこう言った…
「秋絵なら来ねぇぞ」
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「ええっと、お前は…那須さんの付録でおまけの様に居る上野だっけか?」
「そうですよ、付録でおまけの上野です。陸上部で短距離エースの神田先輩に名前を認識してもらえるなんて光栄ですね」
「で、何でお前が居るんだ?」
「そりゃあ大事な幼馴染みを守る為ですよ、神田って毒牙からね」
「なにぃ!」
「立川さんの件も有りますし」
此処でわざとこの話を出すと神田は明らかに動揺する。
「俺も立川さんに関する噂は聞きました。でもそれって神田先輩が意図的に流したという情報も聴いてます。俺は幼馴染みを同じ立場にしたくないんで」
「うるせぇ!」
そう神田は言うと俺に殴りかかって来た。俺はわざと殴られて大袈裟に倒れかかったが実際は猫パンチ程も効かなかったけど、これも雪子からの神田は短気で手が早いとの情報で聴いていたので計画通り。更に俺は「まさか先輩、これで終わりっすか?」と煽ると「っのやろう!」と2発目が来た瞬間…
スッと橫に動いて神田の拳を交わし、背後に回って奴の右腕を掴んで捩じ上げた。同時に奴の顔が苦悶の色と共に歪む。こんなところで工場の職人さん、通称ゲンさんから教わった護身術が役立つとは思わなかったけど、隠れていた取り巻き連中が現れた。
「あれぇ~先輩方、どうしたんですか?」と江●川コ◆ンみたいな口調で言うと神田は言った。
「は、離せっ!」
「いや、俺は『正当防衛』ですよ?違いますか?」
「テメェ…」
「ならば立川さんの件と今回の件、全て学校側へ通報しますが?」
「証拠は無いだろうが!」
「それも言うと思いました。おーい、晃一」
そこにはスマホで動画を録画しながらICレコーダーをかざす晃一が現れた。更に俺の計画には無かった事が…晃一の後からクラスの屈強な連中、主に運動部のやつらが神田と取り巻きを囲う様に出て来た。
「みんな…何で?」
「何言ってんだよ、クラスメイトの為なら俺たちは先輩でも筋が通らない事は許さねぇよ」
「そうだぜ、上野一人で抱え込むな!何だかんだ言ってもクラスの仲間だからな」
「みんな…ありがとう!」
そう言うと俺は神田達に向かって言った。
「先輩、一つ取り引きをしませんか?」
「取り引き?」
「はい。先輩は今後二度と秋絵に関わらないと約束して下さい」
「で、代償は何だ?」
「今撮った動画を俺たちが卒業するまでは保存しておきますが、何事も無ければ先輩の目前で削除します」
「約束をもし、破ったら?」
「学校側どころか全世界に公表ですね、つまり動画サイトへ投稿って事です」
「……分かった。約束する」
こうして俺は晃一だけではなく、クラスのみんなに助けられて厄介事を片付けられたのだった。
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