第6話 厄介事

「あ~あ、やっぱり今日は雨かぁ」

 日曜日の朝、ザーという雨音で眼を覚ましたのは8時を少し過ぎた頃。昨日は国語の宿題が終わったのが17時近くになってしまい、光に約束した買い物には行けず…頬を膨らませて拗ねた光には来週の週末にアイスクリームを奢るって条件で機嫌を直してもらった。


 さて、雨の日曜日で用事は無いしどうしようか?そんな事を考えながら部屋着のままリビングへ行くとトーストを咥えている光さん一人だけ。


「おはよう。光一人だけ?」

「お兄ちゃん、おはよう。お父さんとお母さんならあたしが起きてリビングへ来たのと入れ替わりで出掛けたわよ」

「何処へ?」

「お母さんは買い物って言ってたけど、また何時ものドライブデートじゃない?」


 父さんと母さんは仕事が休みの時に時々、二人でドライブへ行く事が有る。新婚当時は工場の経営を軌道に乗せるのに一生懸命でロクに二人きりの時間が無かったというし、俺や光が産まれてからは尚更だ。なのでその埋め合わせって意味も在るんだろうが、両親が何時までもラブラブなのは結構な事ではあるな。


「光は今日の予定は?」

「雨だし、今日は一日出ないと思う。お兄ちゃんは?」

「俺も雨じゃあ撮影に行く気も起きないし、宿題も終わったから一日中ゲームかな」

「じゃあお昼頃になってお腹空いたら言って、あたしが何か作るから。その代わり夕飯はお願いね」

「あいよ」そう言うと俺は自室へ行ってノートPCを開いて起動させ、ブックマークしてあるサイトをクリックすると…『~♪軍これ』とタイトルコールと共にゲームが立ち上がった。


『軍艦これくしょん・通称 軍これ』とは太平洋戦争辺りの軍艦を美少女に擬人化させて敵と戦うオンラインゲームだ。本来はゲームのプラットホームサイトは18歳以上じゃないと登録出来ないのだが、俺は父さんに承諾してもらって父さんの名義で利用している。時々、アイテムの為に課金する事も有るけど必ず父さんには了解を取って月間3000円以内と約束している。


「さてと、今日のデイリー任務っと。今週のウィークリー任務は…よし、済んでるな」「よし、任務の為に出撃出撃っと」「あちゃー、大破しちまったか…」と、その時、不意に後から「また女の子を脱がしているの?」


 このゲームのキャラクターは敵の攻撃でダメージを一定以上受けると中破・大破状態になるのだけど、それってキャラクターの着ている服が破れてキャラクターによってはかなりの露出になる。それを通称「脱がす」と言うんだが一度しっかりと光に視られて以来、このゲームをしていると光から「女の子を脱がしている」と言われてしまう。


「なななな何だ、光さん!?」

「そんなに狼狽えなくても…」

「デ、ナニカゴヨウデショウカ?」

「お兄ちゃん、まだおかしいよ?」

「すぅ~はぁ…はぁ、落ち着いた。んで?」

「もう12時半だけど、何か食べる?」

「そんな時間か、そろそろ食べないとなぁ。じゃあ任せた」

「は~い」


 暫くすると光が「お兄ちゃ~ん、出来たよ~」と呼ぶ声が聴こえたのでリビングへ行くと、皿に盛られたスパゲッティが二つ。いわゆるナポリタンだが

「市販のソースを使ったの?」

「ううん、ピーマンと玉ねぎ、ウィンナーが有ったから炒めてケチャップと塩コショウで味付けしただけ。どう?」

「うん、美味しい。いい奥さんになれるな」

「お兄ちゃん…褒めても何も出ないわよ」

「あ、バレた?」


 準備は光にお願いしたので俺が片付け、ゲームの続きをすべく部屋に戻りPCの前に座ると…ピコン♪とライムの通知音。今日は誰だ?と思ってスマホを見ると雪子からだ。


『今、通話って出来る?』

『大丈夫だよ』


 すると直ぐに雪子から着信が有った。

「あ、翼君?」

「どうした?」

「ちょっと相談と言うか…」

「何か有ったのか?」

「秋絵の事なんだけど…」

「秋絵の事?」

「うん、実は…」


 雪子はそう言うと話を始めた。そして、それは「はぁ、仕方ないから俺がやるしかない案件か」と直感的に思ったのだった。

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