第4話 妹

 なんだかんだと最寄駅に降りたのは18時を少し回っていた。電車を降りる直前、母さんからライムのメッセージが来ていたので確認すると『仕事が終わらないので夕飯は二人でお願いします、代金は後で返すから』と手を合わせるスタンプと共に来た。毎年だけど年度始めでGW前の今頃や年末、年度末は母さんの書類仕事が増える時期。父さんも社長で工場長って立場から先に帰る訳にはいかず、二人揃って帰宅は23時近い事もしばしばだ。


 俺は夕飯をどうするか、考えながら商店街をゆっくりと歩いて行く。「たしかサ●ウのごはんは有るしインスタントの味噌汁も有ったハズ…スーパーで何か買うか」と商店街の中程に在るスーパーマーケットに入り、鮮魚売場に行くとちょうど半額シールを貼っているところ。刺身の3種盛りが手頃な価格になったので二つ買ってスーパーを出ると今度は早足で歩いて帰宅。


「ただいま~」と玄関で言うも誰も返事は無い。父さんと母さんはまだ工場だから当然だが…リビングへ行くとワイヤレスイヤホンを耳にして中学校の制服のままソファの上で寝っ転がって雑誌を眺める妹の姿。俺が帰って来た事に全く気付いて無いらしい。仕方ないので近寄って


「おいっ!帰ったぞ」

「あ、お兄ちゃん。お帰り~」

「お前なぁ、誰も居ないからって何だよ、その格好は…」

「ん?中学の制服だけど?」

「論点が違う!下半身だよっ!」

「あ、見えてた?お兄ちゃんなら別に気にしないけど…妹の下着見て興奮したのかな?」

「…はぁ、んな訳無いだろが。それより夕飯にするよ。お前はごはんを二つチンしてくれ、俺は刺身の用意と味噌汁の準備するから」

「は~い」


 妹、上野 ひかり。俺の二つ下で中学3年生だ。父さんの家系は判らないけど母さんの家系は下の子の方が背が高いって特徴が有る。母さんの妹さん、俺の叔母さんも母さんより高いんだけど、俺と光の場合も同じで既に俺と同じくらいの身長が有るんだよなぁ。しかも顔は母さん似で、いや似てるなんてレベルではなく母さんが産まれたばかりの俺を抱いている写真を見たら光が赤ん坊を抱いている様に見えたくらいだ。そんな容姿で母さん譲りの明るい性格、男子からの人気は勿論の事で女子からも人気が有ると聴いた事が有る…が、趣味が『残念過ぎる』んだよね。まぁ、その責任は1/4は母さんで3/4は俺にあるんだけど…


 母さんは俺が幼稚園に入る頃には午前中は家事を済ませ、小学生だった叔母さんが学校帰りに来てくれて仕事に行き、1歳だった光と留守番をしていた。そして俺が幼稚園から帰ると交代して二人で留守番をしていた。当時は工場の2階が住まいだったから両親としては安心だったのだろうが、1歳児と幼稚園年少児が留守番って或る意味無謀とも言える。が、そんな時は必ず母さんは「翼はお兄ちゃんなんだからね」と言って留守番を任されていた。そうは言っても俺を放置って訳ではなく「男の子だから乗り物、電車の絵本を与えておけば退屈しない」と単純に考えて何冊もの絵本を貰い、それが俺の鉄ヲタの原点だ。それだけなら問題は無かったのだが…


 光が2歳くらいになると動き回り、時には悪戯する様になると俺は母さんから「お兄ちゃんは何していたの?」と叱られる事を恐れた。そこで俺は光を膝の上に座らせて一緒に電車の絵本を眺る様にした。これなら光が動いても何とか抑えられるし母さんから叱られるリスクは減る。4歳児の浅知恵ながら上手くいったなと思ったら…いつの間にか光も絵本を食い入る様に眺め「お兄ちゃん、この電車って何?」「これカッコいい、乗りたい!」と沼に嵌まり…中学に入る頃にはすっかり鉄ヲタ、特に乗り鉄と化してしまった。


 そんな妹と二人で夕飯を食べていると

「お兄ちゃん、機嫌良くない?」

「何で?」

「時々難しい顔してるよ?」

「まぁな…」


 今日の出来事を話すと光さん

「う~ん、その女の子ってそんなに性格悪く無いと思うよ」

「えっ?」

「あたしも経験有るから解るけど、やっぱり女の子で鉄な趣味の子って少ないじゃない?」

「確かにねぇ」

「で、お兄ちゃんも女の子だから撮り鉄じゃないって判断しちゃったんでしょ?それが面白くなかったんだと思うよ」


 そうか、俺は身近に光が居たから違和感が無かったけど、女の子が鉄な趣味ってやっぱり女の子ならではの苦労というか苦悩が有るのか…そう気付くと反省しながら片付けを済ませ、光に「じゃあ宿題を済ませて寝るわ。お前も遅くならないうちに寝ろよ」「は~い、おやすみ!」そう言って部屋に行き、宿題を半分くらい終わらせて布団に入った。

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